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第5話 少年の夢と誓い

こ、こんなはずじゃぁ……ww

 

 キャリメル達の有り金を全てアイテムボックスに収納し、その場を離れようとしたときその声はかけられた。


「兄貴!ちょっと待って下さい、兄貴!」


 俺は自分に声がかけられているのか、それとも、他の誰かに声をかけているのか一瞬判断しかねた。

 しかし、だんだんと声が近づいてくるのが分かり、ようやく自分に声がかけられているのだと気がついた。


「何の用だ?」


 後ろを振り向くとそこに立っていたのは、人垣を苦労して乗り越えて来たのだろう事が良く分かるほどに息を切らした茶髪のそこそこ顔の整った年の頃16歳程の少年が立っていた。


「はぁっ、はぁっ、は、始めましてっす。俺はセナって言うB下級ランクの冒険者っす。宜しくっす」

「で、何の用だ?」

「いやぁ、さっきの戦いは凄かったっすね!俺も兄貴みたいに素早く動けるように鍛えていかないとって思ったっす!」


 俺はその人懐っこそうな笑顔と金髪から、ゴールデンレトリバーみたいでかわいいな、そう思った。

 勘違いの無いように言っておくが恋愛感情等では決してない。断じて、ない。


「それが言いたかっただけか?俺はもう行きたいのだが」

「行くってどこにっすか?兄貴はこの街に来たばっかりっすよね、どこに何があるのかとか分かるんすか?よかったら案内させて下さいっす!」


 俺はセナの言うことにも一理ある、そう思い案内を頼むことにした。


「そうだな、宜しく頼む」

「任せて下さいっす!じゃあ、案内始めるっす!今俺達が居るのが南街区っす、主に宿屋や商店街、鍛冶屋や武具屋なんかが軒を連ねてるっす。あ、冒険者ギルドもここにあるっすね」

「道具屋と武具屋に案内してもらえるか?魔物の剥ぎ取りの仕方が書いてある本や剥ぎ取りに使うナイフが欲しい」

「了解っす!じゃあ、俺に着いてきてくださいっす!」


 そう言って元気に走り出すセナの背中を苦労して追いかけていった。


「ここが、道具屋っす!冒険者に必要な大抵の物はここで調達出来るっすよ。流石に魔導書なんかはおいてないっすけどね」

「魔導書?」


 気になる単語が出てきたので思わず聞き返してしまった。


「魔導書って言うのは、そのまんま魔導の本っす!主に魔術師の人たちが読むっす!」

「読めばすぐ魔法が使えるようになるのか?」

「そんなことはないっすよ、飽くまでそんなイメージでやるとよいとか、理論とかがいっぱい書いてある小難しい本っすし知り合いの魔術師が『魔法はイメージだ!』とかなんとか言ってっすね」

「イメージ、か」


 魔法の才のスキルがあるから別に理論などは理解できなくても行使出来るのだろうが、その魔法がある、と確実に確信していないと使えないわけでどんな魔法があるのか知っておく為にも必要だろう。

