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灰羽  作者: 学無
第七章
30/36

7-1

 二人分の支えがあっても、ずるずると膝が落ちた。そのまま床にへたり込む。やけに自分の呼吸音が大きくて、首筋や額にぼやっとした熱の塊が浮かんでいたり、手の先なんかまだ軽く痙攣していた。

 ああ、これが腰砕けってやつなんだなあ。とか、焦点の定まらない意識の中で思った。

「はあ、倒れるなら倒れると、直前でもいいから言ってくれないかしら? じゃないと、笹本さんなら無言のうちにどこかへ隠れて、そのまま動けなくなっていそうだから」

「……無茶言うな」

 茶化す命斗に私は憮然となって答えた。けど、二人がいてくれて良かったと思う。

「というか、お前は私のことを、そこら辺の野良猫か何かと勘違いしてないか?」

「おなか減ったらすり寄ってくるのもいるし、その点でいえば野良の方がまだ可愛げがあるかしらね」

 私が下から睨みあげると、命斗顎に人差し指を当てて、どこ吹く風とそんなふうに切り返す。相手を誘うような意地の悪いほほ笑みに、私は呆れた溜め息を漏らしながら、少しだけ体のコリが解けた気分になった。

 ふと、何か忘れてる……と思っていたら、隣でまっすぐな黒髪がすっと立ち上がるところだった。

「アキ、保健室」

 葵が短く言って、手を差し伸べる。

「いや、軽い立ちくらみみたいなものだから。もうだいぶ呼吸も楽になったし、そんな気にすることでもないよ」

 すぐに頭を横に振ったが、葵は手をとって少し強引に私を立ち上がらせた。

「いいから。……。会長、後をよろしくお願いします」

「ええ、任せておいて」

 腰に手を当てた命斗が、しょうがないわねとばかりに溜め息をつき、

「――て少し待ちなさいっ、これを一人で片づけ、ろ……て。……。もういないじゃない……。はあ、まったく……。誰か来てくれるかしら…………?」

 一人打ちひしがれるのを、私は廊下の薄闇の中、葵に腕を引っ張られながら聞いていた。

 左の甲を握った葵の手が、妙に熱かった気がした。

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