お風呂の鏡に映る人数が、日ごとに増えている
最初は、目の錯覚だと思っていた。
風呂場の鏡――
湯気で曇っていたけれど、ふと見えた自分の背後に、誰かが立っていた。
びしょ濡れの髪。顔は見えなかった。
振り向くと、誰もいない。
「見間違いだろう」
自分に言い聞かせて、その日は寝た。
次の日。
湯に浸かっていると、また“それ”が鏡に映った。
だが、今度は2人になっていた。
私の後ろ、左右に1人ずつ。
そして翌日には3人。
そのまた次の日は、4人。
――日に1人ずつ、増えていく。
恐ろしくなって、実家の母に電話した。
「お風呂の鏡に、変なのが映るんだ」
母は言った。
「やっぱりね。小さい頃から、あんた、水に呼ばれやすい子だったから」
……何それ。
6人目が現れた夜。私は意を決して、鏡に背を向けず湯船に入った。
誰がいるのか、確かめたかった。
鏡の中、私の後ろで、6人が並んでいた。
その中の1人が、顔を上げた。
その顔は、私と同じだった。
私は震えながら、湯船から立ち上がった。
背後に気配を感じる。湯の温度が急に下がった気がする。
すると、鏡の中の私が口を動かした。
「あなたが7人目」
その日からその家の住人を見た人はいない。