 そう考え、目下の目標は金を貯めて魔導書を買うこととなった。


「まぁ、良いか。とりあえず必要な物を買ってしまうか……お、あったあったこれだな」


 俺は書棚に置いてあった『魔物の剥ぎ取りの仕方』と書かれた本の初心者向けと、中級者向けの物を手にとってカウンターへと向かった。

 合計で銀貨3枚だった。因みにキャリメル達からもらった(巻き上げた)金は、金貨2枚に銀貨6枚、銅貨が30枚だった。

 本はやはり高価な物のようだ。

「じゃあ次は武具屋に案内頼む」

「了解っす!」


 そう言って例に漏れず元気に走り出すセナの背中を苦労して追いかけていった。


「ここが俺がいつもお世話になってる武具屋っす!親父さんは強面で怖がられてるっす。でも腕は確かっす!」

「そうか、なら信用しても良いんだろうな」

「バッチコイっす!」

「何でテメーが偉そうにしてんだよ、セナの坊主」


 店内で騒いで居れば親父さんにも普通に聞こえるのだろう、店の奥から顔を出したのは怖がられてるの男だった。

 成る程、確かに強面だわ。ヤのつく自由業の人みたい、そんな感想を抱いた。


「あ、親父さんお久し振りっす!こちら、兄貴っす!」

「どーも、シンゴ・ミカミだ」

「キャクストン武具店店主のキャクストンだ、宜しくな」


 そう言ってニカっと笑って――笑ってもその顔は怖かった、というか笑った方が怖かった――突き出された手を握り、握手をする。


「にしても兄貴ってなんだよ、セナの坊主」

「兄貴は、あのウルフファングの四人を瞬殺したっす。だから、兄貴っす!」

「おい、人聞きの悪い事を言うな気絶させただけだ。殺しちゃいない」

「ほぅ、あの戦闘技術だけなら高ランクのあいつらを瞬殺か」

「戦闘技術だけなら高ランク?あんなに遅いやつらがか?」


 何しろキャリメル達は俺には歩いているように見えたのだから、その疑問はしょうがない。


「そうか、お前さんは相当な腕前の様だな。で、何の用で来たんだ?」

「魔物の剥ぎ取り用のナイフが欲しいんだが、あるか?」

「ちょっと待ってな」

そう言ってキャクストンは店の奥に在庫を探しに行った、そして、2分程で戻ってきたその手には2本のナイフを持っていた。


「これでどうだ?予備用にもう一本おまけして、銀貨1枚に銅貨15枚だ」

「親父さんそれ安くないっすか?」

「良いんだよ、未来の特Sランカーに今のうち恩を売っておくんだよ」

「特Sランカーか、本当にそうなればいいがな。その値段で買おう」


 そうして、俺はナイフ2本を買い、キャクストン武具店を後にした。

 次に来たのは、鍛冶屋だった。セナ曰く、ナイフや武器の手入れのときに場所が分からないと困るだろう、とのことだった。


「おやっさん久しぶりっす!」

「……なんだ、セナの小僧」

「小僧はないでしょ小僧は……っす」

「……それで、何の用だ」

「特にこれと言った用はないっすよ、今日は兄貴に街の案内っす!」

「……兄貴?」

「始めまして、シンゴ・ミカミだ。これから世話になることをあるかと思う、その時は宜しく頼む」

「……ニルメアだ」


 なんか、寡黙なおやっさんって感じだな。良いよね、そうゆう人。


「じゃあ、用も済んだし次に行くっす!」


 そうして、又走り出すセナの背中を俺は苦労して追いかけていった。


      ◇  ◇  ◇


「こっから先は西街区っす、って言っても殆ど闇市とスラムっすけどね。あと孤児院っすね。ここには余程の用がない限り来ない方が良いっすよ、面倒事が掃いて捨てるほどそこらにごろごろしてるっすから」

「覚えておこう」


 確かに、西街区の入口から見るだけでも荒んでいるのが良く分かる。と、気になるものを発見した。


「セナ、あれは?」


 そう言って俺の視線の先に居たのは、首輪をつけられた一人の少女だった。


「あぁ、あれっすか。あれは、奴隷っす」

「奴隷……か」


 何でも、自身の身を売ったり犯罪を犯したりした者が奴隷となるらしい。

 奴隷になると《僕の首輪》というものを強制的につけられるらしい。首輪には魔法がかかっていて、主人の命令に逆らったりするとその首輪が縮んでいき、奴隷の首を絞めるのだそうだ。他にも主人の命令でその輪を縮め、絞めることができるらしい。


「見ていて気分の良いものじゃないな」

「そうっすね、早く次に行くっす」


 そう言うセナの顔に一瞬だけ影が差したのを俺は見逃さなかったが、話さないということは話したくないのだろうと思い、見なかったことにした。


      ◇  ◇  ◇


「で、こっから先は北街区っす!主に領主様のお屋敷っすね。ここも余程の用がない限り来ない所っすね」


 そう言うセナの顔にはもう先程のような影は見られなかった。

 そして、視線を前に向けると見えてきたのはとてつもなく大きな屋敷だった。この街の領主のサルカンという貴族の屋敷だそうだ。

 因みに今このリファン王国は革新派、貴族派、中立派の3つに別れて争っているのだそうだ。革新派は新たな王国法の制定や他国の技術を積極的に取り入れるべき、と主張し、貴族派は他国に頭を下げてまでそのような事をするなど言語道断、貴族としての誇りを忘れたか、と主張し、中立派はどちらにも与しないか革新派と貴族派の争いを止めようと躍起になっているらしい。サルカンは貴族派らしい。

