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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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本日の結婚式は、新郎の吐血により中止となります。

作者: 有梨束
掲載日:2026/08/20

ええ。今日、夫になるはずだった人が、誓いのキスのあとすぐに口から血を吐きましたね。

私のウェデイングドレスも、裾が汚れましたし。

いい眺めでした。

両親が亡くなってから、はじめて生きた心地がしましたわ。


あの人、床に倒れながら、凄い顔で私を見ていましたね。

その顔に意味がわからないと浮かんでいて、本当にはらわた煮えくりかえりそうでしたよ。


私も多少口の中が爛れていますが、自分のやったことに後悔はしておりません。


……なぜ、こんなことをしたのかと言いたいのですね。

両親亡き後に引き取ってくれた伯父夫妻や、あの人…、夫となるはずだった従兄に対して、恩を仇で返した令嬢ってことになるんでしょうね、きっと私は。

もちろん、きちんとお話ししますよ。

王族に最も近い貴族の嫡男に毒を盛ったのですから、それ相応の処罰も受けますとも。



あの花、観賞するには真っ赤で綺麗なんですよ。

注意して育てれば、今回みたいに毒が回ることもありませんしね。

あの花、引き取られた家の庭の一画にたくさん植えられているんですよ。

本当に悪趣味ですよね。

庭師だって、管理が大変そうでしたもの。


何か不満なことがあったのか、ですか?

ああ、我が従兄殿は、女性人気が高いですものね。

何人の人に羨ましがられて、何十人に人に恨まれてきたことか。

あんな男でいいなら、いつでももらって欲しかったですけどね。


私があの家に引き取られたのは、今から5年前です。

従兄は、大層私を可愛がっていたので、「家族になろう」と私を連れ出しました。

『貴公子の唯一』なんて不名誉なあだ名もつけられましたっけね。

ええ、従兄の溺愛ぶりは皆さんに知れ渡るほどでしたものね。

他の男性どころか、女性まであまり寄せ付けない異常っぷりは凄まじいものでした。

おかげで、箱入り義娘のように世間様からは思われているようですね。


あの日、両親を事故で亡くした時、私はまだ12歳で、なす術もなくて。

葬儀から何まで、全部伯父がしてくださいました。

そのことには感謝しています。


ただ、その伯父とあの従兄が、両親を殺したと知るまではの話です。


あら、調査室の皆さんなのにご存知ないのですか?

まあ、あの人たち、そういうことを隠蔽するのが上手ですものね。

私だって、気づくのに時間がかかりました。

ええ、間違いございませんよ。

ついでに、私の両親を馬車で轢き殺した男も、あの家によって亡き者になっているようですよ。

本当に、自分たちの手を汚さないのがお上手なことで。

あんな連中と少しでも血が繋がっているなんて、悍ましくて、どれだけ気持ちが悪いことか…。


あの人たちは妹夫婦の何が気に入らなかったか、知っていますか?

特に何もなかったのですよ。

別に私の両親を疎ましく思っていたとか、そういうことではないんです。


ただ『私が欲しかったから』、それだけの理由です。


非道な従兄は、私に執着するあまりに私との結婚を常々要求していたそうです。

でも、私の両親がずっと断っていた。

だから、殺したのだそうです。

そしたら、私を家に引き取れて一緒に暮らせるし、他の誰の目にも触れさせなくて済むし、そのまま結婚だってできる。

ただそれだけのために私の両親は殺されたし、そんな息子の要求のために、あの伯父は殺しを容認した。

……私がどれだけ怒りに震えて、幾日も過ごしてきたか想像ができますか?


それなのに、あんな男の妻にさせられそうになっていた。

私が逃げられる日は、今日しかなかった。


私、今とても心穏やかなのですよ。

どうしてだか、お分かりになりますか?

あの家で眠らなくてもいいし、あの家の連中の顔色を窺わなくてもいい。

この独房が、あの家に引き取られてから、一番快適に感じます。


あの花…、真っ赤なあの花。

花びらを舐めると、舌が痺れるんです。

飲み込んでしまえば、あの男のように血を吐くことになりますが、舐める分には酷いことにはならないんです。

私はそうやって、自分を守ってきました。


あの男の私への執着はおかしい。

はじめて家に連れて帰られた日から、毎日キスされました。

子ども同士の可愛いものではなく、口の中を蹂躙されていくもので。

一回拒否したことがあるんですよ。

私も幼くて意味はよくわかっていませんでしたが。

そしたらですね、頬を打たれたんです。


『僕の愛が受け取れないのか!こんなに好きでいるのになぜ拒否するんだ!』


と、怒号を浴びせられて。

両親が亡くなったばかりの私は、この家の人を怒らせたら行く場所がないと思って、泣いて謝りました。

そのあと、あの男も泣きながら私を抱き締めたんですよ。

「君を愛しているからだよ」、と。


本当に愛してくれていた両親と随分愛し方が違うので、ずっと心に引っかかっていました。

でも、抵抗する力は私にはなかった。


だから、あの花を舐めることにしました。

感覚が麻痺すれば、少しは気持ち悪さがマシになるかと思いまして。

もうずっと口に含んできたので、かなり耐性もつきました。

味覚はとうになくなりました。

でもおかげで、式の間中、口の中に入れていても、私は血を吐くことはありませんでした。


あの男は、絶対に式でもいつもと同じように口の中まで入ってくる。

そう、確信していました。

だって、私を独占しているところを、式に来る全ての人に見せつけたいと考えているだろうと。

そういう場ではないことも理解した上で、抑えきれないだろうと。

そして、私からのものだったら、吐き出すこともないだろうと。


だから、私はただあの花をお見舞いしただけです。


耐性のない人間が飲み込んだのですから、血を吐くに決まっています。

あんな花を、これみよがしに育てているのが悪いんですよ。

この日のために、私は耐えてきたんだなと、あの人が倒れゆく時に確信しました。

本当に、胸がすく気持ちです。


あの人、…今はどうしているんですか?

治療の末、全身麻痺…、しかも歩行困難ですか。


あはははっ、いいざまですね。

できることなら、その姿、この目で見てみたかったですわっ!


跡継ぎの嫡男がそんな状態なんて、これから大変ですね。

きっと、彼らが思い描いていた未来にはならない。


え?…ああ、殺すつもりなんて、最初からなかったですよ。

そんなことしたら、一瞬の苦しみで終わってしまうではないですか。

これから、存分に人生を楽しんでもらいたいものです。


欲しいものが全てが手に入ると思ったら、大間違いだと、ちょっとはわかっているといいですね。


これであの人の嫁にならなくて済む、最高の気分ですわ。



はー、全てを話したら少しスッキリしました。

私は、…ずっと誰かに話を聞いてもらいたかったのかもしれません。


支配でも、束縛でもなく、ただ本当の話を。



私からは以上です。

減刑を求めておりません。

全て、国王陛下の処罰の元、従います。




お読みくださりありがとうございました!!

231日目。

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