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マスクドヒーローガールズ  作者: 椎間 てとら
第一章 <マスクドユーザーシステム>
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第7話 <エルフガンナー>

「<マスクドユーザー>だと、ここは学校だぞ!?」

「……こいつは<ジャックマキナ>ね」

種子島たねがしま……?」

 この騎士甲冑は初め、緋璃あかりを狙い突っ込んできた。だが、現在は種子島たねがしまに向けて敵意を向けている。まるで標的が変わったかのように……。まさか、そういうことなのか……?

「どう考えても私達の<MUS>に反応してるみたいね。それにしても、まさか緋璃あかりも<マスクドユーザー>だなんて思わなかったわ……特に今までデバイス反応なんて無かったしね」

 やはり……。

「ふぇありは<マスクドユーザー>なの!?」

「『も』――よ。もしかしなくてもエイジ君もだよね? だから緋璃あかりと一緒に特撮研究部に来たんでしょ?」

 当たらずとも遠からずだな、なんにしても俺は<マスクドユーザー>になる予定も計画もつもりもない。

「察しが良い所悪いが、俺はこの状況で戦力にはならないぞ……なにせ変身道具すらないからな」

「何それ? どういうこと」

「とりあえず、昨日の打ち合わせ通りだ! 緋璃あかり、頼むぞ!」

「仕方ないわね! そこの狂人! 覚悟しなさい!」

 彼女は<MUS>を頭上に掲げ、高い声を部室内に響かせる。

「<ブートアップ>!」

「『<ユーザーシリアルコード>認証確認アクティベート、<コードNo.ケンⅥ《シックス》>』」

 <MUS>から合成音声が鳴り響き、デバイス本体から輝きが放たれる。

 彼女は光輝き出した<MUS>から溢れ広がる紅のルーン文字の光を幼くもメリハリのある自らの曲線美に浴びる。学校指定の制服越しでも分かる彼女の豊満な乳房から腰のくびれにかけて、ルーン文字の光が帯状の紅光に変化し真紅の鎧をかたどり創る。全身が真紅の光に包まれると、鋼鉄の仮面を被り日本刀を腰差す巫女姿があらわになる。ルーン文字の紅光は紅風へと変化し、身に纏う小袖と緋袴が風に揺れて真紅のメタリックボディが見え隠れする。真紅の巫女はその腰に差す日本刀を抜刀すると、美顔を覆う強化マスクから二つの翠眼を煌めかせる。

 真紅の<マスクドスーツ>を身に纏い、<サムライメイデン>は彼女の正義を遂行する。

「正義のヒーロー、<サムライメイデン>見参! 私の部室を滅茶苦茶にした悪行は重いわ……覚悟しなさい!」

 彼女の抜刀した日本刀には刃が無かった。いや、厳密に言うならば刃だと思われていた刀身は鞘に納められたままであった。即ち抜刀はしていなかったのだ。鞘と一体化している日本刀を片手に握り、錆色の騎士甲冑にその鞘の先端を向ける。彼女は一呼吸すると、目先の狂人へ睨みきかせた目を瞑り、落ち着きを取り戻す。

 沈黙と静寂がこの場を支配し、彼女は閑かな声で囁く。

「エキスパンション(Expansion)」

 鞘は真紅のルーン文字の光風<ルーン>に包まれて展開する。機械的に精密展開する鞘はつばとなりつかを握る拳を保護する護拳へと変形し、刀身があらわとなる。さながら日本刀を模したサーベルとも言えよう。特出しているのはその護拳――小楯である。鞘の大半は護拳へと変化し、精巧に施された装飾から黒い漆塗に似た艶輝きが目立つ。

「原始の炎よ、創世の光よ、この大地に住まう炎の精霊王との盟約に従い、陽炎かげろうの如く真紅のほむらまといしその刀身に、平和の曙光しょこうとなる篝火かがりびともせ!」

 真紅の<ルーン>が刀身に収束し、そして拡散――。

「<具現武装>――炎刃楯刀えんばじゅんとう<ブレードアイギス>……!」

 彼女は破壊された壁面から顔を覗かせる俺達二人をドヤ顔でチラリと一瞥し、騎士甲冑の狂人に対して切りかかっていく。

「ハァァッ! 成敗ッ!」

 鈍い斬撃音が木霊こだまする。狂人は真紅の巫女の鋭く重い剣撃を自身の強靭な騎士甲冑で受け止めながら、その巨躯を自身が破壊した壁面からそのまま外へ押し返される。校庭の中央付近まで巨躯の軌跡を引きずりながら地面に傷痕を残し、砂埃を舞い上げる。