 そして、争いは年々激化しているとのことだった。

 因みに、1年は365日、1日はは24時間だそうだ。


      ◇  ◇  ◇


「最後は東街区っす!ここは、高級店と貴族街があるっす!魔法屋もここにあるっすよ、あと、ここの武具店にはマジックアイテムも売ってるっす!高いっすけどね」

「マジックアイテム?」

「そうっす、魔法が付与された武器とか防具、その他道具屋っすね。因みに付与っていうのも1つの魔法っす!」

「へー、そうなのか。金貯まったら見に来ようかな」

「そうっすね、それがいいっす!ところで、兄貴は宿は決まってるんすか?」

「あ、考えてなかった」


 色々あってすっかり失念していた、どうしよう。


「じゃあ、俺と同じ宿にするといいっすよ!雲雀亭ってところっす!一泊銅貨1枚で、そこそこいいところっすよ!」

「そうか、じゃあ、雲雀亭にするか。案内してくれ」

「こっちっす!」


 と言ってまた走り出すセナ。まったく、どこにあんな体力が残っているのやら。


      ◇  ◇   ◇


「女将さーん!お客さんつれてきたっすよー!」

「そんなに騒がなくても聞こえてるよ、セナ坊。それで、お客さんってのはこの人?」

「そうっす!俺の兄貴っす!」

「おや、セナ坊にお兄ちゃんなんかいたのかい?」

「気にするな、こいつが勝手に言ってるだけだ」

「そうかいそうかい、なついてるんだねぇ。私はこの雲雀亭の女将、ミレーヌだよ。それで、ここに泊まるのかい?だったら一泊銅貨1枚だよ」

「これで泊まれるだけ頼む」

 

 そう言って俺は銀貨1枚取り出した。


「銀貨1枚だと、10泊できるけど?」

「じゃあ10泊」

 

 銀貨1枚で10泊ということは、銀貨1枚は銅貨10枚分ということか。


「はいこれ、部屋の鍵だよ」

「ありがとう」

「兄貴、ちょっといいっすか?」


 俺とミレーヌの会話が終わったところを見計らって声をかけてくるセナ。その顔には決心の色が浮かんでいた。


「なんだ?」

「俺と手合わせして欲しいっす。それで、俺が一撃でも当てられれば俺とパーティー組んで下さいっす!お願いしますっす!」


 セナはガバッ!と頭を下げてきた。


「今日は街を案内してもらったからな、その礼だ。しかし、理由は聞かせてもらうぞ」

「分かりましたっす、でも人には聞かれたくない話なので街の外に行くっす」


 恐らく、先程奴隷の女の子を見て顔を暗くしていた理由と関係あるのだろう事は想像できる。

 そして、俺とセナは街の外に向かった。


      ◇  ◇  ◇


 街の外に出て、しばらく歩いたところに歩いた開けた場所に俺とセナは向かい合って立っていた。


「それで、俺とパーティーを組みたい理由ってなんだ?」

「俺達家族は貧しかったっす。それこそ、その日に食うものにさえ困っているほどに。でも、幸い俺には兄弟はいなかった、姉妹も。いたのは両親だけだったっす。でも、ある日急に父さんがいなくなって、家のテーブルに金の入った袋が置いてあったっす。それだけで何があったのか、俺にはわかったっす。父さんが自分を売って、金を作ったんす。でも、その金も次第になくなっていったっす。そうしたら次は母さんがいなくなっていて、またテーブルに金の入った袋が置いてあったっす。母さんも自分を売ったんす。だから、俺は冒険者になったっす……」

「父さんと母さんを買い戻す為にか?」


 その話は大方予想していたものと大きくかけ離れた訳でもない、想像に難くない話だった。


「そうっす、冒険者になって、金を貯めて、いつか母さんと父さんを買い戻すんす。だから、そのために、兄貴を利用するっす。それだけの実力がある兄貴なら、すぐに高ランカーの仲間入りするっす。だから、その兄貴とパーティーを組んで報酬を貰うっす。高ランクのクエストは報酬も良いっす。だか――」

「だから、すぐに高ランカーの仲間入りを果たすであろう俺とパーティーを組み、高ランクのクエストの報酬を貰い、両親を買い戻す為の資金の足しにする、とそういうことか……。はっ、甘ったれてんじゃねーよ。そんな方法で作った金で自分達を買い戻したなんて知ったら両親は悲しむぞ。それが分からないお前じゃないだろう。それに、生きているかも分からない」

