表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

0 世界が変わる


 俺が入った会社は、赤で染めてしまいたいほど黒かった。


世間からブラック企業と呼ばれているそれは、人の生命力を貪り、今ものさばっている。ブラック企業などというカッコいい名前ではなく、食人企業という名前にしてはどうだろうか。


いや、わかっている。そんなことを考えたって状況が変わりはしないことは。それでも考えてしまうのは、エナジードリンクを飲んで得た仮初のエネルギーが溢れ、俺がハイになっているからだ。できればこの会社は灰になって欲しい。ああ、駄目だ。後から恥ずかしくなるだけなのに、止められない。とりあえず、今の状況を整理でもして落ち着こう。


 俺の名前は海原 真司(うなばら しんじ)。えーっと、今は三徹後の深夜二時で、やっと仕事が終わって帰っているところだ。俺達にこんな量の仕事をさせておいて、上司の時無(ときなし)はすぐに帰る。それが俺の怒りを増幅させる装置として、非常に優秀な役割を果たしていることは言うまでもない。


 時無め、何が「これ終わったら帰っていいよ。じゃ。」だよ。その言葉で渡されるべき仕事の量を圧倒的に超えてるだろ。駄目だ、落ち着こうとしたら逆に腹が立ってきた。ああムカつく。


 マジで……


「なんたるクソ、致命的なまでにクソ、理を超越したクソだぁぁぁっ!!……ハァッ……ハァッ……。」


 きっと今の俺は正気ではない。普段の俺なら、公共の場で叫ぶなんていう、常軌を逸した行動はしないだろう。ああ、でも、なんだ、なんだろう、この感覚は……気持ちいい。気持ちいいんだ。心が落ち着かない。こんなのは初めてだ。これが、自由か。


 いや、ただの自由ではない。ずっと縛られながらも、心の奥底で求めてきた自由だ。こんな世界も、あったのか。


 きっと、こんな世界にいるのは今だけだ。すぐに社会で生きなければならなくなる。でも、怖くはない。


 ふと気づけば俺は走っていた。きっと、興奮して走らずにはいられなかったのだろう。走ると当たる風が、熱くなった体を冷ますのもまた、気持ちがいい。


 そして俺が横断歩道を渡っているとき、横からトラックが突っ込んできた。興奮が一気に冷めていく。


「え、青……」


 ドンッという音がした。突然のことだ。そしてそれは、俺が跳ねられた音ではなく、誰かに突き飛ばされた音だった。かなり大きな衝撃で、力士にでも押されたかと思うほどだった。


 俺が振り返ると、そこには神が浮いていた。幻と疑う余地もないほどの圧倒的存在感がある。背が高く、髪は長くて青い。そして何より、顔も身体も全てが完成されている。


 何が起こったのか全く分からなかったが、助けてくれたのは間違いないので、とりあえず礼を言うことにした。


「あ、ありがとうございます。」


『死ぬと魂が傷つくからお前を助けた。説明は後だ。さっさと神界に行くぞ。』


 神はどうやらせっかちなようだ。神界は神が住んでいる所のことだと思うが、そんなところに俺を連れて行く理由がわからない。


 いや、待て。そもそも俺はいつ目の前の存在が神であるとわかったんだ?神界と聴いたら神と判断するのは普通のことだが、俺はその前から当然のように神と認識していた。しかも言葉などから神であろうと推測した記憶もない。いくら圧倒的な存在感があるとはいえ、神と断定するのはおかしい。


 そこで一つの考えが浮かんできた。本当にこの存在が神であるのなら、人間に情報を植え付けることもできるのではないか。


 それに気づいてしまったとき、気持ち悪いと思った。気づかぬうちに埋め込まれていた認識を、常識のように感じている脳みそを。


 ……ああ、そうか。これが、神なのか。人の認識など、触れもせず簡単に変えてしまえるのだ。人間とは比べることもできないほどの上位存在。そんな神が、俺に何の用があるというのだろうか。


 俺がそう思って神の方を向くと、手を宙にかざしているのが見えた。次の瞬間、突然眩い光が放たれる。




 


 気づくと俺は、青い世界にいた。


 何が起こったのか分からない。次々に起こる奇想天外な出来事に、まだ脳の処理が追いついていない。さすがは神というべきか、やることが俺の想像を遥かに超えている。こういうときは、落ち着いて一つずつ考えていくべきだろう。


