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3:暴力ナルシスト




ニンマリしそうになるのを必死で抑えている私の表情はえらいことになっているらしく、無口ワンコな書記が不気味そうに見てくる。


ん? 何かな? 噛み付くぞコラ。

あら、ちょっとビクッとなった。情けないぞワンコ。


「元々俺達はぁ、お前のことなんか認めてないから。生徒会に近付く奴への制裁の噂は絶ないし、時に犯罪紛いなものまであると聞くし?」


チャラ男会計の楽しそうな言葉に副会長も大きく頷く。


「なかなか証拠が揃わず降ろすことが出来ませんでしたが、どうやら年貢の納め時のようですね」


うわぁ副会長のドヤ顔ウザイ。

ここで素直に頷いても良かったが、少し抵抗した方が自然だろう。



「待って下さい! 私は“皆様”が下品な女に騙されているからお助けしようとしたのです」

「下品…お前………」



ああん? なんか言ったワンちゃん?

サッと一瞬だけ睨んでやると、ワンコ書記は大きな身体を丸め怯え始めた。

はっ、いけない。

私は意地悪でか弱いファンクラブ隊長だった。キャラ大事に!


「私は悪くないわ!」

「黙りなさい不愉快です。ここまで反省の色が見られないとは呆れたものですね」

「悪いのはあの女です!」

「それ以上言うと俺らの大切なイチカを傷付けたこと、後悔させてやるよぉ」


段々と生徒会がヒートアップして来た時であった。


「ちょっと待ってよみんな! 私は彼女に何もされていないよ。少しお喋りしてただけだもん」


実はずっとこの場に居た転校生が両手を胸の前で組み、ウルウルのおめめで訴えた。

彼女の優しさに生徒会の厳しかった表情もだらしなく崩れる。



「イチカ、こんな奴庇っちゃダメでしょー。 もう優しすぎぃ」

「嗚呼、イチカはなんて心が広いのだろう。やはりキミは私の理想ですね」

「イチカ………優しい……」


生徒会メンバーは私の事など忘れ、各々転校生をうっとりと眺める。


いや、転校生よ。庇ってくれるのは嬉しいが迷惑です。

このままじゃ“イチカに免じて”とか言われそうだ。


それだけは避けなきゃいけない。

だから許して欲しい。

これでより一層生徒会の連中はあなたに夢中になるから。

私達の利害は完全に一致してる筈だよ。


「そういう偽善ぶったところが気に入らないのよ! どうせ皆様にお近づきになりたくて猫被っているだけなんでしょ!? この淫乱!」


私の叫びに反応した生徒会の連中の殺気を一斉に浴びる。


今まで転校生を慈しむような優しい眼 差しをしていた分、その明らかな温度差に分かってはいても冷や汗が伝う。


でも、あと一押し。



「全ては“皆様”の為にしたことなのです!」


――――ドォォンッッ



激しい破壊音が部屋に鳴り響いた。

突然の爆音に皆驚き、その音源に目をやる。


そこには今まで無言を貫いていた生徒会長吾妻が、怒りに満ちた顔ですぐ近くの壁を殴っていた。しかも少しへこんでる。



「………黙れ」


地を這うような低い声に全員の背筋は凍る。

そして次の言葉をその場にいる誰もが固唾をのんで待つ。


彼の視線はゆっくりと副会長に向く。



「コイツは俺のファンクラブだろ」

「は、はいそうです。彼女はあなたのところの隊長で、過去類を見ないほど陰湿で最悪と言われているそうです」


副会長の緊張を含みながらも侮蔑が込められた台詞に言い返すことなど出来ない。

それは正しく私の評判だから。



「何故お前らがこいつの処遇を決める? それは俺の権利だろう」

「だったら、会長…どうするつもり?」


ビクビクしつつもワンコ書記が戸惑いがちに尋ねる。


「……辞任なんかさせねぇ」


「なっ! 何を馬鹿な!イチカに手を出そうとした奴を庇うのですか!?」

「そうだよぉ辞任でいいじゃん」

「許すの、ダメ」



吾妻は凶悪面を歪めてニヤリと笑ってみせた。



「そうだな。こいつはお仕置きだ」

「ヒッ………」



ゾワリと全身が一瞬で鳥肌だらけになる。


なんで? 自分だって他の生徒会同様、転校生に夢中だったじゃん。

私のことはもう忘れてくれたんじゃないの?


隊長がファンクラブを辞めるなんて彼のプライドが許さないだろうから、わざわざこちらからクビになる方向に持って行ってあげたのに。


なんで辞めさせてくれないんだ。


戸惑い怯える私の元へ尊大な足取りでやって来た吾妻は、首根っこを猫の子のごとく掴み生徒会室を後にする。

他の連中は唖然としたまま私達を見送っていた。

た、助けやがれ!

いや助けてお願いしますっ!


私の願いも虚しく迎えの車に押し込められると、吾妻も出口を塞ぐように乗り込む。


「俺が何故怒っているのか分かってねぇだろ、はる」

「えっと、私が転校生に制裁をしようとしたからでは……」


段々と近づく吾妻の顔色を伺いながらビクビクと答える。


「いいや違う。それはあれだろ? 可愛い嫉妬だろ? いいよなぁそれ」


いつものような冷たい口調ではなく、吐き気を催す甘ったるいそれで迫ってきた。

吾妻の長い指先が私の首筋をなぞる。


「興味の欠片もない奴に言い寄るのは結構な苦痛なんだが、苦労した甲斐があったってもんだ。いつも俺だけに嫉妬させて、不公平だしな」


嫉妬っていうか、勝手に小道の石にでもなんにでも対抗心燃やしてるだけでしょ。

他人にもそれを強制しないでよ!

と、叫んでやりたいのは山々だが、奴の指が私の喉元を掴み緩く力を入れるものだから何も言えない。

取り合えず苦しい、そして恐いわっ!


「俺が怒っているのはな、はる」


吾妻は幼子に言い聞かせるようにゆっくり喋る。


「お前が制裁を“皆様”の為に、なんて言うからだろ?」


首に回していた手の力が緩まると、その端正な顔が近付いてきた。


「はるは何事も“俺だけ”の為に行動しなければいけない。そんな当然の事も分かんないのかよ」


やはり自分中心じゃないから気に食わないんだ。

この人、本当にナルシストだな。


「い゛っ!?」


私が内心呆れ果てているのがバレたのか、首筋をおもっくそ噛まれる。


「お前は俺のものだ」


確実に残っているであろう首筋の歯形をペロリと舐める吾妻。

ヒイッ、キモい!

止めやがれこの暴力ナルシスト!




転校生の名前がうっかり仮のもののままだったので変更しました

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