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昇降口では志刀がいつも以上に爽やかに挨拶してきた。正直志刀も昨日の今日で顔を合わせずらいだろうと思っていたが、陽子と犬を食わないケンカを続ける志刀には昨日のわだかまりはないように見えた。
それどころか志刀はいつになく余裕の表情で、途中目が合うと、
「恨まれ役は買ってやる」
と言わんばかりに、昨夜見たような苦笑を返してきた。
そして教室に付くなり今度は須磨が一喝した。怒り心頭に発すという真っ赤な顔で、我々の活動を冒涜しただの何だのと意味が分からない文句を並べていく。
私が無言で脇を抜けると、鼻を鳴らすだけでそれ以上は何も言ってこなかった。
休み時間になるたび、陽子が私に笑いかけ、百合香が上目遣いでよってきて。「……近い」と押し返してるうちに、いつの間にか志刀や西貴が近くにいて。志刀と陽子・百合香が腹の探り合いをするように対峙する……。西貴は飄々とした顔で、目が合うとはにかむばかりだった。
まるで私だけが昨日の事を覚えてるような、当たり前の景色が目の前にあって。
いつもより華やかな団欒の中で、私一人大きな影に覆われてるような気分だった。
昨日と同じようで、違う日々は、強くなってきた風のように止まることなく過ぎていく。体育祭まであと一週間を切ろうかという時期になって、部活組が休み時間や放課後の練習に打ち明ける日も多くなった。
その間『クロハネ』は、特に大きな噂もなく、けれど下火にもならない。体育祭をさぼりたい奴の言い訳に使われたり、その場の冗談的に使われるくらいには浸透していた。
単語自体を聞く機会は多いというのに、具体的には全く見えてこない。まるで誰かが規制してるかのよう。そう、あるいは、
「命斗が……? けど、理由がない。それに、……だったら、もっと騒がれてもおかしくないしな……」
生徒会が網を張ってるなら、それだけで話のネタになる。命斗は容姿だけでなく注目の的だから、盛んな学生たちの口に戸を立てることはほぼ不可能だ。
もっとも、私が気にしすぎてるだけなのかもしれない。クラスメイトも、違う学年の生徒も、目先の祭に向けてやる気全開。もともと熱血が性にあわない私が一歩引くほど盛り上がっていて、『クロハネ』はぼやけていってるようにも思えるのだ。
「ねえ、黒羽さんって――」
どこかから聞こえた声に、私の足が反射的に止まった。
黒羽、………黒い羽、夜の校舎、クロ……ハネ? 心臓の動きが激しくなっていく。
「リレーとか出てくれないかな~」
「あ、わっかる~~。黒羽さん、足速そうだし。……でも、なんか近づきがたいよね。目つききついし、そっけない感じだし……。私たちが頼んで聞いてくれるかどうか……」
「誰か説得してくんないかなー?」
後に続く和やかな会話を聞いて、喉に詰まっていた息を吐き出す。首の裏が張り詰めていて、呼吸するたびに体の熱を失っていくようで、私はしばらく動けなかった。
「ささちゃん――?」
焦点の定まらない視界の中で、百合香が前のめりに私を覗き込んできた。