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6:会計

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噛み付かれた翌日、吾妻に会うのが嫌で朝早く家を出た。

また出会い頭に噛み付かれたら堪らない。

あの理解不能な行動に私は大分引いていた。


どうしよう、吾妻夫妻に相談したほうがいいのだろうか。

息子さん、噛み癖があるようなのでトレーナーを付けて矯正してくれと言おうか。

それとも私がビターアップルを香水代わりに付けようか。


そんなことをつらつらと考えながらまだ誰も居ない廊下を歩いていると、前から吉田さんが現れた。


「あらおはよう吉田さん」

「あ、嘉川さん………」


うむ、この苗字呼びが二人の距離を表しているようだ。

今はファンクラブ隊長なんて嫌われ役をやっているから無理だが、いつかは絵梨菜ちゃんとか呼んでみたいものだ。


「朝早いわね。どこか行くの?」


何やらソワソワしている吉田さんは私の問いに答えにくそうに視線を泳がせている。


「その、ちょっと、体調悪いみたいで。保健室に行ってみようかと」

「体調悪いの!? 大変じゃない、急いで行きましょう」

「え!? ちょ、嘉川さん」


こうしちゃおられんと腕を支えるようにして共に保健室へ向かう。

吉田さんは戸惑っているようだが、大丈夫。

まだ朝早いから生徒もあまり居ないだろうし、私と仲良くしてるなんて思われないよ。


しかしこんな朝早くに養護教諭は来ているだろうか。

せめて保健室の鍵は開いてて貰いたいんだけど。

心配しつつ保健室のドアに手をかけたが、それは簡単に開いた。


が、足を踏み入れて違和感に気づく。

肝心の養護教諭の姿が見えないのだ。


しかし人の気配はしっかりとしている。

というかカーテンが中途半端にしか閉められていない一番奥のベッドから声が聴こえる。


「んっ……あっ………」


学校で決して聴こえてきてはいけない甘い声に、吉田さんと二人で目を見合わせる。


うん、分かってるよ吉田さん。

このまま聴かなかったことにして逃げよう。

そして私が一走り職員室行ってチクって来るから、吉田さんは待機してて。

すぐにベッドを空けさせるから。

まったく朝っぱらから誰だよ。

そこは病人が使う場所であって、決して男女が乳繰り合う場所ではない。ホテル行きやがれ。



「ちょっと待って、ゴム忘れて来ちゃった」

「んっ……私持ってるわよ」

「いやぁ俺、自分で用意したのしか使いたくないんだ。前穴開けられてたことあったからさぁトラウマで。ごめんね」

「えぇ~私はそんなことしないわよぉ。子供出来たら困るの自分だし」


うわぁぁぁ、会話が生々しいわっ!

遠距離歴三年の純粋無垢な女子高生にはキツいよ。

先生ー! ここに不純異性交遊してる人達が居ますよぉぉっ! 悪いんだーー!


私が気合いを入れて反転しようとした時、ここで予想外の事が起こる。


「え、吉田さん?」


てっきり私の考えが伝わっているだろうと思っていた吉田さんは、ピンクの気配のする方へと足を向けたのだ。

焦る私を置いて迷いなく半開きのカーテンを開く。


「きゃっ!」


そこに居た人物に驚愕。


「………先生?」


男子生徒全員の憧れの胸を惜し気なく晒し慌てている養護教諭に唖然と声をかけた。

まさかの先生……はっ、相手は生徒か?


咄嗟にお相手の方に目を向け、再び唖然とする。


「会計様………」


ベッドに居たのは生徒会一、頭も下半身も緩そうな会計であった。

染めているのであろう明るい茶髪を無造作に流し、耳には何個もピアスが光り首にはピアスと同じブランドのシルバーネックレスがチャラリと揺れる。


絵に描いたようなセクシー養護教諭のお相手にこれほどピタリと嵌まる相手も居ないだろうと納得。

いや、ここはイモいニキビ面の童貞男子の方が定番かな?



なんてことはどうでもいい。

会計、メチャクチャ私のこと睨んでる。


「なんでお前がここに………」


駄目だ。多分昨日の転校生のことも含めて完全に怒ってる。

基本生徒会の連中は私のこと嫌っているしね。

先生の方はブラウスのボタンを止めるのに忙しいらしい。


「ごめんなさい。声がしたので」


いつもヘラヘラと掴み所なく笑っているはずの会計の怒り顔に、吉田さんがおずおずと小さい声で喋りかける。

はっ吉田さんっ! 体調悪いのにこの状態の会計の相手をさせるわけにはいかない。


「彼女、体調が悪いんです。申し訳ありませんが、そういう事は他所でやって欲しいものです」


毅然とした態度で言い放つと、会計の表情は更に険しくなる。

うっ、恐い……けど間違ったことは言ってない。負けるな私。

一瞬弱気になった私に気付いたのか、吉田さんが一歩前に出る。


「あの、こういうこと、良くないと思います……」

「そうです。保健室は公共の場です。非常識です」


大きく頷き援護射撃すると、吉田さんにチラリと横目で見られた。


「そうじゃなくて、会計さん……他の女の子達ともこういうことしてますよね? それって、良くないです」


あ、そっち?

そりゃあ転校生を好きだと公言してるのに先生と朝っぱらからしけこんでいるのは頂けないけど、問題は会計より先生だと思うよ。

だって生徒と職場でセックスって普通にクビだよ。淫行条例的なことは考えてた?何やってんのイイ大人が。

吉田さんは会計しか見ていないが、先生の顔色はかなり悪い。不味い自覚はあるらしい。


「でも何か訳があるんですよね? 私には分かります。あんまり役に立たないと思いますが、良かったら悩みとか聞かせて下さい」


穏やかな笑みを湛える吉田さん。

やっぱり彼女は優しいなぁ。

私なんて会計の下半身事情なんて心底どうでもいいもん。

せいぜい性病には気を付けろよってアドバイスしか出来ないよ。


「ナニソレ……笑える」


ヘラリと緩い、しかし凍えるような冷たさを持つ笑顔の会計。


「よくもそんなことが言えるよね」


コンニャロ吉田さんの親切をっ!

と思ったが、何故だか会計の視線は私でロックオンされていた。


「だったら相手してよ」

「え? うわっ!? ちょ、えええ」


突然手を取られ会計に引っ張られる。

足を踏ん張るが思いの外力が強く意味はない。


「会計様!? 離して下さい!」


本当に離れない。くっそぉ! 離しやがって下さいぃ!

グイグイ引っ張られ、ポカンとしている吉田さんと先生を残してとうとう保健室を出てしまった。


「悩み相談してくれるんだろ? 手取り足取りさ」


抵抗する私を鼻で笑う会計。

いや違うっす!

それ言ったの私じゃないよぉぉぉ!!






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