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12/24

12:スズキ屋の息子さん

私が副隊長を追い出した話は退屈な学園生活には、なかなかにセンセーショナルな出来事だったらしく好奇と畏怖の視線が絶えない。

トイレですっきりさせた後もキリッとした顔をしていなければならないなんて、表情筋は持つだろうか。


昼には完全に疲れ果てた私は、どこか一人で昼食が取れる場所を探す。

しかしいい場所が見つからない。

人が来ない所って、大抵ジメジメして暗い。

もしそんな所に私が居るのを目撃されれば、怪しげな黒魔術でもやっていたと噂されかねないだろう。


色々思案したところ、一昨日転校生を呼び出した校舎裏の花壇を思い出す。

あの花壇は生徒が自由に何か植えていいスペースなのだが、土いじりが趣味の生徒は誰も居ないらしくお情け程度にポツポツ地味な花が咲いているだけだ。

代わりに学園の門を潜ると、庭園といって差し支えなく整えられた四季折々の美しい花々が出迎えてくれるので見向きもされていないようだ。


あそこならば誰も居ないだろう。

喜び勇んで向かったそこは案の定誰も居らず、地味な花達もお日様を浴びて気持ちよさげに日向ぼっこしている。

うん、なんだか味があって良い場所だ。


パンを取りだし花壇に腰掛けて食べた。

まぁ本当は生徒会は食堂で食べるのでそれに合わせてファンクラブも普通食堂へ行くのだが、たまにはサボったっていいじゃないか。

漸くお腹も落ち着きぽかぽか陽気が気持ち良くて微睡んでいた時、ポケットの携帯が震え始めた。

画面に表示される名を見た瞬間、眠気が一気に吹っ飛んだ。


『もしもしはるちゃん?』

「うん、どうしたのカズくん」

『いや、特に用事はないんだけどさ。今何してるのかなぁって気になって』


昼間に彼から電話が来るのは珍しく嬉しさに顔が綻ぶ。


「今はねぇ外でご飯食べてる」

『そうなんだ。でもいつもは食堂で食べてるって言ってなかったっけ?』

「今日は天気いいからね。ピクニックみたいで気晴らしにいいよ」

『へー……誰かと一緒に食べてるの?』


ギクッ。一人寂しくボッチ飯だけど、嫌われ者だから昼を食べる相手が居ないなんて言いたくないなぁ。


「いや、一人で食べてるよ。ほら、たまには静かに心を落ち着けたいっていうか」

『一人なんだ、良かった。誰か男と一緒だったらどうしようかと思って心配しちゃった』


あー、そっちか。良かった良かった。

それなら大丈夫、男子どころか女子すら寄ってきてくれないんだから。

自分で言って悲しくなるが事実だ受け止めよう。


『はるちゃんは可愛いからね。いつも僕は気が気じゃないよ』


グホッ……鼻血でそうだ。

なんで彼はこんなに甘い言葉をさらりと吐けるのだ。

普通の男子高校生の口から出るには照れるだろう言葉をサラリと言ってのけるので、こちらの方が照れてしまう。

でも物凄く嬉しい。


「だ、大丈夫だよ。私がカズ君以外を好きになるわけないし」

『本当!? うわっヤバい凄い嬉しい。僕もはるちゃん以外なんて考えられない。はるちゃんだけを永遠に愛すよ。はるちゃんは?』

「私もカズ君をあ、愛してるよ」


第三者が聞けばトイレのスリッパで後頭部をフルスイングされても文句を言えないようなクソ甘い会話。

うわー愛してるとか言っちゃったよ!

嬉し恥ずかしやっぱり嬉しい。

しばらくこの甘い雰囲気のまま会話は続き、もうどうやって表情筋を引き締めていたのか思い出せそうにない。


『じゃあまた夜に』

「うん、待ってるね」


名残惜しくも電話を切る。

あー幸せだったなぁ。


だが幸せとはいつまでも続かないもの。

まだだらけている表情のまま教室に戻るべく方向転換をして、表情筋はビキリと固まった。


「え………?」


そこには大きく目を見開き信じられないものを見た直後のような、驚愕の面持ちでこちらを凝視する。


「ふ、副会長様?」


えぇぇぇ!?

なぜあなたがこんな所にぃぃぃ!?


いや、待って。

そもそも一昨日この花壇に転校生を呼び出したのは、ここが王子様な副会長の散歩コースだからではなかったっけ?

うわぁぁ私の馬鹿っ!

いや待って、まだ電話の内容を聴かれていたとは限らないし。


「えっと……いつから、そこに?」


微かな望みを込め、固まったまま動かない副会長に尋ねた。

今来たところ、と言って! 言って下さい!

私の質問でハッと意識を取り戻した副会長。


「電話を始めた時からです」


クソっ、全部聞かれてたか。

ああ……外でカズ君と電話するなんて不用心過ぎた。

副会長はまだ若干呆けていたが、次第に眉間にシワが寄って来る。


「たまたまアナタを見かけて、また何か企んでいるのではと思いコッソリ見張っていたのですが……驚きですね」


よりにもよって副会長に聴かれるなんて最悪だ。恥ずかしくて穴に入りたい。


「その『カズ君』というのは恋人ですか?」


そうだよ恋人だよ。しかも優しくてゲロ甘なんだぞ。イケメンじゃないけど可愛いんだ。どうだ羨ましいだろ。

と自慢したかったが口にはしない。トイレスリッパ装備されちゃうよ。

取りあえず様子見だ。


「まさか会長の他にも相手が居るとは」


私が返事をせずとも副会長は自分で言って自分で納得したようで、顎に手を当ててフムフムと知ったような口振りだ。

え? ちょっと待って! 会長の他にもって、吾妻とはそんなんじゃないよ。

この人も変な誤解してたのか。


「会長に一途だというところだけが貴女の唯一マシな部分だと思っていましたが、それすらも違ったとは。貴女はどれだけ腐った人間なのですか?」


副会長は呆けから完全に脱出したらしく、いつもの蔑んだ目と辛辣な言葉を容赦なく浴びせてくる。

この人のこういう嫌味にはもう慣れたけれど、今回は心外だ。

カズ君への一途さなら誰にも負けないと自負しているのに、それをいくら勘違いでも咎められたくはない。


でもまぁ副会長は私にとってどうでもいい人間だ。

だから彼に自分がどう思われようがどうでもいいし、カズ君への想いを分かって貰おうとも思わない。

よって私は決めた。


「えぇ? 一体なんの事を仰っているのですかぁ?」


完全にとぼけちゃおっと。

どうでもいい人の相手なんてする必要なし。もう誤解しとけばいい。


「私はただ、友人とふざけて会話していただけですよぉ?」


キャプー? と言い出しそうなブリブリした口調。

多分鏡の前で同じ事を言えば、鏡を粉々にしてしまう自信がある程今の自分はキモいだろう。

そんな私に副会長の顔も不快さを露わにしている。


「まさかごまかす気ですか?」

「ごまかすって何をですかぁ? キャプー?」


あ、言っちゃった。まぁいいや。


「じゃあ私は教室に戻りますね? 副会長様と二人きりなんて、とっても光栄でしたぁ。キャハ!

本当はもっともっとお喋りていたいのですが、素敵な副会長様を私が独り占 めしちゃうと他の子達に怒られちゃうので、これで失礼しまーす」


逃げるが勝ちってやつ。

一方的にまくし立ててその場を去った。

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