「甘ったれてなんかないっす!!兄貴みたいな才能あるやつには分からないっすよ!俺みたいな凡人の悩みは!!強くなりたくて、でもなれなくて!さっさと高ランカーの仲間入りして金を稼ぎたいのに!それができなくて!でも、兄貴みたいな才能あるやつは!そんな俺を軽く飛び越えていくんす!その気持ちが分かりますか!?そんな方法で作った金で自分達を買い戻したなんて知ったら両親がどう思うか?生きているかも分からない?そんなのわかってるっすよ!!わかってても!わかってても……なにか、に、すがらなきゃ……俺みたいな弱いやつは生きられないんすよ……!」

「それが甘ったれてるって言ってんだよ!強くなれない?それ以前に強くなろうとしたか?自分より高ランカーの人達に教えを乞うことだってできたはずだ、それをお前はしたのか?お前は自分に精一杯頑張ったって言えんのか?頑張ることだって、才能だぞ?何かにすがることを悪いなんて言っていない、むしろすがらなきゃ生きていけないだろう。人間誰だって一人じゃ生きていけないんだよ!手前のことを弱いって決め付けてんのは、手前自身だろーが!!」

「っ……」


 言葉に詰まったセナに俺は畳み掛ける。


「サモン デザストル。藍玉離れててくれ。ほら、かかってこい。その腰に吊られてる2振りの剣は飾りじゃねぇって事を俺に証明してみろ!……お前から来ないのなら俺から行くぞ」

「分かったぞ、マスター」


 そう言って俺は歩いて項垂れているセナに近づき、徐に左拳でその顔を殴り付けた。

 殴られたセナは吹っ飛び、木に叩きつけられ地面に落ちた。


「ぐっ、かはっ」

「ほら、やられて悔しくないのか?苔にされて悔しくないのか?お前に少しでも誇りが残っているなら悔しいと感じるはずだ。少しでも悔しいと感じるなら、まだ強くなれるはずだ」


 そう言って、殴る、殴る、殴る。

 もう10発を越えただろうか、とにかくそれなりに時間が経ったとき、セナは地面に伏した。


「もう、おわりか。お前にはもっと根性あると思ったんだがな。期待はずれだった」

「……だ、……だ……だ、ま……お…って、ない」


 最後の力を振り絞って、といった様子でセナは立ち上がり、腰に双剣を抜き放ち構えた。


「まったく、起きるのが遅せーんだよ、バカ野郎」

「あ、あぁ…あ、あ、あぁぁぁ……!」


 ふらふらとした千鳥足でこちらに向かって歩いてくる。ゆっくりと、しかし確実に、自分の中にまだ微かに残る誇りを確認するように。

 やがて俺の近くまで来て、右の剣を俺に向かって振り下ろしてきた。

 それを俺は……。


「パーティー成立、だな。セナ」


 気絶して倒れてくるセナを、右の剣を俺に向けたまま倒れてくるセナを、俺は、甘んじて受け入れた。


      ◇  ◇  ◇


 気絶したセナをミノアの雲雀亭まで運び、セナの部屋のベッドに寝かしてその様子を見いるとその目を覚ました。


「ん、ぅん。俺は……、たし、か、兄貴に殴られて……、そうだ!兄貴!っ痛ぅ」

「こら、急に動くな。あんだけ殴らたんだから、しばらく寝てろ。ポーションも飲ましたから、明日になれば体の痛みも引いてるだろ」

「あ、兄貴……、俺、ごめん」

「気にすんな、俺も気にしてない。んなことより、パーティー成立だなセナ」

「えっ?でも俺、1度も……」

「最後の最後にお前が気絶しながら放った一撃が俺に当たってたんだよ。だから、約束どうりパーティー結成、な?」


 俺だってバカじゃない、兄貴が俺なんかの攻撃―しかも気絶しながら放ったを――避けられない訳がないってことは、良く分かってる。

 でも、それでも、その兄貴の優しさが嬉しくて、むず痒くて、悲しくて、だから、強くなろうって、兄貴の期待に応えたいって、そう、思った。今、誓うんだ。

 

「あっ、兄貴ぃ、ずびっ、ぐすっ、あにっ、兄貴ぃぃぃぃぃぃ!」

「あー、もう、ほら、泣くなよセナ。あっ、こら抱きつくなっつーの!」


 俺は……兄貴のために強くなる……!

どうなんでしょう、この結果


最初はセナはパーティー入らない予定だったんですけどね。(後から入る感じでした)


気の向くままに書いていたらこうなってしまいました。


でも、このまま行くことにします。



参考までに


  聖金貨1枚…一億円


  王金貨1枚…一千万円


  金貨1枚……百万円


  銀貨1枚……十万円


  銅貨1枚……一万円

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