本日の結婚式は、新郎の吐血により中止となります。
ええ。今日、夫になるはずだった人が、誓いのキスのあとすぐに口から血を吐きましたね。
私のウェデイングドレスも、裾が汚れましたし。
いい眺めでした。
両親が亡くなってから、はじめて生きた心地がしましたわ。
あの人、床に倒れながら、凄い顔で私を見ていましたね。
その顔に意味がわからないと浮かんでいて、本当にはらわた煮えくりかえりそうでしたよ。
私も多少口の中が爛れていますが、自分のやったことに後悔はしておりません。
……なぜ、こんなことをしたのかと言いたいのですね。
両親亡き後に引き取ってくれた伯父夫妻や、あの人…、夫となるはずだった従兄に対して、恩を仇で返した令嬢ってことになるんでしょうね、きっと私は。
もちろん、きちんとお話ししますよ。
王族に最も近い貴族の嫡男に毒を盛ったのですから、それ相応の処罰も受けますとも。
あの花、観賞するには真っ赤で綺麗なんですよ。
注意して育てれば、今回みたいに毒が回ることもありませんしね。
あの花、引き取られた家の庭の一画にたくさん植えられているんですよ。
本当に悪趣味ですよね。
庭師だって、管理が大変そうでしたもの。
何か不満なことがあったのか、ですか?
ああ、我が従兄殿は、女性人気が高いですものね。
何人の人に羨ましがられて、何十人に人に恨まれてきたことか。
あんな男でいいなら、いつでももらって欲しかったですけどね。
私があの家に引き取られたのは、今から5年前です。
従兄は、大層私を可愛がっていたので、「家族になろう」と私を連れ出しました。
『貴公子の唯一』なんて不名誉なあだ名もつけられましたっけね。
ええ、従兄の溺愛ぶりは皆さんに知れ渡るほどでしたものね。
他の男性どころか、女性まであまり寄せ付けない異常っぷりは凄まじいものでした。
おかげで、箱入り義娘のように世間様からは思われているようですね。
あの日、両親を事故で亡くした時、私はまだ12歳で、なす術もなくて。
葬儀から何まで、全部伯父がしてくださいました。
そのことには感謝しています。
ただ、その伯父とあの従兄が、両親を殺したと知るまではの話です。
あら、調査室の皆さんなのにご存知ないのですか?
まあ、あの人たち、そういうことを隠蔽するのが上手ですものね。
私だって、気づくのに時間がかかりました。
ええ、間違いございませんよ。
ついでに、私の両親を馬車で轢き殺した男も、あの家によって亡き者になっているようですよ。
本当に、自分たちの手を汚さないのがお上手なことで。
あんな連中と少しでも血が繋がっているなんて、悍ましくて、どれだけ気持ちが悪いことか…。
あの人たちは妹夫婦の何が気に入らなかったか、知っていますか?
特に何もなかったのですよ。
別に私の両親を疎ましく思っていたとか、そういうことではないんです。
ただ『私が欲しかったから』、それだけの理由です。
非道な従兄は、私に執着するあまりに私との結婚を常々要求していたそうです。
でも、私の両親がずっと断っていた。
だから、殺したのだそうです。
そしたら、私を家に引き取れて一緒に暮らせるし、他の誰の目にも触れさせなくて済むし、そのまま結婚だってできる。
ただそれだけのために私の両親は殺されたし、そんな息子の要求のために、あの伯父は殺しを容認した。
……私がどれだけ怒りに震えて、幾日も過ごしてきたか想像ができますか?
それなのに、あんな男の妻にさせられそうになっていた。
私が逃げられる日は、今日しかなかった。
私、今とても心穏やかなのですよ。
どうしてだか、お分かりになりますか?
あの家で眠らなくてもいいし、あの家の連中の顔色を窺わなくてもいい。
この独房が、あの家に引き取られてから、一番快適に感じます。
あの花…、真っ赤なあの花。
花びらを舐めると、舌が痺れるんです。
飲み込んでしまえば、あの男のように血を吐くことになりますが、舐める分には酷いことにはならないんです。
私はそうやって、自分を守ってきました。
あの男の私への執着はおかしい。
はじめて家に連れて帰られた日から、毎日キスされました。
子ども同士の可愛いものではなく、口の中を蹂躙されていくもので。
一回拒否したことがあるんですよ。
私も幼くて意味はよくわかっていませんでしたが。
そしたらですね、頬を打たれたんです。
『僕の愛が受け取れないのか!こんなに好きでいるのになぜ拒否するんだ!』
と、怒号を浴びせられて。
両親が亡くなったばかりの私は、この家の人を怒らせたら行く場所がないと思って、泣いて謝りました。
そのあと、あの男も泣きながら私を抱き締めたんですよ。
「君を愛しているからだよ」、と。
本当に愛してくれていた両親と随分愛し方が違うので、ずっと心に引っかかっていました。
でも、抵抗する力は私にはなかった。
だから、あの花を舐めることにしました。
感覚が麻痺すれば、少しは気持ち悪さがマシになるかと思いまして。
もうずっと口に含んできたので、かなり耐性もつきました。
味覚はとうになくなりました。
でもおかげで、式の間中、口の中に入れていても、私は血を吐くことはありませんでした。
あの男は、絶対に式でもいつもと同じように口の中まで入ってくる。
そう、確信していました。
だって、私を独占しているところを、式に来る全ての人に見せつけたいと考えているだろうと。
そういう場ではないことも理解した上で、抑えきれないだろうと。
そして、私からのものだったら、吐き出すこともないだろうと。
だから、私はただあの花をお見舞いしただけです。
耐性のない人間が飲み込んだのですから、血を吐くに決まっています。
あんな花を、これみよがしに育てているのが悪いんですよ。
この日のために、私は耐えてきたんだなと、あの人が倒れゆく時に確信しました。
本当に、胸がすく気持ちです。
あの人、…今はどうしているんですか?
治療の末、全身麻痺…、しかも歩行困難ですか。
あはははっ、いいざまですね。
できることなら、その姿、この目で見てみたかったですわっ!
跡継ぎの嫡男がそんな状態なんて、これから大変ですね。
きっと、彼らが思い描いていた未来にはならない。
え?…ああ、殺すつもりなんて、最初からなかったですよ。
そんなことしたら、一瞬の苦しみで終わってしまうではないですか。
これから、存分に人生を楽しんでもらいたいものです。
欲しいものが全てが手に入ると思ったら、大間違いだと、ちょっとはわかっているといいですね。
これであの人の嫁にならなくて済む、最高の気分ですわ。
はー、全てを話したら少しスッキリしました。
私は、…ずっと誰かに話を聞いてもらいたかったのかもしれません。
支配でも、束縛でもなく、ただ本当の話を。
私からは以上です。
減刑を求めておりません。
全て、国王陛下の処罰の元、従います。
了
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231日目。




