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マスクドヒーローガールズ  作者: 椎間 てとら
第一章 <マスクドユーザーシステム>
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第1話 魔王少女リリカルマジカ

「『魔王少女リリカルマジカ! はっじまるよー!』」

 元気ハツラツな可愛らしい女の子の声がテレビから聞こえてくる。

 この愛らしい声が届く時間は俺にとっての癒しのひと時なのです。

「今日もマジカちゃんはマジ天使!」

 気持ちの悪い声で興奮しているのは全国の大きいお友達の一人――そう俺です。

 本日は深夜TVアニメ『魔王少女リリカルマジカ』のセカンドシーズン『魔王少女リリカルマジカⅡ』第1話の放送日なのです。

 前作『魔王少女リリカルマジカ』が小さな子供たちから大きなお友達に大ヒットの恩恵で創られた待望の続編なのだ。

 もちろんこの作品の信者である俺は前作の初回特典版アニメブルーレイ全巻を所持し、部屋中にはマジカちゃんのフィギュアやタペストリー、ポスターなどのグッズで一杯だ。

 既に第2期のアニメブルーレイも予約済みであり、万全の体制であった。

 明日は土曜日なので、安心して夜更しできる。第一期は平日深夜に放送していたがために、学校では寝不足が拭えなかった。

「『魔王剣グラムカリバーーーーー!!!!!』」

 マジカちゃんがリリカルステッキを放り投げ、魔王剣で敵にトドメを刺した。

 ド派手な効果音と演出が画面イッパイに満たされる。

 さすが前期でも名を馳せた作画陣だ。作画崩壊がテレビ放映時でも一切無かったハイレベルの作画は顕在か!




「ふう……」

 今日も有意義な生活が送れました。


「『速報です。本日都内某所で<喪失者>が数百人確認されたとのことです。詳細人数については後ほど明らかのなる模様。日本において<喪失化>による死亡被害は今月だけで述べ約2万人に及びます――』」

「<喪失化>か……どんな気分なんだろうな、現実感を失うというのは」

 <喪失化>と呼ばれる謎の現象によって、人々はいつ襲ってくるかもわからない恐怖に包まれている。<喪失化>とは現実感を失い始めた人間に発症する肉体の消失現象とされている。現実感の消失、肉体の消滅と精神の関連性、魂の在り処、それらに確かな定義は無く、仮想技術の向上による人類の進化とも言われることもあるが、未だに明らかとなってはいない。<喪失化>による肉体の消滅、即ち死亡者については<喪失者>と呼ばれ、人類の今後の繁栄において大きな問題となっている。

 <喪失化>の被害よって、仮想技術による操作が及ぶもの、ゲームなどの娯楽については制限もかける必要もあるというのが、日本政府の見解であった。仮想技術の制限に具体的な効果が得られるかなどの確証も無く、仮想技術が国民の生活の一部になりつつある現在の世界、中でも日本では反対の声が多く上がっている。

 その一方で、特に十代の少年、少女等における<喪失化>の発症傾向が統計上、大きく見られるという事実も確かにあった。

「仮想技術の発展と<喪失化>、関係無いと思うけどな。現に普通に生活してる俺、特に問題が無い人にとっては死活問題どころじゃないしな。生活の一部を切り離すなんてこと誰もしないよ」

 現実感の消失、それは夢の中を彷徨う感覚と等しいのだろうか。まどろみの中、現実を生きる少年、少女。薄れいく現実感と抗うことが、本当に正しいことなのか。人類は<喪失化>に抗う術、自然発症するその脅威に対抗する力を手にすることができるか否か、それが最大の焦点と言える。

「……まあ、今の俺には関係のない話だ」

 そう、関係の無い話であった。

 普通に暮らしている少年、少女等には遥か遠い国のお話、それが日本国内で起こっているとしても、素知らぬ顔で現実を今を生きている。それが現在の日本社会の実情である。現代の若者には不必要な情報に価値は無く、自らに価値のある情報だけを選りすぐる必要性が生まれたからだ。それが仮想技術の発展に大きく影響している理由でもある。知るべきこと、知らなくてもいいこと、その判断は高度情報化した仮想技術社会において機械が勝手にしてくれるものとして人々に認識されている。

 仮想技術の発展による弊害、それはあらゆることに興味や関心を持てない人々が増え続けていることなのだ。


 ニュース速報も終わり寝床につこうとベッドに腰掛けた瞬間――。

 ぽよんっ!

 ん?

 ぽよよんっ!

 んん? なんだこの柔らかさ……いつものベッドの感触とは違う、何故か心地よい手触り、そして揉みごたえ、どうしてか天国へといざなわれるような感覚、初めて触るがわかる――これはまさしくおっぱいだ!

 しかもかなり、いやものすごくデカイ!

 って!?

「なんじゃ!? こりゃあぁぁぁぁぁ!!」

 お、おお、女の子が、女の子がベッドに横たわっている……。ど、どういうことなのママン? しかも窓ガラスが何時の間にかに割られ、ベッドにグサグサとガラス破片がまばらに突き刺さっているではありませんか……。

 それにしてもかわいい女の子だ……体系はかなり小さいけれども、なんというか……すごく、大きいです……おっぱいが! これがロリ巨乳ってやつか! いやロリ爆乳だなこの大きさは! 見方によってはトランジスタグラマーかもしれない! このまま見抜きしちゃいそう……某なんとかゲリオンの主人公みたいに……いや、待て! これは罠だ! しっかりするんだ俺!

「お、おい……寝ているのか? まさか、死んでないよな……おっぱいは温かさが感じられたけど」

 ガシッ!

