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第7輪 昇格試験【模擬戦編】


 大型魔獣の咆哮と思われるものを聞いた次の日の午後、俺はギルドの2階にある会議室に来ていた。

 俺が来ると会議室の中には5名の男女が居た。俺が入って来たのをちらりと見ると、すぐに興味を失ったのか視線を前に戻した。

 俺が席に着くとその人はやって来た。


「やぁ、今回の昇格試験の試験官を務めるキャトルだ。今回の試験を受けるのはこれで全員だね。君たちにはこの後模擬戦をしてもらう。相手は私だ、遠慮は要らない、本気で来ると良い。これでも私はA下級だからね」


 5名+俺の6名はそれぞれ違うリアクションで頷いた。

 若い剣士風の男はバカにするように、魔術師風の女はしっかりと、盗賊風の男はその言葉を噛み締めるように、もう一人の熟練の剣士風の男は相手の実力を認めるように、弓使いの女は恐る恐る、俺は気負うでもなく普通に。

 それから俺達はギルドの裏手にある訓練場にキャト試験官に案内された。


      ◇  ◇  ◇


  訓練場に着くとキャトル試験官は2つに分けられた内の奥にある方に行き、真ん中に立った。


「さて、じゃあ、模擬戦を始めようか。最初はズィオ、君だ」


 彼女はそう言って、若い剣士風の男を指差した。

 若い方の剣士はズィオと言うらしい。


「ふっ、俺が一番最初か。試験官さんよぉ、本当に本気出して良いんだな?」

「あぁ、構わないよ。君は余程自分の腕に自信があるようだね」


 キャトル試験官をバカにするように尋ねるズィオだったが、キャトル試験官はそれを気にした風でもなく軽く受け流す。


「じゃあ、始めようか。私からは仕掛けない、君から来ると良い」

「じゃ、行くぜっ!」


 ズィオは素早くキャトル試験官に近付くとその右手の剣を振るった。が、


「ふっ」


 キャトル試験官に軽く受け流されてしまう。

 たたらを踏んで危うく転びそうになったズィオは何とか体勢を立て直し再度切りかかる。

 しかし、その悉くを全て受け流されてしまう。


「ふっ、はっ、やっ、しっ、せいっ」


 そして、何度か打ち合ったかと思うとズィオの剣が宙を舞っていた。


「あっ」


 剣を弾き飛ばされた剣を目で追っていると、


「戦っている最中に敵から目を逸らすなんて、随分余裕なんだね」


 自分の耳元で声がした。

 慌てて前を向くとその首に切っ先が突きつけられていた。


「くっ」

「はい、終了」

「なんか、口ほどにもないわねさっきの男」


 と、俺の隣に立って見ていた弓使いの女が話しかけてきた。


「あぁ、そうだな。一撃の威力は大きいのだろうが攻撃に重きを置きすぎて防御が疎かだ」

「へぇ、わかるのね」

「まぁ、な。っと、次が始まるぞ」

「次はー、ウアンさん、あなたね」


 そう言って、魔術師の女を指差した。

 魔術師の女はウアンと言うらしい。

 指名された彼女はキャトル試験官の前まで来ると、礼儀正しく一礼し、


「ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」


 と言った。


「うん、礼儀の点に関してはさっきの彼より数段ましね」


 そう皮肉っぽく言うと、


「ぐっ!」


 ズィオがダメージを受けていた。


「じ、じゃあ、行きます。『火よ、我が前に集いて火球となれ ファイアーボール』」


 ウアンが呪文を唱えると、彼女の前に火が集まり、段々と球状になっていきキャトル試験官に向かって放たれた。


「よっと」


 だが、キャトル試験官はそれを軽く避けると一気に距離を詰め、首に剣を突きつけた。


「終了、ね。礼儀正しくしてくれたから、良いこと教えてあげましょう。魔術師は近づかれたら終わりなのだから前衛職がいない場合はまず、相手の動きを止めること、例えは束縛系の魔法とかね。それで確実に当てられるような場面を作るようにすること。いい?」

「はい!ありがとうございました!」


 ウアンは勢いよく頭を下げると受験者の輪の中に戻ってきた。


「じゃあ、次は、ウーノ。君よ」

「分かった」


 熟練と言った感じの剣士の男はウーノと言うらしい。


「じゃ、始めましょ」

「行くぞ」


 静かに、しかし、素早くキャトル試験官との距離を詰めてその剣を振るう。

 これは受け流せないと思ったのか、キャトル試験官はそれを避けた。しかし、ウーノの返す刀がキャトル試験官を襲う。

 

「くっ!」


 キャトル試験官は避けきれずにそれを受けた。これを好機と見たのかウーノは押し込める力を強めていく。が、キャトル試験官は一瞬強く押し返し隙を作るとするり、と再び襲ってくるウーノの剣を避けた。

