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こうすれば少しは暖かいよ。

 ライアーを信じると誓ってから一ヶ月が経とうとしていた頃、突然サトウが「二人で世界を見てきたらどう?」と言ったのが事の始まりだ。

 一度も屋敷を離れたことがなく、外の世界を見たことがなかったライアーは物凄く行きたそうにしており、更にサトウからの頼みもあり僕はその話を受け入れた。

 サトウからの頼みというのは、外の世界で生活している娘達の様子を見てくるついでに、手紙を渡してきて欲しいというもの。

 僕自身、この世界をゆっくりと見て回ったことがなかったため、口に出してはいないものの、乗り気だった。

 旅の準備はすぐに終わった。

 準備と言うほどのものではない。サトウから預かった手紙に、携帯食料数日分、そしてお金。この三つだけだ。

 食料は数日分あれば最初の目的地には辿りつけるため十分。水分は魔法で生み出せば持ち運ばなくてもいい。着替えについては浄化魔法をライアーが覚えているので清潔のままでいられる。

 お金は昔サトウが見つけた魔法の革袋にぎっしり入っているため、お金の心配はしなくても大丈夫だろう。

 僕のポーチには魔法の革袋と空いた所に携帯食料を入れ、ライアーの方は手紙と携帯食料を入れている。

 



 今日はいつも以上に寒い日だ。

 葉は枯れ落ち、枝だけとなった木々の景色の中に、数日前に振った雪が所々に残っている。そんな中、大きな屋敷がぽつんと存在しており、その門前に僕達はいた。

 黒いスーツ姿のサトウに、何時も通りメイド服を着ているマリア。

 ライアーがマリアとサトウの二人とお別れを済まし、隣に来る。


「カナメ君、僕の頼みはゆっくりでいい。それと娘を頼んだよ」

「カナメ様、妹をお願い致します」


 二人の言葉に頷いて返す。

 一つ息を吐けば、その寒さから白い息が出てくる。

 あぁ、寒い。


「いってきます」

「マスター、お姉ちゃん! いってきますっ!」


 


 

 森を歩いていると、殆どが影の中であり、かなり寒い。防寒対策はしているというのに、手足の指先がぴりっとした痛みに継続的に襲われている。感覚もなくなってきている感じがする。

 手袋やライアーお手製のマフラーの他にも服の上に羽織るクロークと呼ばれる布があっても寒い。

 僕とライアーのクロークは袖がなく、首元で紐で止めれるようになっており、雨の日用にフードまでついている。

 このクロークには勇者時代かなりお世話になっており、野宿の日はクロークが布団代わりとなる。

マフラーのおかげで首辺りは暖かいが、手袋があっても指先は冷たい。


 段々積もっている雪が減って来ており、今ではぽつりぽつりと残っているだけだ。

 歩き始めて既に三時間、未だにこの大きな森の終わりが見えてこない。


 一方でライアーは僕みたいに指先がかじかんでいるということもなく、まるで寒さを感じていないように見える程元気だ。

 

 体力的には全然疲れてはいないのだが、寒さによる精神ダメージがかなりきている。

 

「あ、オーガだ」


 この森を歩いているとおよそ十数分に一回、魔物と遭遇する。

 ライアーの言ったオーガはこの森では弱い部類であり、ライアーでも赤子の手をひねるように簡単に倒すことが出来る。

 しかし、オーガは一般的に一人前と認められた者が挑む最初の壁であり、一般的には中堅クラスの強さだろう。とはいってもこれは千年前の話で、今はどうなっているかは知らないけど。


 今回出会ったオーガは何もする事ができず、ライアーに首を落とされた。


 震えながら歩いては敵と遭遇し、元気なライアーが瞬殺し再び歩き始める。

 これの繰り返しであり、しばらく繰り返すと、敵が出ても僕は歩き続け、少しでも森から抜けだそうとしていた。


 屋敷を出て六時間。途中歩きながらではあるが昼食を済ませており、既に太陽は真上を超え、もうすぐ沈み始めようとしていた。

 そしてようやく森をぬけ出すことが出来た。


 森を抜けた先には遮蔽物がない平原。時間的にもちょうどいいか。


「今日はここまでにしようか」

「うん、じゃあ燃えそうな枝を探してくるね」



 焚き火で暖を取りながら夕食を済ませ、焚き火の近くでクロークに身を包んで横になる。

 満天の星空を眺めていると、もぞもぞと動く気配を感じた。気配がした方へ体を向けるとライアーがいた。


「この布があっても寒いね」


 ライアーは更に近づいてきて、ギュッと抱きついてきた。 


「こうすれば少しは暖かいよ」


 何故か焚き火よりも暖かく感じる。その心地よさからか、僕は優しく抱き返す。そして確かなぬくもりを感じながら眠りについた。


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