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14:クレーマー


(鼻)血の海でピクリとも動かない副会長。そして呆然と佇む会長ファンクラブ隊長の私。

一体何曜日のサスペンスだ。


このあまりにもよろしくない状況を誰かに見られては一貫の終わりだ。

どーしよどーしよどーしよ!


いや待て待つんだ私! 落ち着くんだ。

頭を抱えて震えるだけでは事態は好転しない。ここは冷静に対処しなくては。

奮起した私は勇ましく副会長の元へ進み、鼻血を所持していたティッシュを全て使い取りあえず拭う。

ふむ、麗しの王子様が戻ってきた。


それではスコップを探そうか。

丁度この櫻の木の下なんて深い穴が掘れそうだし。

よし、来年は今年より更に綺麗な桜が咲くだろう。副会長よ永遠なれ。南無。


「う………」

「ハッ!」


副会長の遺体の処分について恐ろしいことを考え始めたが、ここで副会長がピクリと身じろぎ小さく呻き声を上げたことにより正気を取り戻す。

そうだ、まずしなければならないのは介抱だった。


見たところ副会長はまだ目を覚ましたわけではなさそうで、苦しそうに眉間に皺を寄せたまま眠っている。

後頭部にはでっかいタンコブが出来てしまっており、肘鉄食らわせた鼻も若干赤くなっている。

このタンコブと鼻は冷やした方がいいだろう。


幸い保健室はここからかなり近く、急いで氷を取りに駆け込む。

残念ながら保健室に先生は居なかった。また誰かとしけこんでにいるのかと思ってしまうのは私の性格が悪いのか彼女の自業自得か。とにかく不在ならば仕方ない。

氷をビニールに詰めてもと来た道をダッシュ。


まだ伸びていた副会長を肩で息をしながら眺め、ふと不安が私の心を掠める。

目覚めた時の報復が怖すぎる。

この人なら天下を得たとばかりに暴行問題として取り立てて私を吊し上げるくらいはしそうだ。

良くて停学、悪くて退学………このまま放置しちゃダメ?


何はともあれ果たしてどこまでしらを切り通せるかが問題だ。ああ面倒なことになった。

この時悪魔が優しく囁いた。

この人いっそ目覚めなければイイノニ………ハッいやいやダメだって私っ!


眠っている副会長のたんこぶに氷を乗せつつ、脳裏にチラつく『完全犯罪』の文字を必死に打ち消しながら私は悩んだ。


「うーん………ん、あれ?」


そんなこんなとしている内に目覚めてしまった副会長。

ああ、もう一度頭殴ったら記憶飛ばないかなぁ。


「ここは? 私は一体……あっ、貴女!」


副会長は戸惑ってキョロキョロと視線を周囲に巡らせていたが、立ち竦んでいた私を見つけるとガバッと起き上がった。 その表情は明らかに警戒態勢だ。

私の方も仕方なく腹を括る事にした。

こんな事になったのならもう仕方ない。


「私をこんな所に連れて来て、一体なんの目的ですか!?」


威嚇しているのだが恐怖が瞳に表れており、まるで警戒心の強い子猫のようだ。

そんな彼を宥めるように優しく微笑む。


「目的なんて、そんなものありませんよ」

「ひぃ!」


更に怯えて涙目になってしまった、なんでだ。

そんなに恐がる事ないのに失礼極まりない。

そりゃ、ちょっと危ない事が一瞬脳裏に浮かんだのは認めるけどさ。

大丈夫、私は悪魔に打ち勝ったのだから。さぁこの天使の笑顔で安心なさいウフフフフ。


一歩近づくと一歩分後ずさる副会長。

そんな彼の正面までズカズカ向かうと、その場に正座した。

行動の意味が分からない副会長はポカンと私の顔を見つめる。


「その……故意でないとはいえ、 暴行を働いてしまい申し訳ありませんでし た」

「……へ?」


素直に謝るしかもう打つ手はない。

ぺこりと頭を下げた私の後頭部に向けて気の抜けた声が飛び出す。

恐る恐る顔を上げて副会長を窺うと綺麗な色の瞳を丸くさせ驚いていた。

副会長が正気を取り戻すのを待つべく、しばし見つめ合う形となった私達。

数秒すると彼はハッと意識を取り戻し、何かを振り払うように大きく頭を左右しいつものように目を吊り上げた。


「そ、そうですね。この私にあのような暴力、許されない事です」


顎を上げてフンッと鼻息を吐き出す副会長。


「最初から分かっていましたとも、貴女がとんでもない狂暴女だということは。そもそも私を気絶させて一体なにをしようとしていたのやら。狂暴性に加え、破廉恥で狡猾な人間であることは言うまでもなく―――」