「うわぁ!? って起きたのか……」

 びっくりさせるなよ、もう少しでそのたわわなおっぱいをまた触れたのに……。おっと、いかんいかん、欲望が前面に漏れている。

 しかし、近くからよく見ると本当にかわいいな……。ツインテール? ツーサイドアップ? ピッグテール? 俺には髪型の違いなんてわからないけど……。

 風通しが良くなった窓ガラス、そこから射しこむ月明かりで反射しキラキラと光らせる艶やかな黒髪から二分けされるキュートなしっぽ、染み一つない幼子のように透きとおりつつも健康的で血色のある瑞々しい白肌、小動物のように周りを和ませるくりくりとした愛くるしいまなこ、そして身長140cmもあるかないかわからない小柄な体系にそぐわないメロンおっぱいもとい爆乳……バストサイズ90cm以上はあると見た!

「見つけたわ……君も所有者なのね?」

 ん? 彼女は何を言っているのだろうか? そもそも何で俺の部屋にこんなかわいい女の子がいるわけ?

「え? 所有者……何? っていうか君は誰なの?」

「私? 私はヒーローよ!」

「は……?」

「正義のヒーローよ!」

「…………え?」

 どうやら彼女は少し不思議ちゃんのようだ……そうで合って欲しい。

「えーと、君は正義のヒーローなの?」

「そうよ! 悪の野望を阻止する正義のヒーローよ! 断じて特撮ヒーローの真似ごとではないわ!」

「あ……そう」

 こいつはまじでやばい……。頭が逝ってやがるぜ!

「何? 信じてないの?」

「信じるもなにも、お前が何を言っているのか理解できない」

 当たり前だ、何がヒーローだ。小学生でもまともな嘘をつくぞ、こういう状況なら……。

「なんかさっきと態度が違うよね! 君からお前に呼び方が変わっているんだけど……」

 あれ、ホントだ。まあいいや、お前で十分だ。

「で? 誰なのお前は?」

「今は変身解いてるけど、さっきまで変身スーツ着てたのよ」

「いやそんなこと聞いてねえよ……」

 なんなんだこの女は……? 変身スーツだと? 特撮マニアのたぐいか? ぶっちゃけこの娘に一目惚れしたのかと思ったけど(主におっぱい)、俺の勘違いかもしれない。このロリ爆乳美少女さっきから話が全然噛み合わないんだけど、さすがにこれはないわ……俺の一目惚れを返せ!

「しかし、見るからにオタ部屋ね! しかも魔法少女モノが好きでしょ!」

「なぜわかったし……まあ部屋を見ればわかるか」

 おい、あんま見るなよ……なんだろう彼女に他の女がいるかどうか詮索されているような感じがする……未だに彼女がいない童貞だけど。

「それにしても、オタクっぽいのにヒーローとかロボットのおもちゃ? フィギュアやグッズは置いてないみたいね~」

「おい! 勝手に人の部屋を漁るな!」

 まじでやめてください! 死んでしまいます! その下にはロリ巨乳妹モノのエロゲーがあるんだよ! ひぃぃぃ~! この前、ネット通販で親にバレないように買ったものです、はい。

「私は特撮モノ大好きなんだけどな~だってカッコいいじゃん! 正義のヒーローって!」

 …………。

「ん? 何で急に静かになるの?」

「お前が正義のヒーロー好きなのはわかったけど、俺は大嫌いだ……そういう話は聞きたくない」

「何ちょっと怒ってるの? 変なの? あっ、でも『プリデュアッ!!』シリーズは好きなのね? ふ~ん、一応これ女の子の戦士、ヒーローだと思うけど?」

「『プリデュアッ!!』は別物なの!」

 『プリデュアッ!!』には『プリデュアッ!!』の良さがあるの! あんな紛い物の戦士、ヒーローなんかと一緒くたにしないで貰いたいね! プンスカ!

「まあいいけど、それで君? 持ってるよね<MUS>」

「何だって……?」

「<MUS>よ、<マスクドユーザーシステム>。君が持ってる変身デバイスのことよ」

「すまん、お前が何を言ってるのかますます理解できなくなった……」

 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ! 誰かなんとかしてくれ!

「だから持ってるんでしょ? <MUS>」

「ないよ、そんなの」

「嘘」

「嘘じゃないって!」

「……嘘」

「…………ホント」

「まあ、いいわ。そういうことにしてあげる」

「ああ、いいよそれで……」

 いや、本当に俺はそんなもの知らない……。

「それで、一つお願いがあるんだけど?」

「それでの意味がわからん……」

「今日からあなたと行動を共にします」

「……は?」

 何をほざいているんだこのトランジスタグラマーおっぱいちゃんは……頭が沸いているのか? なんかもう関わりあいたくないのですけれど。

「行動を共にします」

「いや、二度言わなくていい……どういうつもりだ? そもそもどういう意味だ、それにお前は結局誰なんだ?」

「だから、ヒーロ……」

「名前だよ!」

「仕方ないわねー。じゃあきちんと自己紹介をしてあげる!」

「やっと話す気になったか……前フリ長すぎるんだよ!」

「私は穂村ほむら緋璃あかり、またの名を正義のヒーロー<サムライメイデン>!!」

「……」

「正義のヒーロー<サムライメイデン>!!」

「で、穂村ほむらさん? なんで不法侵入したの? 場合によっては警察呼ぶよ? 窓も壊してるし」

「ちょっと!? 正義のヒーローのくだりの所、スルーしないでよ! それに窓は私のせいじゃないわよ!」

 俺はPCデスクの上に置いてあるスマートフォンを自然に取り上げ、110番をかける。

「あの……もしもし警察ですか? あの~実は……」

「わかった、話すわ! 話すからちょっと待って!」

「最初からそうしろ……で? どういうことか最初から説明を求む。念を推してふざけるのは無しな!」

 110番マジでするぞ! いい加減、話を先に進めてほしい……。

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