8-1
翌日は、ベッドに縫いつけられた感覚で目が覚めた。
そもそも昨日は、自分の部屋に帰ってくるなりベッドに倒れ込んで、ほとんど気でつするように眠った。朝起きたらなぜか布団の中にいて、布団から這い出るのもやっとなくらいには体全身がだるかった。……左手の痛みも、後から付随してきたって感じだ。
リビングに下りて来たところで、素直に休みなさいと姉に言われ、母さんに言われて。なんか逆に反抗心が沸いてきて私は学校に行くことにした。
「おっはよー。……。アキ……?」
いつもの曲がり角で、陽子は出会うなり眉をひそめた。相当やつれてるであろう私の顔をじっくりと眺めて、数秒間悩むように首をかしげて、最後はニカっと笑った。
「なんだよ……」
「なーんでも」
端が下がった目を向けても、陽子は含むように笑って、腕を絡めながら寄り添う。
「なんか、憑き物が取れたみたいっ」
「代わりに、うつ病一歩手前くらいには、精神的疲労が大きいがな」
私は呆れた溜め息をついて、けれど半ば陽子に寄りかかるようにして学校までの道を歩いていった。陽子のやわらかい感触とは裏腹に、体重を預けてもつぶれる事はなかった。ありがと。と呟くように言った。
校門をくぐった辺りで、なにやら黄色い歓声が聞こえた気がしたが……命斗か葵でも通ったんだろうか。隣で陽子も、照れるように笑ってるように見えた。
それから志刀や西貴と挨拶を交わし、須磨に一声かけて……全校集会に参加して。その後が記憶は実に曖昧だ。
多分二時間目くらいに限界が来て、急に意識を失った。
結局、今回の件は生徒会によるでっち上げと言うことで誤魔化された。
早朝の全校集会で、命斗は〝クロハネ〟の顛末として次のように語った。
学祭で『新・三獄話』なる物を企画していて、生徒会が三つの愉快で新しい怪談話を作り交付すると言うものだ。当日は、それにちなんだ衣装をまとった生徒が校内と歩いて回るといったものだという。それぞれの生徒にスタンプかシールを持たせて、スランプラリー的なものにしたいとも説明した。それで、考えていた一つが〝クロハネ〟で、事前に漏れたからついでにデモンストレーションにしてしまおうとかなんとか。
そんな他愛ごとで誤魔化されるかと顔をしかめていたら、日ごろの善良のせいか、集まった全校生徒は拍子抜けという感じに破顔していた。今更だが、不公平だと思う。
命斗は最後に、当日まで楽しみにしていてとちゃっかり宣伝をして会を締めくくった。
若干の緊張も砕けていく帰り道、
『後二人は誰なんだ?』
『何言ってんだ、一人だろ』
『いや無理だろ、普通。誰があの二人に肩並べれるんだって』
『黒歴史だな、はは。女子じゃなくてよかったぁ~』
『けど、今朝の子とかは、結構いい線行くんじゃねえの?』
などと、意味のわからないことで盛り上がる声を聞いて、後で痛い目見るんじゃないかと溜め息を漏らした。
後日会長様に問いただしてみれば、嘘は実現しない時初めて嘘になる――らしい。だったら私を巻き込むな。とは、体育祭があけて、『あなたたちの衣装よ』と葵ともども呼び出された時の私が言ったセリフ。つまり命斗がぐちぐち言っていたのは始めから私を巻き込む気だったってことで。
全く……迷惑な話だ。