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9:副隊長

結局曖昧に笑って誤魔化し転校生の元を逃げ出した。

このままあの場へ残っていたら、色々と未知なる世界へと誘われそうだ。


再び置いてきてしまった吉田さんは大丈夫だろうか、でもあまり関わってもまた迷惑に思われてしまうかも。

躊躇している間に朝の予鈴が鳴ってしまい、そのまま自分の教室へ戻ることになった。




放課後、ファンクラブの報告会の日なので部室へと向かった。

年間に半端ない施設費を要求するこの学園の施設は確かに立派で、部室一つとっても綺麗で広いミーティングルームのようだ。


はぁ、報告会嫌だな。先輩達恐いんだもん。

こちらも負けず劣らず虚勢を張っているが、元々あまり押しの強い方ではないのでたまに圧倒されてしまう。


ホームルームが長引いたせいで、少し時間に遅れてしまった。

実際の重さよりも重く感じる扉を押すと、やはり既に全員揃っていた。

報告会に下っ端は参加出来ないので必然的に先輩達ばかりになってしまい、居心地が悪いことこの上ない。


「遅れてごめんなさい、さぁ始めましょうか」


入った途端に浴びる全員からの視線に身震いしつつ、高飛車な口調で入室する。

そして上座に当たる自分の席へ向かい、足を止めた。


そこにはもう、人が座っていたからだ。


「あら? 部外者がどうして居るのかしら?」


足を組んで本来の私の席である場所に座っていたのは、会長ファンクラブの副隊長を務める三年生の先輩だ。


彼女はプライドが高く傲慢でもろに私とキャラが被ってしまっているが、ご実家は名家らしく華やかな容姿も相俟って今までそのキャラが許されてきた。

だから自分より上の立場にいる私の存在は我慢ならないのだろう。

私はこの学校の嫌われ者だけど、副隊長より私に憎悪を向ける人間は居ないと言い切れる。

彼女は意地の悪い笑みを浮かべて言う。


「それで隊長、何かご用? ああ、元・隊長だったわね」

「……元?」

「そうよ。あなたの居場所はここにはもうないわ。今はあなたに代わってこの私が隊長ですの」


馬鹿にしたような、勝ち誇ったような表情の副隊長。

美しい顔立ちなのに、なんだか不細工に見えるからその顔止めた方がいいのに。

しかし反応に困る。

この場合怒ればいいの? それとも困惑? うーん。

ここは、冷静だけど怒り心頭って感じでいこう。


「そんな事、この私が認めるわけないでしょ?」


そりゃあ代わって貰えるなら嬉しいけどね。

でも私のお世話になっている家の息子さんが煩いからさ。

世の中って中々上手く行かないものだ。


「そう言っても、もう私が隊長ということで話は付いたわ。ねぇ皆さん?」


副隊長が周囲を見渡すと、全員が同時に頷く。

いや、全員って……私どんだけ嫌われてんの? まぁ知ってたけどさ……。


「理由は何?」


私が尋ねると副隊長の歪んだ笑みはより強くなる。

それ不細工だから止めときなってば。


「あなたが転校生への制裁失敗で、生徒会の皆様に連行されたと噂が広まっているのよ」


ああ、だからなんか今日いつもより他人の視線が多かったのか。

ネギでも歯に挟まっているのかと思って何度か確認しちゃったよ。


「当然ファンクラブは辞めさせられたんでしょ?」


わくわくしていたところ申し訳ない。

非常に残念な事に違います。


「確かに生徒会室へは呼ばれたけど、注意されただけです。なんの処分もなかったわ」

「っ!? そんなの嘘よ! 会長様がお許しになるわけがないわ!」


副隊長を始めとし、他の隊員達からもザワザワと動揺の声が広がる。

ああ、もしかしてこの人達始めからソレが目的で私を転校生の元へけしかけたのかな。

私が制裁に成功するも良し、失敗に終わっても隊長から引きずり落とせる。

つまりこの人達にとってはどちらに転んでもいい事だらけ。


可愛い顔してやるな。

怒りよりもただ感心した。そしてやっぱり今日はお風呂で泣こう、うん。


「今更そんな見え透いた嘘はみっともなくてよ」


狼狽えていた副隊長だったが、すぐに気丈さを取り戻して笑ってみせる。


「これから会長様に隊長就任の挨拶へ行くわ。どうせならあなたも一緒に来て現実を受け止めなさい」


椅子から立ち上がり悠然と歩き始めた副隊長。

有無を言わさぬ様子にこちらも仕方なく後ろに続く。

吾妻に余計なことを言われては堪らないしね。

まだビターアップル手に入れてないんだ。



「失礼します」


副隊長と肩を並べ二日連続の生徒会室へと入室する。

運が悪い事に生徒会メンバー全員は揃っていた。

キラキラしい集団に私は目が潰れそうだが、副隊長の目は輝く。


そんな私達を見るなり顔をしかめる生徒会メンバー。

それが見えていないのか、隣の副隊長は生徒会連中の視線が自分に向けられるのが嬉しいらしく、やや顔が赤い。

ここまであからさまに嫌がられているのに気にしないでいられるなんて、実に羨ましい根性をしてらっしゃる。



「あれ? はるちゃん!」


麗しい声の発信元を確認した私と副隊長は顔を曇らせる。

何故か生徒会室に転校生が遊びに来ていた。


興奮状態だった副隊長は見事なクールダウンっぷりだ。

私は副隊長とは違う意味でクールダウン。

朝の転校生とのやり取りを思い出して緊張が走る。

彼女とは仲良く出来ないし、プライベートで罵ってあげることも出来ない。

彼女は私を見るなり嬉しそうに顔を綻ばせる。


「はるちゃんも遊びに来たの? 一緒にお茶飲も」


ヒィィはるちゃんと呼ばないで。

なつかないでおくれ。

副隊長の怪訝そうな目が痛い。


「イチカ、そんな奴らの近くに居ては危ないです。こちらにおいで」


私達を睨みつけながら守るように転校生を自分の方へ引き寄せる副会長。


助かった。 副隊長の目が私から反れて王子様な副会長に釘付けだ。



「ここはあなた達が来る所ではありません。一体なんの用ですか?」

「実は会長様にご報告があって伺いました」


副会長の嫌悪の表情が見えないのか、頬を染め嬉しそうに喋る副隊長。

会長のファンクラブなのに良いんだろうか。


「なんだ?」


尋ねながらも私を睨む吾妻。

多分私ごときに朝から避けられたのが面白くないんだろう。

ヤバいな。昨日も辞める辞めないで揉めたのに、この状態で三回目の辞める発言なんかしたらどうなるんだ私。

最悪首の肉喰い千切られるかもしれない、死んじゃうよ。


「この度、嘉川さんに代わってこの私が隊長に就任しました。どうぞ、よろしくお願い致します会長様」


私の心境を全く考慮してくれない副隊長は科を作り可愛らしく宣言した。


「はぁぁ!? 何それ聞いてないんだけど!?」


何故だか会計が副隊長の言葉に反応し、自分のデスクから立ち上がって大声で驚く。

なんで全く関係のないあなたが喰いつくの?


謎過ぎるが今は会計に構っていられない。

これでもかって程鋭くなった吾妻の眼力に戦々恐々で口を開く。


「違うのです会長様。私は辞めるつもりはないのですが、皆さんが私はファンクラブを辞めさせられたと誤解なさって……」


我が身可愛さに必死の弁解。

吾妻は何も言わなかったけれど、切れ長の目を細め探るように私を見る。

一気に不安と緊張が体に駆け巡った。

首の肉持っていかないでっ!




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