#5 入部届
初めまして。葵兎画と申します。
まず初めに、ここまで読んでくださって本当にありがとうございますm(__)m
今回までが第一章となっています。次が第二章からのスタートですね。
それと皆さんに謝らないいけないことがあります。
毎回更新が遅くなってしまい本当に申し訳なく思っていますm(__)m
自分の力不足を改めて実感いたしました。
次回以降はなるべく更新速度を上げていこうと思っていますのでこれからもよろしくお願いいたしますm(__)m
一晩考えて出した結論だった。
「おお、これは」
松島は素っ頓狂な声を上げた。二枚の紙を手に取ると締まりのない顔つきになり、それを高だかと掲げ眼を輝かせていた。まるで子どもが新しい玩具を手に入れたときのアレと重なるものがある。彼はその紙を暫し眺め、俺たちに「ありがとう、ありがとう」と感謝の言葉を並べて、最後にはお決まりの「希望の星だ」と言ってもてはやされた。俺と一之瀬は昼休みの空き時間を利用して職員室に新聞部の入部届を提出したのだった。
俺が入部を決めたのは、新聞部が自分にとって都合のいい部活だと思ったからだった。
昨夜、自宅にあるパソコンで光高校のホームページから新聞部のことを調べることにした。というのもこの学校――光高は入学時に定められたユーザーIDと自分で決めたパスワードを入力して光高のホームページにログインをすることにより、様々な機能が得られるのだ。例を挙げれば教員紹介、部活動一覧、年間スケジュール、WEBメール、チャットルーム、などなど。この学校に通うのなら、活用しておいた方がいいだろう、と一之瀬に教えてもらった。案の定、それは正解だった。
今回、俺が使用したのはその中のひとつである部活動一覧。ここには部活の一覧だけがずらずらと並べられているだけではなく、昨年までのデータを基に、各部活の担当の顧問が活動内容や詳細データを簡略に書き込んで、新入生が少しでも部活に興味を持つようにと作られたものらしい。調べたい部活を探して、その部活をクリックすれば、データが出てくる。
俺が閲覧したのは新聞部。内容は以下の通り。
部 活 名 新聞部
顧 問 松島幸次郎
活 動 内 容 学園新聞の発行
活 動 日 金曜日
活 動 場 所 現時点では未定
メ ッ セ ー ジ
新聞部は原則的に夏休み前と卒業式前の年に二回、学園新聞の発行を行います。また、生徒からの要望があれば、文化祭などにも発行できます。部活内容としては主に、部員に記事を書いてもらうことですが、それに加えて、教員や生徒からインタビューやアンケートを取っていただくことも活動のメインとしております。ですので、職員室、教室、各部活動の活動場所などと足を運んでいただくことが多々あります。そういった意味では様々ば場所に赴くので、交友関係が広がることもあるかと思います。
追 記
現在、新聞部は部員が少なく非常に困っている状態です。活動日も少なく、他の部活との掛け持ちがしやすい部活でもあるので、少しでも興味を持たれた方は是非、顧問である松島のところまで来てください。
当たり前だが、ほとんど松島の言っていた通りの内容だ。そして、その中で目に付いたのが、活動日と掛け持ちが可能という点だった――。
職員室を出た俺と一之瀬。昼休みはまだ時間があるらしく、一之瀬は他のクラスに用事があると、ここで別れた。俺は一之瀬を見送ると、特にすることも無いのでそのまま教室へ戻る。すると和馬が俺の席に座って頬杖をつきながら外を見ていた。俺が近づくと、奴は俺を見上げて、
「どこに行ってたんだよ」
と不愛想な面持ちで声を掛けられた。
「職員室」
一言そういうと、職員室? とオウム返しのように返してきたので、昨日の経緯も含めて松島から新聞部に勧誘されたことを和馬に告げた。
「嘘だろ! 昨日の呼び出しが部活への勧誘だったのかよ! てっきり説教かと思ってたのに」
