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元勇者保護される。

 薄っすらと目を開くと見知らぬ天井が目に入る。窓から入り込んでいる陽の光が顔に当たり、眩しさと暖かさを与えてくる。知らない天井だが、見る限りでこぼこしておらず、隙間というよりも継ぎ目すら無いため、恐らくは魔法を用いて作られているのだろう。一般市民は魔法を用いて家を作るなんて高価な方法は取らないし、取れない。つまりここの所有者はそんな手段で家を建てられるほどの金持ちということ。


「……ん」


 陽の光の眩しさで声が漏れる。

 体を起こし周囲を見渡すと、絨毯に椅子、ベッド、布団、テーブル等部屋に置かれている物はどれもが質の高い高級品。

 これほどのものを揃えることができるのはかなり稼いでいる商人か、貴族や王族くらいだろう。

 だが、王族や貴族が僕を助けるという事はないだろうし、あるとすれば稼いでいる商人か。

 しかし、あの状況から助かったのか。

 一体誰が……?


「は……?」


 僕は今左手を顎に当てて考えていた。そんな馬鹿な。左手は肘から下を切り落とされてないはずだ。

 まさかと、急いで布団を引き剥がし、魔法で吹き飛びあるはずがない右足の場所へ目を向ける。

 そこには傷一つ無い右足が存在していた。

 それに今更だけど、あの戦いで右目を失ったというのに、今は視界が狭まっていない。

 まるであの戦いが全て夢だったかのように綺麗サッパリと傷が消えている。

 夢ということはない。けれども、どうして全ての傷が治っているのかがわからない。

 小さな傷ならばともかく、右目、左手、右足が元通りというのはありえない。いや、実際にこうして元通りになっているんだけども。

 治癒薬や治癒魔法では傷口を塞ぐという事はできても、失くなったものが生えてきたりはしない。失明の場合は視力が戻ることはないし、腕や足は失くなった場所で傷口が塞がるだけ。


「あ、目が覚めたんだ。ちょっと待ってて、マスター呼んでくるから!」


 ノックの音が響き、シルバーブロンドの髪を腰辺りまで伸ばした少女が入って来たと思ったら、すぐに走り去っていった。


 それからほどなくして少女は男を連れて戻ってきた。先程の少女の言葉からしてこの男が少女の言っていたマスターなのだろう。

 マスターという言葉から二人の間には上下関係があるという考えに至った。親子等ならマスター何て呼ぶことはないだろうし、一番ありそうなのは奴隷とその主人とかか。いや、奴隷ならばマスターではなくご主人様か。まぁいいや。


「僕の名はシンヤ・サトウ。ただの人形師ドールマスターさ。こっちは僕の娘のライアー」


 日本人っぽい名前の人なんてこっちの世界に来てからは会ったこと無い。判断しにくいけれど僕と同じで日本からこの世界に来た人なんだろうか。


「よろしくね」


 ライアーと呼ばれた少女はそう言って微笑む。その微笑みは男という存在ならば誰もが惚れてしまいそうな程で、最悪の気分だった僕でさえ魅入った。

 この世界で一番信頼し、気を許していた仲間に裏切られ、殺されかけて無限に湧き上がる負の感情を押し込めている僕でさえも。


「まずは、先に言っておくことにしよう。ライアーは人ではない、人形だ」


 この目の前にいる少女が人形……?

 サトウに操られて動いているといった様子には見えないし、少女の口から確かに声は聞こえた。人形ならば喋らないだろう。それに表情の変化もあるように見える。


 あぁ、そうだった。ここは魔法が存在している世界、こういうことが不可能かどうかで言えば可能だろう。過去にホムンクルス等似たようなものになら会ったこともあるしね。

 とはいえ、理論上可能といった次元の話であり、それを実現させるのには並大抵の努力や時間では無理だろう。

 

 そんなことを考えていると、ノックの乾いた音が部屋に響き、「失礼します」と一礼した後にメイド服を着た金髪の女性が入ってきた。


「マリアと申します。よろしくお願い致します」


 銀髪の少女は美しいと言うよりも、可愛いといった感じでありまだ幼さが残っているが、メイドの人は清楚で美しい系っといったところだ。

 それはいいとして、もしかしてこの人も……。


「予想はできているだろうけど、マリアもライアーと同じ人形さ」


 メイドの女性の方はメイド服で関節が隠れているからわからないけれど、銀髪の少女の関節はどうみても人形とは思えない。

 というよりもこの短時間でも二人共感情がある事がわかる。自己紹介の時は笑顔だった銀髪の少女も今では真面目な表情をしているし、もう人形という枠を超えてる気がする。


「一週間前、屋敷から少し離れた所で大きな魔力反応があってね。確認に向かったマリアがその場所で瀕死の状態の君を見つけて保護した」

「その場所はメギ平原?」

「いや、危険すぎて人がまず入ってこない森の中だね。ちなみにこの屋敷もその森の中に建ってるよ」


 元仲間を含めた連合軍と殺し合ったメギ平原ではないのか。

 魔力反応があったということは魔法で移動したのだろうか。だが、転移系の魔法は存在しない。もし存在したとしても、あの時僕は魔法を使えるほど魔力は残っていなかった。それにあの場所に居たのは全員敵だから僕を助けるような事はしないはず。

 

「運び込まれた君の状況は最悪だった。知っているかもしれないが、回復魔法というものは傷口を塞いだりはできるが、吹き飛んだものがまた生えてきたりなどはない」


 彼が話した内容は、戦う者ならば誰もが知っているであろう常識。

 魔法ですら治せないというのに僕の右目、左手、右足はどういうわけか元通りになっているように見える。


 僕が戦いを知らない人間だと思われているのか、それともあえてその常識を確認させたのか。


「右目は失明、左腕は肘から先は無く、右足も太ももよりも下は吹き飛んでいた。しかし、今の君は右目は見えるし、左手は指もあって物をつかむことも、剣を振ることもできる。右足もあるから今までどおり歩くこともできる。だが――――」


 男は一旦話を区切る。それにより、この場は静寂に包まれた。銀髪の少女も、メイドの女性も話すどころか、物音一つ立てない。

 外からの音もなく、まるで時が止まったかのように感じる。


「――――元通りに治ったというわけではない。君の右目や左腕、右足は本来の君の体ではない。いうならば偽物」


 偽物……、まさか。


「偽物とは言ったが、それは人工的なものであるからであって、機能性などは本物よりも優れている。自己紹介の時にも言ったけれど、僕は人形師ドールマスターだ」



――――君の右目と左腕、そして右足は僕が作らせて貰ったよ



2016/12/16 少し修正。話の内容に変更はありません。

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