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5:ファンクラブ



結局私は吾妻の通う学園に入学し、吾妻のファンクラブ隊長を務める羽目になった。

彼には大きな恩があるのは確かだしなぁと気軽に考えたのが運の尽き。気苦労の多い学園生活の幕開けだ。



ファンクラブは部活と同じのような扱いとなっておりイケメンの数だけ存在する。

画面の中のアイドルに飽き暇を持て余した女子達による、学園を巻き込んだちょっとした遊びだ。

過去に男子達が可愛い女子生徒のファンクラブを作る動きもあったそうだが、自分達を棚にあげた女子達の白い目に堪えきれずに解散してしまったらしく、現在ファンクラブという存在は完全に女の園と化している。


群れる女は怖い。

それを新参者が取り仕切るのは容易なことではなく、油断するとこちらが喰われてしまう。

一応吾妻の遠縁だという情報は伝わっているらしく、外部からの新入生である私がファンクラブの隊長になることに表立って反対する人は居ない。

しかし先輩方の顔には常に不満が浮かんでいた。


だから常に気を張り詰め高飛車に見せている。

弱気で行って私の話を聞く人なんていないから。



しかし吾妻の人気は笑えないほどあった。

そりゃこれだけ女の子にキャーキャー言われてたら、妹ヅラした鼻垂れな私の面倒なんてチャンチャラ可笑しくてみてられないだろう。納得。

当然ファンクラブの規模も学園一。

過激さも学園一。


もう纏めるのは至難の技だった。

ファンクラブのルールを破り吾妻に独断で接触しようとする者を抑え、写真を撮ろうとする者を注意し、告白しようとする者を脅しつける。

それがファンクラブ隊長のテンプレ的役割だったから。

任されたからにはやり通さねば気が済まない質である私は、舐められない為にも徹底的にやった。


と、同時に吾妻の要望により熱狂的ファンの女を演じる。

彼が現れれば誰よりも大きな声で騒いで興奮してみせた。

そんな自分の馬鹿馬鹿しい姿にうんざりする。

その対象がお世話になっている家の息子さんなのもしょっぱい過ぎるし。



とか言いつつ迫真の演技を続けたのは自分の悪役キャラに酔っていたからだと思う。

気付くと完璧に演じ過ぎて私は嫌われ者となっていた。

男子は私を恐れ目も合わせてはくれず、ファンクラブ女子は私の悪口を考えるのに日々忙しそうだ。



そんな入学半年目のある時気付いた。

私ってこの学園に友達居ない………。


いや、私の周りには割りといつも人はいるのだが、それはあくまでファンクラブのメンバーだ。

活動の指示に報告、短い休み時間も潰れてしまうことが常で今までボッチの実感がなかった。


しかしファンクラブ以外の子はクラス委員の吉田さんを除き近寄ってくれない。

吉田さんだってクラスの業務連絡がほとんどだ。


ファンクラブの子からは頼りにされている反面、全然慕われてない。

本当は知ってるんだ………みんなでよくカラオケ行ってるの………私呼ばれたことないけどね………はぁぁぁぁぁ地味に落ち込むわぁぁぁ。


そのカラオケは先輩主催らしく、同級生のメンバーの子に基本全員参加なのに何故毎回参加しないのか不思議そうに尋ねられ、その時ようやく知った。

カラオケ? そんな稚拙なこと興味なくってよヨホホホ……え? テーマパークも行ったの? わ、私はそんなにお子様じゃなくてよヨホホホホホと笑って流したが、質問した子が胡乱な目で見てきたから動揺が漏れていたかもしれない。



その晩ちょっとお風呂で泣いて、そして一気に冷めた。

なんで私こんなことに青春費やしてるんだ。

入学半年で友達が居ないってどういうことだ。

友達と帰り道に寄り道もしない高校生活なんて嫌だ。

友達と色んなところを楽しく出掛けてみたいよ……。


中学の時の友達は皆高校で楽しくやっている今、私が休日に出掛けるのなんて精々吾妻に連れ回されるくらいのものとなっていた。

高校生にもなってお家の人とお出掛けって少し恥ずかしいのですが。何分こちとら思春期なもので。

家族とは認められていないので厳密に言うとお家の人ではないのだけれど、昔から一緒に育っており感覚としては似たようなものだ。

学園ではファンクラブ隊長という立場上馴れ馴れしくはしないが、入学以来吾妻には家ではあまり避けられなくなった。

なんだ私を置いて思春期終了か?

だったら、もうファンクラブ辞めてもいいかな?


そもそもあれだけ驚異的な人気なんだから、私必要なかったよね。

もうあんたは伝説築いてるよオメデトウ。

隊長の座も真剣に吾妻を想う先輩に譲るのが筋だろう。



再び一緒に取れるようになった夕飯の席でそれとなく辞任の旨を伝えたのだが、吾妻の視線は予想以上に冷たかった。


「それで……? ファンクラブを辞めてお友達を作って、ついでに他の男も作るのか?」


キツく睨み付けられた私は身を竦める。

『居候の邪魔者』と言い捨てたあの時を彷彿とさせる温度に胸の奥が詰まった。


「はるはいつだってそうだ。少し目を離すとすぐに………お前は嫌われるぐらいで丁度いいんだよ」

「なっ………」


私は絶句した。

嫌われるぐらいで丁度いい?

それって私が嫌われるのを望んでいるってこと?

どんだけ私のこと毛嫌いしてんだこの人。


「俺から離れることは許さない。絶対に離してやらねぇ。このままずっと嫌われてろ」


どうやら彼はまだまだ反抗期らしい。

私を虐めるのがさぞ楽しいんだとみた。子供だな。



結局私はファンクラブ隊長を続けることになった。

無理に突っぱねることも出来たが、自分を激しく慕っていた筈の隊長が辞めるって結構吾妻のプライドが傷ついてしまうだろうし。

よく考えればモテモテ伝説台無しだよね。


悲しみの底から掬い上げてくれた当時のことを思えば、どうしても彼に逆らえない。

心の奥底で昔の彼が戻ってくることを望んでしまうのだ。


だから私は素直に嫌われ者の隊長を演じてきた。

たまにやる気のない態度でいると遠くから睨み付けられたりもする。



そして二年生に進級した春、生徒会全員が転校生に夢中になっているという噂が学園を駆け巡り、正直嬉しかった。

めでたい恋の到来だもん。応援せずにはいられない。

まぁあのナルシストな俺様が恋でメロメロになるのを想像して面白がってもいたが。



どこのファンクラブも彼女を激しく嫌っていたので小さな嫌がらせも多発し、生徒会の連中はそれを疎ましく思い始めていた。

吾妻も例外ではないようで、ファンクラブはもう不要だとばかりの態度で転校生にこれ見よがしに迫っていた。

表で悲痛の声を上げ裏で大爆笑したのは言うまでもない。



これだけ転校生に夢中ならばモテモテ伝説にも固執しないだろうし、吾妻の方から私を切ってくれればプライドも傷付かずに済む。

今度こそファンクラブ脱退出来ると張りきった結果は惨敗。

何故だか首筋に深い噛み跡が付いただけだった。

もういい加減解放してよ。






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