和馬が腹の中でそう思っていたことは昨日の態度で分かっていたから特になんとも思わないが、改めて口で言われると腹立だしい。
「和馬と一緒にするな」
和馬はへんと鼻を鳴らしては、親指を自分へ向けて、
「オレはまだこの舞台では一度たりとも呼び出されたことはねぇぜ」
と言った。自分を持ち上げようとするときは相変わらず満足そうな顔をする。
「和馬ならいつか呼び出されるだろ」
それも職員室だけに収まりきらず、生徒指導室に。
「それで、入部の決め手はなんだよ」
和馬の声のトーンが下がったような気がした。表情は見えない。奴は外に顔を向けている。
「活動日が金曜日だけで、掛け持ちも大歓迎な部活。だから選んだ」
こちらを振り向き、なにやら煮え切らない態度を取った。そして和馬は言った。
「それだけか? それなら他の部だっていいだろ」
「そういう部を探すのが面倒だと思わないか」
今まで仮入部に行った部活の中には、週一ペースで活動をする部は存在しなかった。
「今回は松島が勧誘してくれたから、探す手間が省けた。それに新聞部は、他の部にインタビューをしに行くこともあるから、そのときに気になる部を見つけられるかもしれない」
「思い切ったな」
「そうか?」
「ユートだって言ってたろ。仮入部してもなかなか自分に合う部が無いって。それを仮入部もしないで、新聞部に入部するなんて、思い切った以外の何物でもないと思うぜ」
「自分に合ってるかどうかはともかく、部の雰囲気は悪くはない」
「なんでそう言い切れるんだよ」
「だって部員は俺と一之瀬だけだから」
「は?」
「部の雰囲気っていろいろあるけど、新聞部は部員がいないから雰囲気なんてものはない。松島が顧問だけど、まあ部活をやるのは俺たち生徒だからそこまで気にならないだろ。そう考えると、新聞部はお得な部だと思わないか」
「ちょっとまてよ」
お前は松島か。
なにやら考えているのか和馬は少し硬直している。しばらくしてから口を開くと、
「部員数ふたり?」
と訊いてきたので頷いて肯定した。というかなぜカタコトで言う。一瞬、この前教室で和馬がやってたロボットのモノマネが脳内で再生される。奴はそれを覚えていたのか、再びカタコトで喋る。
「ユートとイチノセ?」
「そう」
今の和馬は俺の言葉を読み取るまでに時間がかかるらしい。奴は難しい顔をして再び考え込むと、今度は妙案が浮かんだのか、表情晴れていった。きっとロクでもないことを思い浮かんだに違いない。
「素晴らしい部活だな、新聞部は!」
和馬はそう言うと、二、三度頷いてから、椅子から腰を浮かして立ち上がった。そして天にコブシを打ち上げる。
「決めたぜユート! オレは新聞部に入部する!」
思い切ったな。
「ひとつ訊いていいか」
「かかってこい!」
「なんで入部する気になった」
「ほとんどユートと志望動機は同じだが――」
人差し指を立てて和馬は続けた。
「しいて言えばひとつだけある。これがユートとは違う志望動機の差別化だぜ!」
すると今度は立てていた人差し指を引っ込めて、再びコブシを作ってみせた。
「松島が顧問だろ。だから今の内に恩を売っておくのも悪くはないと思ってな」
と言って、へへへと笑っては品の無い笑みを浮かべている。俺は奴が危険だとを感じとったので反射的にその場から一、二歩ほど後退して距離を取る。危ないやつだ。
「それに部員がユートとイチノセなら楽しい部活動になりそうだしな。それでユート、入部届はどこだ!」
「職員室の前に置いてある。それを松島に渡せば、希望の星って言われて部員になれる」
「わかったぜ。速攻で出してくるぜ」
時計を見ると昼休みもう五分も無いので和馬を呼び止めようとしたが、時すでに遅し。奴は教室から姿を消していた。
その後、和馬は晴れて新聞部の部員になったのだが、和馬曰く、松島の口からは例の『希望の星だ』ということは言われなかったそうだ。
廃部の危機に陥っていた新聞部だったが、はこれで部員が三名となったのであった――。