「おい……さっきの詠唱のようなものは何だ? 種子島たねがしまも毎回あの厨二くさい口上を叫びながら武器を取り出すのか……?」

 俺なら勘弁願いたい。

「え? そんな必要ないわよ。あれは緋璃あかりの趣味ね、特撮ヒーローの真似ごとよ。私はさすがにあんなの無理ね」

 ですよね。

 狂人のフルプレートアーマーに錆色の<ルーン>が纏い始める。アーメットヘルムから深紅の眼が覗き発光する。<ルーン>を自身の周囲に拡散し、不気味な妖しさを漂わせながら、機械的な動作で歩み寄ってくる。

「この鉄屑騎士モドキ! 何が目的で私達を狙いに来たの? 答えなさい!」

「『rgywhb&#%!!!!』」

 機械的な合成音に似た唸り声を校庭に響かせながら、<サムライメイデン>に錆色のガントレットで殴りつける。彼女は楯刀じゅんとうの小楯でそのガントレットを受け止めたが、豪胆な勢いに負け足場を後方へ押し返される。

「ぐぅ!? この!」

「質問なんて無駄よ、その鉄屑の名は<ジャックマキナ>、以前から私達を狙ってくる正体不明の<マスクドユーザー>。こいつはイカれているわ、日本語どころか言語が通じないんだもの……」


 俺と種子島たねがしまは壁の空いた部室から校庭へ飛び出し、<サムライメイデン>の遠く背後へ移る。

「何で今までこいつを野放しにしていたんだ! 一般人は襲われていないのか?」

「それは私にもまだ分からない……。<ジャックマキナ>は突然現れて私達に襲い掛かり、そしていつのまにかに消え去っていくのよ、まるで亡霊のようにね……。恐らく、それが<ジャックマキナ>の<ルーン>特性。存在そのもの、もしくは気配を断ち、生体感知をさせないのよ。私達を含め、残りの<マスクドユーザー>のあらゆる力を持ってしても、見つけ出すのは並大抵のことではないという結論に至ったわ。唯一分かっているのは<マスクドユーザー>を狙う狂人ということだけ……」

 <ルーン>特性というのは<マスクドユーザー>が持つ固有能力のことか?

「ハッ! せぃいやあああああ!」

 こいつは話を聞いていないのか、聞こえていないのか……。

「チィッ! 錆鉄がなんて堅いの!?」

 <ジャックマキナ>の両腕から放たれるガントレットによる殴打、その猛攻に押され気味ながら、彼女は鋭利で頑丈な刀身で殴打の暴風、その隙間を狙い剣裂き、剣突く。しかし、彼女の剣裁きに堪える様子は見られず、尚激昂は増すばかり。奇怪で機械な合成音で咆哮をあげる。

「『qpgyxz&#$?!!!!』」

 全身を覆うフルプレートアーマーの各々の隙間から錆色の<ルーン>が煙のように妖しく漂い光が漏れる。錆色の<ルーン>はエストック状の刀剣を形成し、狂人の凶器と化した。

「刀剣!? <具現武装>なの?」

「厄介な得物を……」

 <具現武装>……? 緋璃あかりの武器と同様のモノなのか? 錆色のルーン文字の光が武器を象っていくように見えたが……。

 <ジャックマキナ>は瞬時にエストックを構え、鋭い剣突きを<サムライメイデン>の胸部へ刺し込む。

「んな!? キャァ!?」

「大丈夫か、緋璃あかり!? あいつ、あんな素早い動きもできるのか!?」

「危うく、貫かれる所だったわ……」

「こいつ相手だとやっぱり援護が必要みたいね……」

種子島たねがしま、お前――」

 変身するのか……?

 彼女は頬を緩め口元に笑みをつくる。彼女は右手に変身携帯端末<MUS>を掴み、堂々とした立ち振る舞いで<ジャックマキナ>にゆっくりと歩み寄って行った。

「それじゃあ、私も参戦しますか。エイジ君は遠く離れてて!」

「お、おう」

 右手に掴む<MUS>を左肩まで挙げ、両目を見開き叫ぶ。

「<ブートアップ>!」

「『<ユーザーシリアルコード>認証確認アクティベート、<コードNo.ヤラⅩⅡ《トゥエルブ》>』」

 デバイス本体から周囲に響き渡る合成音声、エメラルドグリーンの上品な輝きが辺り一帯を魅了する。

 エメラルドグリーンの硬質感溢れる上品なメタリックボディ、強化パワードマスクの上から被る焦茶色のカウボーイハット、西部劇を連想させるそのフォルムは荒野の女性ガンマン。深紅の眼を発光させ、リボルバー拳銃らしき武器を備えるレッグホルスターに右手を添えた形で、硬質のカウボーイハットを左人差し指で持ち上げポーズを決める。陽気な小妖精の振る舞いで銃士の如く優雅に闊歩する姿はまさしく『小妖精の銃士エルフィンガンナー』――。

「<ジャックマキナ>、昨夜の恨みを晴らさせてもらうわ! この私、<エルフガンナー>が!」

 これが種子島たねがしまの<マスクドスーツ>――その変身姿か。

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