第4日目~まだ続く~
自分の仕事は 何故やっているのか
改めて考えてみよう
人?それぞれ 理由がある
何となくやってる? 目的や目標をもってやっている?
いろいろ聞いてみよう
水を飲んで 部長 アリッシュ君 ハムタが 僕の前に来た
僕も ペットボトルのお茶を飲みながら 待っていた
部長が
「わしらは 昔 言うても3ヶ月ほど前までやけどな 駅の中の色んな所で暮らしとったんや わしなんかは 生まれてものごころがついた頃には駅におった 食べ物なんかは 誰かがくれた それでも 一番お世話になったんは ホームレスのおっちゃんや わしが一番お世話になった おっちゃんは 昔町工場で職人やっとた おっちゃんや そのおっちゃんは周りから’部長’って呼ばれとった」と一息ついた 僕も聞きながらお茶を飲んでいた ハムタもペットボトルのふたに 入れたお茶を飲んでいた
そして 部長が続けて話し出した
「その 工場も親会社から注文が来うへん様になって 倒産してしもたんやて ほんで そこの社長は 工場で首つって死んどったそうや それを見つけたんが そのホームレスのおっちゃん やったんやて」と語った 僕は
「嫌ですね 辛かったでしょうね」と言うと 部長は
「そんで そのおっちゃんも 結局ホームレスになってしもうたんや そやけど 家は無いけど 毎日真面目に暮らしとったで そやけどな もう年が年やさかい 仕事もギョウサンあれへん それでも頑張とったで 盗みなんかは絶対せえへんかった」と言った 僕は ここを訪れるきっかけになった あの万引きのご婦人のことが頭をよぎった するとアリッシュ君も 話を始めた
「僕は 気がつくと 周りに仲間のウサギがいっぱい 居ました でも僕はその時 周りのウサギより 大きくなっていました そこで 僕より小さい仲間は 一匹とか二匹 捕まえられて綺麗な箱に入れられて 子供達に渡されていきました 僕も子供達の所に行くのが楽しみでした でも僕は子供達に渡されませんでした そのうち『これ処分やな』とか言ってるのが 聞こえてきました 僕はそのころ まだ日本語もよく解ってなかったのですが 翌朝何匹か袋に入ていかれました 僕も捕まえられました でも 嫌な感じがして 袋に入れられる前に 逃げ出しました そのとき ハムタも一緒に逃げ出しました 逃げ回ってるうちに ホームレスのおじさんに出会いました その時ハムタも一緒でした」そう言うと ハムタが飲んでいたお茶を アリッシュ君も飲んだ そして続けて話した「そのおじさんは 部長がお世話になってたホームレスのおじさんの 隣に住んでました 僕がお世話になったおじさんは かつて喫茶店をしてたみたいです でも 大手のコーヒーショップが近くに出来たり 常連さんも高齢になって来られなくなったり 周りのお店も閉店して 人通りが少なくなって お店を閉めたそうです それで ホームレスになってしまった みたいです そのおじさんが やってた喫茶店の名前が’アリス’ってな名前だったそうです それで周りの皆は’アリスさん’とか’アリスくん’とか言ってたんですけど 隣に居たホームレスのおじさん 部長がお世話になってたおじさんなんですけどね 歯が抜けてた関係か’アリッシュ君’って言ってたんですよ だから僕は今でも’アリッシュ君’なんです」と言った 僕は(こいつらも苦労してるんやな)と思った そして
「その おじさん達は今元気なんですか?」と聞いた すると3人とも 黙って下を向いた 部長が
「3ヶ月ほど前 この駅の改札出た所の地下で ホームレスが襲われた事件有ったん 知ってるか?」と言った 僕もその事件は記憶があったので
「はい 覚えています」と答えた すると部長は
「その事件で 襲われたんが わしと アリッシュ君 ハムタが世話になっとた おっちゃんらやねん」と言った アリッシュ君は下を向いたままであった 部長は
「合計4人のホームレスが 襲われたんやけど 2人は死んでしもた 死んだ2人は わしらが世話になとった おっちゃんらや」と言った 僕はなんと答えて良いか迷ってると アリッシュ君が
「怖かったです もう何がなんだか解らず 逃げました」と言った そして部長が
「とにかく逃げた 2日いや3日逃げたかな とにかく3人で食いつないで 逃げた それで この駅のこの上のホームの所 あんたが初めに アリッシュ君を見た所や そこににたどり着いたんや」と言った 僕は
「大変やったですね」と言った すると部長は
「実は もう1人大変な事になっとった 奴がおってん」と言った 僕は???と思っていると
「あんた が初日にここに 泊まった時来た駅員がおったやろ あれや」と部長が言った 僕は
「あの駅員さんが?」と言うと 部長は
「わしらが 上のホームに行ったら まさに今から 自殺します って感じで 線路を見て立ってたんや わしは これはヤバイ と思ったんや」 するとアリッシュ君も
「僕も この人死ぬ!と思いました」と言った
「それで わしが あんた 何してんねん 死ぬ気か?と聞いたんや そしたら あいつ ビビリよったで」と言った 僕は
