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序章 壮行式  作者: や
9/69

1、 presage/闘うということ(7) 戦闘から減点まで

直径1m程の火柱が降る。

一本、二本。

トップスピードのドリルよろしく回転しながら、龍一めがけて降ってくる。

ステップで避ける。

五本、七本。

縦横五十mずつの石のリングに火柱は次々ぶつかる。吼えるような轟音と飛沫のような灰塵を巻きあげ、熱の匂いを残して消える。


(火柱の出現時間は、およそ二秒。間隔が締まってきてる)


龍一は15本目の火柱をくるりとかわした。

あとには破砕されたリングの残骸が、花のように礫を散らしている。龍一のいた地点いた地点そうなるから、まるで龍一の足跡に瓦礫の花が咲いたみたいだ。


(くっそ空封じられた。だけど早くはない)


地上でなら着弾点が読める。

対戦者ネツァク・ブロンズ・ドロレッド・バギーは審判の「始め」の「じ」の音で撃ってきた。指先から細い炎の渦をまっすぐ伸ばし、避けなければ今頃龍一の頭はなかった。

審判は反則でないと判断し、冷静にリングを降りた。審判に感情はない。協賛する冒険者ギルドから貸し出された自律型自動人形だからだ。観客の意向を反映して、露出の多い女性の型をしていた。彼女に表情があったら、龍一はバギーの攻撃を避けられなかった。人形だけあって、容貌は可愛いから。

対してバギーは筋骨隆々黒白まだらの剛毛で覆われ、無数の傷跡だけしっかりはげた人狼族だった。潰れた片目を黒い手ぬぐいで覆い、手足の爪は黄色くにごり、むかれた牙はなんとなく赤い。ローブはなく、魔法より戦斧バトルアクスが似合いそうな出で立ちだった。

ブロンズ・ドロレッド・バギー。

龍一には、奴の名前の濁音ひとつひとつ、内戦中に散々きいた砲の破壊音のように感じられる。進行を妨げるもの皆圧し潰した旨を下知する音。ネツァクは古い言葉で勝利だと、きみ仁がいらん事を言っていた。


五十本目の火柱を避けた十歩向こうに、バギーが見えた。指から初撃と同じ炎が躍りでる。龍一は唯一持ち込み可能な武具・魔法の杖、の代わりの魔力を込めた箒でそれを弾いた。あさぎ園に、魔法の杖を買える余裕はない。

はじいたと思った直後に火柱が降ってきて、間一髪で避ける。ローブの端が少し焦げた。

バギーの主な攻撃は炎。一番攻撃に向いた属性だ。

2撃目、3撃目とバギーから炎が放たれる。全て箒で弾く。弾く一瞬の制止を、火柱が狙う。直撃はしないが、袖や裾を掠めて嫌な熱を残す。

その時になって龍一はやっと、バギーが呪文の詠唱をしない事に気づいた。緊張しすぎて気づいていなかった。

力のある魔法使いしかできない事だ。


「は、連撃だな! 俺にスピード勝負を挑もうって!?」

「春日龍一。お前の強みは速さだ。しかしそれ以外は何もない」


声まで砲のようだ。


「じゃあんたの強みは動体視力! 犬らしいな!」


直後、バギーは一つしかない目を大きく見開いた。龍一が突然姿を消したからだろう。

光の魔法だ。龍一が唯一呪文なしで使える魔法だ。五秒しか保たない。

龍一はバギー目掛けてつっこみ、箒を放る。

バギーが突然現れた箒を目で追ったのと、龍一が彼の目の前に辿り着いたのは同時だった。

箒を捨てたのは、バギーの注意を逸らすためと、走りながら掌に魔法陣を描くためだ。どちらも成功した。

しかし硬い剛毛に触れる直前、バギーの耳がピクリと動く。気取られた。とわかっても止まれない。魔法陣を起動させる。「迸れ!」


龍一の掌から電光が迸る。本来ならバギーの胸を打つはずだった拳大の光球が、すっ飛んで闘技場の壁を撃ち、めり込んだ先で爆発した。闘技場全体が揺れ、土埃と観客の悲鳴が噴き出す。


「えっ。あれ?」


すっかり姿が顕になった龍一は、大量の土煙が視界を断つ寸前、的確に箒を拾ってバギーから距離をとりつつ、瞠目した。思ったのと違う。

審判の恬淡とした声が響く。


「春日龍一、観客を脅かしたことによりマイナス1点。あと2点のマイナスで失格となります」

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