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「この前、歩とはよろしくやっちゃったわけ?」
「…………。ノーコメント」
「はは、やっぱりな」
西貴はなにやら楽しげに声色を緩めていた。
というか、陽子といいこいつといい、志刀と私がどうにかなるとでも考えてんのか? 志刀はただ情に熱いから、沈んだ私に気をかけてくれたってだけで。それに私がそんな対象になるのかさえ、最近疑問に――
「まったく何やってんだか。肝試しの時なんか、暗い教室んなかで二人寄り添って、バカップルよろしく二人だけの世界に浸ってたってのにな」
西貴の一言に、呆然と思考が飛んで。私はソファーから飛び上がって、顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「――っあ、な、なんで、それを! てかっ、二人の世界なんかおちてない! ああ、あれは足をくじいた私を志刀が気遣ってのことで、廊下とか階段だと誰が来るかわからないし、不用意に足引っかけられたら、あ、あれだからって教室にいただけ……。で、何となくお互いに気まずくて、……けど人肌って結構暖かいし、もともと眠気はあったからついうとうと…………」
言い訳も段々としどろもどろになる。だいたい、もとはといえば志刀の相方が階段でぶつかってきたせいで足くじいて、教室で休もうってことになったんだ。まあ、だからといって志刀を責めるわけでもないし、志刀が妙に優しいから言葉に甘えて肩貸してもらって……だから、他意は別にない……気づいたら志刀にすがるようにして寝てたのだって……不、不可抗力ってやつでっ。……あー、もうっ、顔が熱い。
顔のほてりを手で押さえながら、さぞ意気地の悪い顔をしてるであろう西貴を一瞥する。すると西貴は、憎たらしいほどやさしく微笑んでやがった。
「何かいいたそうだな?」
「別に?」
声を低くして睨んでも、西貴は含み笑いでとぼける。からからと、前歯を見せる人懐っこい顔を、今は思いっきり殴ってやりたかった。
「お前ら見てっと飽きないなぁ、と思ってさ」
西貴は降参とばかりに手のひらを見せて、けど顔のにやけはそのままに笑う。
どこか子供じみた爽やかな笑い声が、淡い夕焼けの中に響いていく。つられて私も少しだけ口角が上がった。
「くれぐれも、陽子には言うなよ」
「手遅れだな。あの時、日野は俺の隣で歯ぎしりしてたから」
冗談っぽく言う口調とは対照的に、私は陰鬱な溜め息を漏らした。だから、志刀と犬猿としてるのか。妙に納得。
けど、胸に渦巻いていた暗雲はいつの間にか霧散していた。
五章終了です。
物語りもクライマックスに・・