おじさんと、おじいさんの冒険
ごめんなさい。眠たい勢いだけで。つくりました。
おやすみなさい。
「おじさん、そろそろ目的地ですよ。」
私は持っていたタバコをそっと排水溝に落として、たまっていた水分をほんの少し気体に変えた。
「あぁ、わかっとるわい。」
おじさんと言われた男は、カッと目を見開いてこちらをにらむ。
男は、僕にとってはおじさんだが、僕がおじさんだから、世間で言うおじいさんだ。
こんな夜更けにおじさんと、おじいさんが何をしているのか疑問に思うだろうが、僕自身、疑問である。
だが、そんなことはどうでもいい。
とりあえず僕は夜間ゴミだし禁止にもかかわらず、出されているゴミを本気で蹴り上げた。
自慢ではないが、僕のキック力を持ってすれば、幼稚園児程度ならひとたまりも無いだろう。
ゴミは目の前の民家の庭先に、着陸を成功させた。
「ふふ…。まだ、甘いのぅ…。わしゃ、ホットケーキがくいたいわぃ。」
あぁ、このジジイはもうだめだな。
僕は、冷ややかな視線をおじいさんに投げかけたが、そこは熟年の人生冒険者だからであろうか、まったく空気を読んだ行動をしてくれない。
パッ!
今の擬音は、ゴミが入った民家の電気がついた音だ。
「まいったな、見つかったかな?」
「なに、甘いのぅ…。見つからないのが任務。つまり死人にくちなしじゃよ。」
おじいさんからのヒントは、つまりこうだ。
見つかりたくなければ、踊るしかない。
だが、この方法をとっていいのであろうか、夜中に、おじさんと、おじいさんが踊り明かしていては、間違いなく通報される。
このまま、家主に謝れば、謝罪ですむかもしれない。
一瞬の沈黙の後、おじいさんの口元がゆがんだ。
「よく耐えたな。常人なら3秒で発狂していただろう。常にわしがパルサンを炊いていたからのぅ…。」
あぁ、このジジイは本当にダメなんだな。
そう思った刹那、向かいの民家から、時速3ノットという僕の中での体感速度で、竹箒が飛んできた。
すんでのところで、ソレをかわしたにも拘らず最近痛み出した腰が悲鳴をあげた。
「こんなところで、発症するなんて…。」
僕は呼吸を整えながら、視界の隅で民家を確認する。
筋肉隆々。雲おも貫かんとおぼしき巨漢が、門のところにたっているではないか。
「甘いのぅ…。見つかってしまうとは…。」
と人事のように話すジジイも、しっかりとみつかっている。
はたして、手負いの僕と、生命的に手負いのおじいさんで勝てるだろうか。
いや、おじいさんを当てにしてはだめだ。
ここは、若い僕が倒さなければ。
「何時だと思っている…。」
巨漢が静かに口をひらいた。
「ふぉっふぉっふぉ…。すみませんのぅ…。わし等は、旅に生き、自然を愛しむ、精神安定剤売りにございます。今日は、ここいらでスイカ泥棒を見かけましてな。もしよかったら、500円程度貸していただけませんかな?」
やめろ、ジジイ。これ以上挑発しても、ハンバーガーさえ食えなくなるだけだ。
「おい、男。おじいさんに指一本触れてみろ、俺が死んででもお前の家族を殺すぞ。」
僕がおじいさんを守るんだ。
「何いってんだ?お前達…。痛い目みんとわからんのか?」
「ふぉっふぉっ…。甘いのぅ…。わしゃ、今年で96じゃ。」
その言葉を合図に、僕は地面を蹴った。身軽ではないが、重力にはなんとか逆らえるようだ。
男の拳を、よけて。右ストレートだ。
痛い。クソ!避けれなかったか。ならば、こちらから仕掛ける。
水面蹴りだ!
ギャァ!!クソ!!足を踏まれた!!
ならば、ん?、あれ…?まっすぐ立てないな…。
「フィニッシュだな。俺の拳を2発耐えるなんて。一般人レベルだな。大したものだ。」
男が、とどめをさす為に振り上げた拳を、竹箒が制した。
「ふぉっふぉ…。若い者は宝じゃよ…。その芽を潰してはいかんのぅ…。」
おじいさんだ。
歪んだ視界のなかで、おじいさんが竹箒を構えて対峙している。
「ジジイ。先に殺されたいのか?」
「馬鹿を言うなよ?あっはっは!殺す!?君が?僕を!?」
あれ?おじいさん、口調違うくない?
「いいだろう見せてやるよ。96年の奇跡。真空後光剣をな…。」
言うが早いか、おじいさんは精神を集中させ、竹箒に力をこめて、一気に竹箒を真っ二つにした。
なるほど、100歳を前にして、なおもご健在だ。
竹箒の折れ端を、男に投げつけ視界を封じるとおじいさんは
男のわき腹に、ひじ打ちをいれる。
しかし、男はそのまま、腕を振り下ろした。
残っていた、折れ端でそれを受け止めたとき、男の骨の砕ける音がした。
その刹那、おじいさんの体が光に包まれ閃光とともに静寂は訪れた。
僕の周りには閑静な住宅街が広がっている。
そこには、男もおじいさんもいなかった。
「ありがとう。おじいさん。僕は、僕に残された時間を、精一杯生きるよ。たとえソレが、10年先、1年先、明日であっても。」
これは、後日分かったことであるが、パチカン市国の地下で太古の生物兵器が発掘された。
それは、1000年もの間、眠りについていたが、確実に生きていた。
現在、法王の力が巨大化し世界を脅かす存在になりつつある。
この発掘は、それに拍車をかけるであろう。
それを、僕はトーストをかじりながら見た新聞で知った。
ごめんなさい。早く忘れて、寝ましょう。
おやすみなさい。