「そりゃ 猫が 話したら 誰でも驚きます」と答えた
「そんな ビビル事かな?」と部長は答えた 続けて部長は
「まー ビビリながらも その駅員は今 自分が置かれてる立場っちゅうもんを 話し出したんや」と言った 僕は
「その駅員さんも 色々有ったんですね」と言った
「その駅員 基本的に気が弱すぎるねん!」と部長が強く言った「ホームレスが襲われた時に その近くの改札付近に おったんが あの駅員や それで 女の人が『誰か襲われてます!』って その駅員の手を掴んで 無理やり あの現場に連れて行ったみたいやねん それであの現場に行ったら あの駅員 ビビリまくって腰を抜かしてしもたんやて」と言った 僕は(僕も同じ立場になってたら 腰を抜かしてたかも知れない)と思った 部長は
「それで あの駅員半分パニクッてたら 誰かが先に 通報したみたいでな すぐに警官が来たんやて それで警官に『なんでもっと早く 知らせてくれなかったんですか! この方たち凄い怪我してますよ』って怒られたんやて その後 自分の持ち場に帰ったら 上司が『あなたは 持ち場を離れて 職場放棄ですか』と怒られ その後も嫌みをネチネチ言われたそうや まー普段から 嫌みをよー 言われてたみたいやねんけどこの時は 酷かったらしいわ」と言った 僕は
「その駅員さん 無理やり連れ出されて それで そんな事になってしまって しかも助ける事が出来なかったって 辛いですよね」と言うと 部長が
「不幸は まだ続くねん」と言った 僕は(きついなー)と思いながらも 聞いていた
「翌日の午前中に 又 男の人が『誰か倒れてる』って その駅員捕まえて 駅前の植え込みの所に 連れて行ったんやて 見たら 植え込みの中に人が倒れている その駅員は 又ビビッテ腰抜かしそうになりながらも 119に電話したんや 救急車が来て 辺りは騒がしくなったんやけど 救急隊員の話やと『おそらくは 自然死でしょう』っちゅうことやったんや それで 持ち場に帰ったら 例の上司が『お前は 何回職場放棄をしたら気が済むんだ! 大体ホームレスなんか放っとけばいいんだ』と言われたそうだ そもそも その上司は ホームレスの事が 大嫌いらしく 普段から『邪魔だ 汚い』と言っとったそうや」と部長は語った アリッシュ君は
「ホームレスのこと あまり良い印象を持ってない人多いですからね」と言った 僕は黙り込んでいた 部長は強い口調で
「ホームレスになりたくてなった人 おらんねん! 色々有ってなってしもうたんや 餓死するぐらいやったら 物盗んだ方が 楽に決まってる そやけど 盗みなんかしない人 多いんや」と語った 僕は「それでその駅員さんは どうされたんですか?」と聞いてみると 部長は
「そや その駅員はな わしらが 自殺止めた後に『色々悩むのが 嫌になりました』と言って 座り込んでしもた そんでな『あの上司と会いたくないです せめて最後は あの上司が困るように このホームから身を投げたいと思うんです』って言うて 又立ち上がったんや わしらは ここで死なれても 嫌や思てな 駅員に向かって『あんた 駅員になったんは 電車が好きでなったんとちゃううんか』って言うたんや そしたらその駅員は 泣きながら『電車 鉄道大好きです』って言うたんや わしは『好きな電車の線路で死んだらあかんの違うんか』って 言うたんや」と部長はしみじみと語った そして水を飲みに行った ハムタも僕の膝の上で 大人しくしていた 水を飲んできた部長が
「わしはな あの駅員に『あんた 今 ホームレスが襲われたり 亡くなったりしたから 嫌な思いしてるんやな』と聞くと 駅員はな『はい 色々嫌な事も有りますが 今 最大の嫌な事はそれです』てっ言うたんや そやからな『わしらホームレスにも顔効くし 駅の中うろついとっても 怪しまれへん 人が入られへん所にも行けるし 高い所も平気や そやから 見回りしたろか?』って言うたんや」 僕は(見回り?)と思っていると 部長は
「初め あの駅員きょとんとしとったけど 藁にもすがる気持ちやったんやろうな『お願いします』って言うてきたんや それで ここの もの置きになって使こうてへんかった この部屋を内緒で使わしてもろてるんや」と言った
部長は いつも自分がいる 奥の机の上に置いてある携帯電話を手で示しながら
「これで 連絡するんやけどな ここのボタン押してから ここのボタン押すんや」と言って 僕に見せた
「これプリペイド式ですか?」と聞くと
「そんなんは よー解らへんけど 連絡が役にたってる事は 事実や」と部長は説明した
「この前も ホームレスが弱ってたんを連絡したら 匿名で 救急車呼んだらしいねん それで体悪うしとったホームレスが助けられたしな 変な奴がうろついてたんも 見回りの警備員をそこらへんに 行くようにしてもろたしな」と 説明してくれた
僕は(この3人も 頑張って働いてるんや)と思った
明日の仕事も 頑張れるように しないといけないと思った