一度喋り始めた副会長の口は止まることを知らない。

こんにゃろ、気絶している間にエム字開脚させて写メっときゃよかった。


「頭を打たれたので一応病院で見て貰った方がよろしいかと思います」


長い戯れ事を完全スルーしつつ会話を進める。

加害者な私の気まずげな態度に気を良くしたらしく、副会長の顎は更に上を向く。


「まぁ、ただで済むと思わない事ですね。 私は会長のように甘くないですから。必ず隊長辞任に追い込んでやりますよ」

「はぁそうですか。それよりもう少し頭に氷乗っけてた方がいいですよ」


起き上がった拍子に落ちてしまった氷の入ったビニール袋を拾い副会長に差し出す。

せっかく取りに走ったのだからもう少し使ってよ。

相手にしない私が気に入らないらしく、その氷を見ながら副会長の眉間に皺が寄る。


「冗談だと思っているのですか? 私は本気ですよ」

「はいはいそうでしょうとも。ほら、どうぞ」


受け取らない氷を強制的に頭の上にポンと乗っけてあげる。

そのコブ本当にでかい、さぞや痛かろう。ほれ、冷やしなさい。

親切にグイグイとコブに氷を押し付けてあげると、副会長から呻き声のようなものが漏れた。

それに少し胸をスッとさせながら話を進める。


「私自身はファンクラブを辞めてもいいと思っています。しかし諸事情というものがありまして」

「諸事情? ふん、どうせ会長と離れるのが惜しいだけでしょう。この二股淫乱女が」


ぶちん、と本日二度目の堪忍袋の緒が切れる音がした。


「今すぐ黙らないと副会長様の麗しい肛門に私の卑しい右腕を突っ込んでその綺麗に並んだ奥歯をガタガタ鳴らして美しいハーモニーを奏でてもいいんですよ」

「ひぃぃぃぃ」


ネイルに行ったばかりの鋭く整備された右手をシャキッと突き出せば、副会長から恐怖の悲鳴が漏れる。

こんな清純派美少女を捕まえて二股淫乱女とは、許すまじバカ王子。

大体私なんでこんなに必死にキャラ死守してるんだっけ?

いや、この人のケツの穴に手ぶちこもうとしてる時点であまり守れてないけどさ。

考えれば考えるほど馬鹿馬鹿しくなってきた。もうどうにでもなれ。


「そもそもですね、会長様が許しませんよ。だって私を強引に隊長に据えてるのは会長様なんだから」

「は? どういうことですか?」


しっかり手で尻を押さえながら首を傾げる副会長。


「こっちだって辞めれるもんなら、こんな馬鹿みたいなこと速攻で辞めてるって」

「え?」


いつもならば心の中でぼそりと呟く愚痴が口の外へ零れ出る。

その愚痴に耳を疑う、とでもいうように聞き返す副会長。


「私が会長様の遠い親戚だということは知っていますか?」

「え、ええまぁ」

「実は私と会長様……というか悠生さんは同じ家で暮らしています」

「!?」

「身寄りのなかった私を引き取って下さった家のご子息である悠生さんに密かに頼まれ、現在ファンクラブの隊長をしているんです」


副会長は私から寄越される情報を脳内で慌ただしく解析しているらしく、深く考え込んでいる。


「それに彼には個人的にも大きな恩があるんです。だから辞めるなんて言えません。本当は一般男子高校生のファンクラブなんて恥ずかしくてやってられないのですがね」

「ちょっと待ってください下さい。仮に百歩譲ってその話が本当だとすると、会長はなんの目的で貴女にそんなことを?」

「それは……ほらまぁ、色々と、ねぇ?」


まさか彼は未だに脳内中学二年ですなんて、生徒会の仲間に言えるわけがない。私が喰い殺されてまうわ。

ヤケクソ気味だった私だが、理性がそこはストップをかけた。まだ死にたくはないもん。

言葉を濁す私に副会長は深い溜め息を吐いた。


「そんなデタラメ信じるわけないでしょう」

「でも小さい頃から一緒だった悠生さんをそんな対象として本当に見たことはないです。かつては兄のように慕っていたんですから」


何も考えず吾妻を兄と呼ぶ幼い日の自分、そして両親の死まで遡って記憶が甦り苦い気持ちが広がる。

呆れ気味に何か反論しようとしていた副会長だが、私の表情を見て口を嗣ぐんだ。


「私が好きなのはカズ君だけです。彼以外なんて考えられません。この気持ちだけは疑われたくないんです」


真っ直ぐに副会長を見据えて訴える。

いつだってこの苦い気持ちから救ってくれるのはカズ君だ。

私の真剣な視線に怯んだ様子の副会長は戸惑ったように口を開く。


「……本当、なんですか?」

「はい」

「……本当に会長のことはなんとも?」

「はい、なんとも」


何をそんなに? と首を傾げたくなるほど必死の形相で私に確認を取る副会長。


「……貴女のあれは演技だったんですか?」

「紅天女はアタイのモンさ」

「……?」


立てた親指を自分の方へ向け胸を張るが、副会長は漫画を読まないらしい。反応がイマイチでつまらない。


「……保身に走った詭弁ではなく?」

「白馬は馬ですとも」

「……会長はただの親戚で恋人は先程の電話の相手だと?」

「そうです。ラブラブで羨ましいだろう、トイレスリッパ装備したくなっただろう」

「……では、私はこれからどうすればいいのですか?」

「ん?」


しつこい副会長の確認に適当な返答をしていたが、訳の分からない質問が飛んできた。


「私のイチカへの気持ちはどうなるのです?」

「いや、知らんがな」






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