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偽物が本物を超えることもある。

――君の右目と左腕、そして右足は僕が作らせて貰ったよ


 余りの驚きに声が出そうになる。何度か左手を握って開いてみるが、反応は問題ないし違和感も全く無い。


「君のことは君が話したくなった時でいい。さて、僕は途中で放り出してきた作業が残っているんでね。何かあったらマリアかライアーに言ってくれればいい」

「では、私も夕食の準備が有りますのでこれで失礼致します」

「あ、ボクも手伝うよっ!」


 出て行く際にサトウは態々僕の方へ近づいてきて「偽物も捨てたもんじゃないだろう?」と言い残した後、二人を連れて部屋を出て行った。


 思い返せば、最悪の気分だったというのに、さっきの僕はそれが嘘だったかのように話を聞いていた。

 けれども、こうやって一人になるとあの時の光景が、言葉が頭に浮かんで胸糞悪い気分に戻ってしまう。


「晩ごはん持ってきたよっ!」


 銀髪の少女がトレイに夕食を載せて持ってきた


「このスープはボクが作ったんだよ。ボクの自信作なの。それでこっちのツイックのクリーム煮込みはマスターの大好物で、こっちのサラダはボクとマリアが育てた野菜を使ってるんだよ」


 トレイごと夕食をテーブルに置くと、次々と話し始める。

 この少女達なら無いとは思うけれど、中に毒が入っている可能性がないとは言えない。まぁ知り合って一日も経っていないから本性隠している可能性とかもあるけれど。まぁ、僕の事を知らない様子だったし、それなら僕を殺そうとする理由もないだろうから大丈夫だろう。


 それに、もう毒が入っていて死んだならそれはそれでいいかなと思ってる。

 かつて仲間と馬鹿やって楽しかった日々を思い出す。それと連鎖するように裏切られた時のことも思い出してしまう。怒りもあるけれど、それ以上に虚しく、悲しく、そして寂しくなる。

 この世界に来てからは常に仲間と過ごしてきた。そのため僕にとって仲間というのは何よりも大切な存在だった。それを失ったならもう別に生きていなくても、死んでもいいかもしれない。


「……はぁ」

「えっと、えっと。た、食べないと元気になれないよっ! それに絶対に美味しいから食べて欲しいな」


 そうだった、少女が夕食を持ってきていたんだった。

 もう毒が入っていようと入ってなかろうとどっちでもいいし、何より腹減ったから食べよう。


 テーブルの椅子に座り夕食に手をつける。


「あ、食べるときはいただきますって言わないとダメだよ」


 この世界ではそんな事言わないんだが。あぁ、サトウが教えてるのか。

 

「いただきます」


 この言葉を言うのは何年振りだろうか。召喚されてしばらくは言っていた気がするから大体五年か。


「キミの名前を教えて欲しいな」

「……カナメ。君はライアーだっけ」

「え、あ、うん。そうだよ。カナメっていうんだ、いい名前だね」


 僕が答えるとは思っていなかったのか、驚いた様子を見せるがそれも一瞬の事。すぐに眩しい笑顔に戻った。


 少女の自信作というスープに口をつける。美味い。何か懐かしい感じがする。


「もしよかったらカナメの事教えてほしいな。そしたら――」


 そういえばアイツが作ったスープも美味かったよな――、


――仲間? 何言ってんだカナメ。お前は仲間でも何でもねぇ、ただの兵器だ。兵器にはちゃんと日頃から手入れしてベストな状態を保っていねぇといけないだろ? そういうことだ。


――私達がここまで強くなるのにどのくらい時間を掛けたと思ってるの……。それなのにお前はッ! 大して努力もせずに!


――強くなられすぎると、最後大変だから毎日食事に毒を仕込んで弱らせていたのに気が付かなかったの? 大して効いて無さそうだったから途中から致死量以上に入れてたんだよ?


 憎しみ、怒り。そして悲しみの気持ちがこみ上げる。


「ご、ごめんね。嫌なこと思い出させちゃったんだよね……、……ごめんね」


 謝罪の言葉を口にして逃げるように部屋から出て行った。




 次の日、起きたら銀髪の少女がベッドの隣にあるテーブルでうつ伏せの状態で眠っていた。

 体を起こすときに僅かに出た布の擦れる音で少女が目を覚ました。


「……ん、あ、カナメおはよう」


 すぐに朝ごはん持ってくるねと言い残して元気よく走っていった。

 起きてすぐに走るのってきつくないんだろうか。

 それにどうしてここに居たのだろうか。


 取り敢えず外でも眺めようか。

 ベッドから降りて、両開きの窓を開け、そこから外に向けて手を伸ばしてみるが、途中で見えない壁に止められる。

 やっぱり今日もあるね。

 

 窓は見えない壁に阻まれている状態だけど、この部屋の出入り口のドアからは普通に廊下に出ることが出来る。トイレのついでに廊下にある窓でも試してみたけれど全滅。


 要するに逃げられないということ。

 

 窓から外の景色を眺めているとドアの開く音が聞こえる。

 少女がどこに朝食を取りに行ったか走らないけれど、早すぎる。まだ一分と経っていない。

 部屋の入口の方へ振り返ると、この部屋の主であり、少女とメイドのマスターであるサトウが立っていた。


「少しお邪魔するよ」


 サトウは先程まで少女が座っていた椅子の前をこちら側に向け座る。


「君のことについては少し知っているんだ。嘘で塗り固められた偽りの話と隠された真実の両方をね。だから君が今どんな気持ちなのかというのも予想はつく。だからといって僕が君に何かをしようということはない。ただ一つだけお願いしたいことがあってね」


 嘘で塗り固められた偽りの話……?

 まぁそうだろうね。もう用済みだから勇者を裏切りました何て国民に言えるはずもないだろうし。

 何かのトラブルで無念の死を遂げた悲劇の英雄か、適当に悪事をでっち上げて実は悪者で何かをしでかそうとしたため仕方なく討伐したとかだろうか。

 まぁ実際にはかろうじて生き残ったんだけど、別に死体がなくてもあの状態なら塵一つ残さず燃え尽きたと考えるだろうしね。


「あの子が君を気にかけているんだ、どうにか元気になってほしいと。そして君と仲良くなりたいとあの子は思っている」

「友達になれとでも?」

「いや、そんなことは言わないさ。友達というのはお願いしてなるものじゃないしね。ただ、あの子が君に元気になってもらおうと、仲良くなろうと頑張っている間にいなくなられたらちょっとあの子が可哀想でね」

「少女が諦めるまでここからいなくなるなってこと?」

「そういうことだね。あの子があそこまで本気になっているのは初めてなんだ」


 まぁこの新しい目と手に足をくれた御礼として引き受ける。

 流石に助けられて何も返さないなんてことはしたくない。

 


「ありがとう。そろそろライアーが戻ってくるだろうから僕は戻るとしよう」


※私達がここまで強くなるのにどのくらい時間を掛けたと思ってるの……。

努力についてはおいといて、何十年も努力してたどり着いた領域を数年で追い抜かれたら悔しいよね。


※毎日食事に毒を仕込んで弱らせていたのに気が付かなかったの? 大して効いて無さそうだったから途中から致死量以上に入れてたんだよ?

 なにかのテレビで夫を殺すために毎日食事に毒を仕込んでいるのを思い出した。というよりももしかしたらそれが元ネタかも


※シンヤ・サトウ

 ただのイケメン。セリフもたまにイケメンなのがあるしね


話の内容を思い出すために読み返して一言。

ライアー可愛すぎ。



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