 避けられると思っていなかったのか、ウーノに一瞬の隙ができる。キャトル試験官がそれを見逃すはずもなく素早く剣を突きつけた。


「負けた、か」

「えぇ、でも筋は良かったわ。このまま精進しなさい」


 ウーノはその言葉を受け、小さく礼をすると輪の中に戻ってきた。


「どんどん行くわよー!次は、アイン、あなたよ」

「ほーい」


 アインと呼ばれた盗賊――人の物を盗むような盗賊ではなく、罠を解除したりする方―斥候的な役割を持つ―の

男は前に進み出ていく。


「俺っちは、こうゆうの得意じゃないんですけどねー」

「しょうがないでしょ、決まってるんだから。文句を言ってないでさっさと始めるわよ」 

「へいへーい。じゃ、行きますか」


 アインは懐から二振りの短剣を取り出すと右手のそれを順手で、左手のそれをを逆手で持った。

 そして、ひらりと舞うようにキャトル試験官に近づいていくと予備動作もなく自然な流れで攻撃を放った。


「っ?!」


 咄嗟に、と言った感じでキャトル試験官が避けると、試験官が今まで立っていたところに寸分の狂いもなく短剣が降り下ろされた。

 しかし、それを避けても攻撃が止む訳でもなく、2撃、3撃、4撃とアインは攻撃を放った。

 皆が驚いたのは、なんと言ってもアインのその身のこなしだった。


「くっ?!」


 右から、左から、前から、後ろから、下から、上から、実に様々な所から繰り出されるその攻撃にキャトル試験官は翻弄されているようだった。


「終了よ、あなたの実力は分かったわ……。ほんと、自信無くすわ、これでE級だって言うんだから」

「あー、緊張したわー」


 おちゃらけたように言うアインだが、その実力はE級のものではない、とこの場の誰もが思っていた。


「はぁ、じゃあ、次は、エナ、あなたよ」

「はーい」


 そう言って呼び出したのは弓使いの女だった。

 

「私もこうゆうの苦手なんだけど?」

「知らないわよ、そんなこと」

「デスヨネー」

「つべこべ言わないで早く始める」

「はーーーい」


 エナは背中に担いでいた弓を構え、矢をつがえ、それを放った。

 エナの放った矢はキャトル試験官の頭を狙って飛び、その剣に阻まれた。


「もういーでしょー」

「はぁ、ほんと貴女は、まぁ、いいわ、終了よ」


 エナはこちらに戻ってくると、あー、つかれたー、と言って床にどっかりと座った。


「じゃあ、次はあなたね、シンゴ」

「はいよ」


 呼ばれた俺は、キャトル試験官の前まで行った。


「あれ、あなた武器は?」

「ありますよ、ここに。サモン デザストル」


 デザストルを呼び出すと些か驚かれた様だ。


「あなたそれ、魔剣?」

「そうですけど、何か問題でも?」

「い、いえ、特に問題はないわ」

「じゃあ、始めても?」

「え、えぇ」


 めんどくさい、そういった感じで問うとなぜかデザストルから目を離さず是と答えてきた。


「じゃ、行きますよっ、と。はい、終わり」

「っ~~?!」


 めんどくさかったのでさっさと終わらせようと、キャトル試験官との距離を詰めてその首にデザストルを突きつけた。


「あ、あなた、どう、やって?」

「え、どうもなにも、普通に距離を詰めて」

「そ、そんな。見えなかった……」


 キャトル試験官は見えなかった様だ。

 すると、周りの皆が「おい、見えたか?」「いや、全然です」などと騒ぎだしたが気にしない。


「い、いいわ。これで全員終わったわね。では、これからのことを説明します。あなたたちには明後日パーティーとしてクエストに向かってもらいます、受けてもらうクエストはこれ、木漏れ日の森の盗賊退治です。盗賊に関しては皆殺しで構いません、連れてくる余裕もありませんし。そして、盗賊達は街道の商人を襲って拐っているようですので、その商人たちを救出してください。尚、盗賊達の持っていた様々な物はあなた達で分配をしてください。私も着いていきますが、飽くまで審査の為ですので。今回のクエストは盗賊達の皆殺しと、商人達の救出です。ランクが上がっていくと人を殺さなくてはならないときもありますので、慣れておくことをおすすめします。あ、あと適正がある、と判断されれば飛び級も可能ですので」


 ここから4日の場所にある木漏れ日の森。その森は昼でも薄暗く、じめじめとしたところらしい。

 行ったことはないので人から聞いた話だ。


「分かったら解散よ!明後日に向けて準備をしなさい」


 そう言われると俺達は訓練場から出て三々五々に散って行った。

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