7-1
二人分の支えがあっても、ずるずると膝が落ちた。そのまま床にへたり込む。やけに自分の呼吸音が大きくて、首筋や額にぼやっとした熱の塊が浮かんでいたり、手の先なんかまだ軽く痙攣していた。
ああ、これが腰砕けってやつなんだなあ。とか、焦点の定まらない意識の中で思った。
「はあ、倒れるなら倒れると、直前でもいいから言ってくれないかしら? じゃないと、笹本さんなら無言のうちにどこかへ隠れて、そのまま動けなくなっていそうだから」
「……無茶言うな」
茶化す命斗に私は憮然となって答えた。けど、二人がいてくれて良かったと思う。
「というか、お前は私のことを、そこら辺の野良猫か何かと勘違いしてないか?」
「おなか減ったらすり寄ってくるのもいるし、その点でいえば野良の方がまだ可愛げがあるかしらね」
私が下から睨みあげると、命斗顎に人差し指を当てて、どこ吹く風とそんなふうに切り返す。相手を誘うような意地の悪いほほ笑みに、私は呆れた溜め息を漏らしながら、少しだけ体のコリが解けた気分になった。
ふと、何か忘れてる……と思っていたら、隣でまっすぐな黒髪がすっと立ち上がるところだった。
「アキ、保健室」
葵が短く言って、手を差し伸べる。
「いや、軽い立ちくらみみたいなものだから。もうだいぶ呼吸も楽になったし、そんな気にすることでもないよ」
すぐに頭を横に振ったが、葵は手をとって少し強引に私を立ち上がらせた。
「いいから。……。会長、後をよろしくお願いします」
「ええ、任せておいて」
腰に手を当てた命斗が、しょうがないわねとばかりに溜め息をつき、
「――て少し待ちなさいっ、これを一人で片づけ、ろ……て。……。もういないじゃない……。はあ、まったく……。誰か来てくれるかしら…………?」
一人打ちひしがれるのを、私は廊下の薄闇の中、葵に腕を引っ張られながら聞いていた。
左の甲を握った葵の手が、妙に熱かった気がした。