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あの、1ヶ月だけ⋯⋯私と付き合ってください!  作者: 彗花


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2月14日

二話目です

 2月14日バレンタイン当日

 そしてやってきたバレンタイン当日。どこかそわそわしている男子達に紛れて、僕は階段を登っていた。


「おう、黒川。今日の気分はどうだ?」


 突然後ろから話しかけられてビクッと震えそうになる体を抑えつつ、僕は振り向いて下を見る。そこには予想通り竹田が立っていた。制服を着崩して何人かの男子生徒に囲まれている様子は僕とは正反対でしかない。


「お、おはよう。気分はどうだってどういうこと?いつも通りだけど」


 そう言うと竹田はいかにもつまらないと言いたげな顔で舌打ちをした。たぶん同じ「彼女いない歴=年齢」仲間として、今日もチョコを貰えなさそうで残念だなと言いたかったのだろう。


「おはよう、遥くん!」


 どこか気まずい雰囲気をぶち壊してそう声をかけてきたのは、紬だった。クラスの半数以上は確実にいるだろうこの空間においても何故か目立つ。

 周りに注目されていることも一切気にせず、彼女がカバンの中をごそごそと漁り始め、お菓子の箱を取り出し──


「⋯⋯私と付き合ってください!」


 花が咲くような笑顔でそれを差し出してくる。爆弾発言も添えて。

 隣の竹田が、いや、ほとんどの男子達が僕をギロっと睨みつけてくるのをひしひしと感じながら、僕は苦笑いを浮かべる。だってこちらはそれを了承するしかないのだから。浮かれて予想出来てなかったこの状況を受け入れるしかないのだから。


「うん。これからよろしくね、紬」



 ┈┈┈┈┈┈✧┈┈┈┈┈┈┈



 その後の土曜講座は特に何事もなく終わった。

 時折男子──主に竹田が厳しい視線を向けてくるのを除けばだけど。嫌われたかな。嫌われたよね。いや、正直竹田のことはあまり好きじゃなかったからいいんだけどさ、いじめられたくはないなぁ。

 軽くため息をつきながら教科書類を片付けていると、本人がずいずいとこちらに近づいてくるのが視界の端に映った。


「おい、黒川」


 いつもの軽快な声とは異なり、ドスの効いた低い声でそう呼び掛けてくる竹田。ああ、きっと紬のことだろうなぁ……。


「え、えっと……どうしたの?」

「どうしたの?じゃねえよ。なんであの学年一の美女で成績優秀で誰にでも優しくて金持ちで欠点が一つもない桐生さんに告られてんだよ!」


 俺の天使がぁ、と嘆く竹田をぼんやりと見つめる。あれ、竹田ってこんな奴だっけ。なんか、こうちょっと横暴な俺様系の奴だと思ってたんだけど。こんなドルオタ的な一面があったなんて。

 どこか他人事のように目の前で起きている光景を眺める。僕の席の周りでは竹田につられたのか、他のファン?達も泣いたり叫んだりしていた。


「あ、遥くん。……どういう状況?」


 荷物を片付け終えたのか、紬が僕たちの方に近づいてきて目を丸くさせている。まあそうなるよね。


「あ、あはは……どういう状況だろうね……」


 苦笑いでそう返していると、紬の声を聴いたからか周りの男たちが会釈をしてさっと帰っていった。ほんとなんだったんだろう。とりあえずファンクラブとかがありそうなのは伝わった。


「えーと、一緒に帰る?」


 まだ呆然と固まっている紬に声をかけると、満開の笑みを浮かべて彼女はうなずいた。

 きれいな顔だな。たった一か月だけとはいえ、この子が僕の彼女なんだと思うと困惑とそれ以上の喜びが浮かんでくる。荷物を持って席を立つと、紬があいた方の手を僕に差し出してきた。手をつなごうってこと?いやいや、さすがに「ニセの恋人」である僕と手をつなぐとかするはずがない、よね?ていうか、つないだら僕の心臓が持たないよ?

 そう固まっていると、紬が軽く首を傾げながら僕の手をぐいっとつかんだ。


「せっかくだし、恋人らしいことしよう?ほら、寒いし」


 ああ、神様。どうか僕の心臓が持ちますように……。

 今まで一度もかなったことのない神頼みを思わずしながら僕は、いや、僕たちは歩き始めた。



「ねえ、遥くん。遥くんの家ってどっちなの?」


 昇降口で靴を履いている最中、ふと紬がそう声をかけてきた。


「僕は学校の北側。徒歩で二十分くらいのところだよ」

「へえ、あそこだよね、ちょっと高くなってるところ。私はそこを越えたあたりだから、もしかしたら遥くんの家の前通ってるかもね」


 ベージュ色のマフラーを弄びながら、天使のような笑顔でとんでもない発言をする紬。まさかこれから毎日一緒に登校つもりじゃ……いや、さすがにないと信じたい。しかしその願いはすぐに裏切られた。


「じゃあ明日から一緒に登校しよ?二人とも遅刻したら良くないから、七時半までに遥くんの家の前にいなかったら先に行くってことで。どうかな?」


 にっこりと問いかけながら、しかし有無を言わせないその圧に僕は思わず頷いていた。なんか、少し闇が垣間見えた気がする……いや、こんなこと言ったら竹田たちに殺されかねない。


「よかった。それじゃ帰ろう?」


 再び手を引かれて歩き出す。夕暮れのオレンジに染まった紬はものすごくきれいだった。

明日からは1話のみ10時投稿です。

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