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18:いのちだいじに

「姫! 姫様っ!」


あー、卵焼き美味い。

出し巻なのがまた良いよね。

流石は元有名料亭の料理人さんが作っただけある。

このきんぴらに入ってる赤いの何かなウマウマ。


「どうかっどうかお慈悲をぉぉぉ」


西京焼きも美味しい。

冷めても美味しいとか凄い。味噌が違うのかな。


「姫様ぁぁぁぁ」


なんだか今日はやけに騒がしい。

食事中に騒ぐなんて高校生にもなって恥ずかしい方が居るものだわ、やーねーオホホホホ。


「何かしらアレ学食であんなに騒いで」

「まぁ下品ね」


ホントですわ、お里が知れますわねオホホホホ。


「ひーめ゛ざまぁぁお願いしまずぅぅ」


アラ何かアタクシの脚に引っ付いているわ。

見下ろすとスキンヘッドで眉毛のないゴツい男が鼻水垂らしながら私の脚を掴み必死に叫んでいた。

シッシッ、シッシッ!

鬱陶しい。吾妻家特製の懐石弁当が不味くなるですわよ。


「また会長様のファンクラブ隊長よ」

「うわっ男を足蹴にしてるぞ」

「やっぱ怖ぇあの女」


ちょ、待って! 私全然関係ないから!

本当に離しやがれこのゴーレム!

シッシッ! シッシッ!


「姫ぇぇぇぇ」


「あんなに懇願してるのに……」

「流石は会長至上主義の鬼女だな」

「あの人可哀想ぉ」


「姫ぇぇぇぇ」

「分かったわよ! 分かったから離してちょうだい!」


周囲の冷たい反応に堪らず重い腰を上げる。

慌ててお弁当を仕舞いゴーレムを引っ張って好機の目が集まっている食堂を後に。

そのまま無言で廊下を進みひと気のない場所まで来ると大人しく付いてきたゴーレムを振り返る。


「で? 私の昼食を邪魔する理由は? また吉瀬様かしら?」


キッと睨みつけて質問したが、ゴーレムは目を希望に輝かせて頷く。


「はいっ! もう俺達じゃ吉瀬さんを抑えきれません。どうか姫様お願いします!」

「……その姫様って止めてくれないかしら?」


大きく溜息を吐くが、目の前のゴーレムは不思議そうに首を捻るだけ。


「吉瀬さんの姫様ッスからお姫様ですよ」


どうやらこのゴーレム知力が低いらしい。

馬車に乗りっぱなしで放置されてたのかな。


「それで吉瀬様はどちらに?」

「教室ッス! このままじゃ殺しかねません。お急ぎを姫様」

「あーはいはい」


『吉瀬』の名前が出されたのならば仕方がない。奴には借りもあるし行く他ない。


仕方なしに向かった先は、それはもう酷い状況だった。

机も椅子もバラバラ。ガラスは割れ壁に穴が開いてる。

毎度お馴染みの光景だ。

まぁお金持ちなお坊ちゃまお嬢様が通う我が校はこんなのすぐに修繕されてピカピカに戻るのだけど。

普通のクラスならば考えられないが、この教室だけはそんなことを繰り返している。


基本的に裕福な家庭で育ったお子さん達の中には、際限なく甘やかされて育った為にどうしようもなく歪んでしまうケースが一定数ある。

甘やかされた訳ではなくとも仄暗い出自で周囲からも辛く当たられ捻くれちゃったりとかね。

誰もかれもが真っ直ぐ育つとは限らないのが教育というものである。


そんな子も学校側は見捨てたりしない。

見捨てるには彼らの親の裕福さは魅力的過ぎるのだ。

しかし学校の品位を落としかねない素行の悪い生徒は危険だろう。

だから臭いものには蓋。

素行の悪い生徒は一つの教室に集め、学校内のことなら大概は目を瞑る。

その代わり学外では暴れてくれるなという暗黙の了解が我が校にはあるのだ。

もしくは自分の家の力で揉み消してくれってこと。

光あるところにはいつだって闇が付き纏うものだ。


しかしこうも毎回だと学校側も大変だ。

まぁ臭いものには蓋スタンスをとっているのだから自業自得ともいえるが。



体を押さえるの数人を軽々と払いのけ、一人の生徒を顔の原型が分からない程ボコボコに殴り続けている男。

止めに入りやられたのだろう、辺りは死屍累々だ。

勘弁してよ、と内心深いため息を吐き出してから口を開く。


「もう止めて下さい吉瀬様」


小さい一言であったが男の耳にはしっかりと届いたらしくピタリと拳が止まる。

喧騒はなりを潜めその場の意識のある者全員がこちらに視線を向けた。

男は胸ぐらを掴んでいたぼろ雑巾よりボロボロな奴をポイッと投げ捨てると、今までの凶暴な顔はなんだったのかと目を擦りたくなる変わり身の速さで綺麗に微笑んだ。


そして普段の厳つい姿からは考えられない程、嬉しそうにバックに花を撒き散らしながらフワフワとした足取りでこちらへと進む。


「どうしたんだ? こんな危ない所に来ては駄目だろ? 俺のお姫様」


恭しく私の手を取りごく自然にチュッとそこへ口付け。

その一連の流れをうんざりしながら見つめる。

毎度毎度勘弁して。


厳ついが物凄く顔の整っている吉瀬ならばそんな動作も様になる。

しかし相手がファンクラブ隊長という所謂悪役な私では違和感が付き纏う。

現に今も『見ちゃいけないものを見ちゃいました』的な気まずい空気が漂っている。


「吉瀬様が暴れているから止めてくれっと言われたんです」


取られていた手をそっと抜き、さり気なく後ろで拭く。


「……どいつだ? 姫をこんな野蛮で危ない所まで連れてきたクズは」


険しい顔で周囲を睨みつける吉瀬にゴーレムは青ざめた。

安心しろ言う気はない、あんたは馬車にお帰り。


「そんな事より、なぜこのように暴れられていたのですか? 私驚いてしまいました」

「恐がらせて悪かった。か弱い姫には刺激が強過ぎたな」


そう言って再び手の甲へと落とされるキスに鳥肌が立つ。


この悪ふざけが過ぎるお姫様ゴッコも、この男の場合本気で言っているからタチが悪い。

今も心配そうな申し訳なさそうな目でこちらを見つめている。


「頭の悪いゴミムシを排除していたんだ。まだ理解していない奴が残っていて、つい頭に血が上った」


忌々しそうに床に伏す生徒を睨みつけて呟く吉瀬。

大方私の悪口でも言ったのだろう。


少し前までこのクラスでも私の評判はすこぶる悪かった。

会長狂いのヒステリック女の話題はこの教室でも面白おかしく語られていたようだ。

しかし私が吉瀬から姫様認定を受けて事態は変わった。

少しでも私の悪い噂を口にする人間にはよくこのような制裁が行われるようになったのだ。

直接ではないしにろこの惨状の原因が自分にあるのだと思えば良い気はしない。

怪我を負った生徒は大丈夫だろうかと恐々横目で窺えば、吉瀬からチッと低い舌打ちが響く。


「おい、このゴミをいつまで置いておくつもりだ。お姫様の目が汚れるだろ、早く捨てて来い」

「はい!!」


数人がかりで外へ運び出されたボロボロの生徒。

どうかそのまま保健室に運ばれますように。そして養護教諭はちゃんと仕事してますように。


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