 ここはどこか。そういえば神は、神界に行くとか言っていたはずだ。ということはここは神界なのか。青一色で見づらいが、壁で囲まれていてドアもあるから、神界にある何らかの建物だろう。天井は見えないほど高く、上にもドアがたくさんあるが、階段が無いので人間が住むことは想定されていないようだ。


 そして最初からずっと気になっていたのが、その散らかり具合だ。恐らく飲みかけであろう飲み物とそのグラス、脱ぎ捨てられた服、投げ捨てられている本などが散乱している。こんな物が散らかっているということは、家なのだろう。


 では誰の家か。もしかしたら違うかもしれないが、ほぼ確実に、あの神の家だろう。しかし、ごみ屋敷というほどではないものの、とても神の家だとは思えない惨状だ。この神、もしかしてズボラなのか。


 そんなことを考えていると、後ろから神の声がした。


『お前が今考えていることは、心を読まなくてもわかる。言わせてもらうが、お前らの物差しで神を測るな。神にとって、片付けとは必要のないものなのだ。どこにあるかは全て覚えているし、神界では埃をかぶることもない。』


 少し驚き、慌てて振り返る。


「な、なるほど。そうだったんですね。」


 見栄えは悪いが、神様にとっては気にすることでもないのだろう。気にするなら、青一色にするわけがないだろうし。というか、言い方的に心も読めそうだ。まあ、神様なら当然か。


『それでは本題に入るぞ。お前は、私の代理として、他の神の代理と異世界で戦ってもらう。』


「え……。」


 ちょっと待ってくれ。戦うって、俺に戦闘経験なんてないんだが。それに他の神の代理って、多分人間だよな。そもそも何で神は俺を選んだんだ。どう考えても俺より適してる人がいるだろ。


『神の代理は基本的に転世者と呼ばれる。


転世者には、"リフカ"という神の力を調整したものが与えられる。


転世者は一万人で、転送される位置は決められたものの中からランダムで選ばれる。


異世界でどれだけ長く生きられたかで順位が決まる。


他の世界での時間は、その世界で百年経っても一秒も経たないほど遅くなる。


一位になった転世者の願いは、神のできる範囲で叶えられる。


二位以下に報酬は無く、そのまま元の世界へ返される。


そしてその戦いを"神代戦(ゴングス)"という。』


 心臓の鼓動が早くなるのを感じる。願いが、神のできる範囲で叶えられるって言ったのか。しかも、一位になれなくてもデメリットがあるわけではない。そんな美味しい話があるのか。


『詳しいルールについてはこれを確認しろ。』


 そう言われて渡されたのは、俺たち現代人が使っているスマホによく似ているものだった。


『それは''エンゲーター''と言って、神代戦(ゴングス)で非常に重要になるものだ。操作方法はまあ、いいか。』


 横のボタンを押すと、電源がついた。いきなりホーム画面が表示される。どうやら、すでにいくつかのアプリがインストールされているようだ。少し心配だったが、操作方法はスマホと同じ感じで良さそうだ。


それにしても、あの理解させる力は使わないのだろうか。その方が早いと思うが。そこまで考えて、その力に対する抵抗がなくなっていることに気づき、少し怖くなる。


『時間がないから詳しくは言えないが、そういうルールがある。』


 当然のように心を読んでくる。というか今時間がないと言ったか。


「その神代戦(ゴングス)とやらはいつ始まるんですか?」


『神界にあるゴングを全て鳴らすのが始まりの合図だ。始まるのはーー』


 神が話している途中に、大きな音が鳴った。それはまるで、ゴングのように響く音だった。


「えっ、これって……。」


 そんなはずはないと思いつつも、確認するため神に目を向ける。


『面倒臭くて後回しにしてたら、神代戦(ゴングス)ギリギリになっていた。まあ、何とかなるだろう。』


 神の言葉はやる気があるとは思えないものだった。俺の身体が光に包まれていく。俺は動揺する。いや、動揺しない方がおかしいだろうこんなもの。恨み言を言いたくなって叫んだ。


「やっぱ神様ズボラなんじゃねーか!」


 遂に光で周りが何も見えなくなった。






 やがて光が消え、最初に感じたのは爽快感だった。まるで快眠できたときのような感覚で、気分が良い。こんなものは、就職してから感じたことがない。しっかりとした説明を受けれていれば、最高のスタートを切れていただろうに。


 それにしても、なんだろう。


 あの飛行物体は。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