武闘大会
「これから武闘大会を開催したいと思います。皆さん、準備はよろしいですか? よろしいですよね? それでは……さっそく、第一回戦を始めちゃおうぜ~!!」
妙なテンションの司会者が武闘大会の開催を宣言する。すると、それに合わせて観客席からも大きな歓声が聞こえてきた。
観客は、闘技場にある席を埋め尽くすぐらいの人数であった。
ここの闘技場は、中央に円形状の大きなステージがあり、それを囲む形で観客席がある。選手が入場するために、東側と西側に少し大きめの穴が空いており、その穴から入場するのである。
レイノス達三人は、東側の選手待機室にいるのであった。
「凄い人数だね。なんか私、緊張してきちゃったよ~」
「本当に凄いですね。私も少し緊張してますよ」
アンナとダニッシュは、そのような会話を先程から十回程繰り返していた。
「本当に観客席が一杯だよ!! なんでこんなに人が一杯なんだろ。もしかして、これは私達を緊張させるための他のチームの作戦だったりして! そうだよ。絶対そうだよ!!」
「そうですね!! アンナさんの言うとおり、これは他のチームの作戦ですよ。くそ~、なんて卑怯なんだ」
ダニッシュは緊張しすぎて混乱しているのか、アンナの言う事を本気で信じているようだ。そんななか、レイノスはいたって冷静だった。
「お前ら。少しは静かにしろ。試合はまだまだ先だろうが」
「そうだけどさ~。……レイノスは緊張しないの?」
すると、レイノスは突然笑い出し
「ハハハハハハハ!! なぜ緊張しなければならない。勝つのは俺と決まっているんだ。俺のみたところ、手こずりそうなのはあの黒いフードの男ぐらいだ。その他は全員雑魚だ」
そのレイノスの発言を聞いた他の選手達は、全員レイノスに殺気を送っていた。その殺気をものともせず、レイノスは笑っている。
アンナは殺気に気づいておらず、ダニッシュだけが青ざめた表情をしていた。
「レイノスさん。発言には気をつけて下さいよ。 皆さんこちらを恐い顔で睨んでるじゃないですか」
「ふん。気にするな。虫けら共の視線など気にはならん」
そんな会話をしているレイノスとダニッシュの所へ、大柄な筋肉男がやってきた。
頭から足の先まで筋肉の塊のような男は、レイノスが気に食わないのかレイノスを見下ろしてこう言った。
「おい、坊主。結構な口聞いてくれるじゃねーか。今ここでお前を捻り潰してやろうか?」
そう男は言うと、自慢の筋肉をレイノスに見せつけてくる。
すると、レイノスは
「汗臭いんだよ」
と言って、手をひらひらさせた。
その態度に男は腹がたったのか、男はいきなりレイノスの胸倉を掴んで殴ろうとした。
「この坊主が!! 後悔するなよ!!」
しかし、男は殴るどころか胸倉を掴む事さえできなかった。
それもそのはず、男の両腕は床に落ちており、男には腕がもうついていなかった。レイノスがマジックソードを背中から抜いて斬ったのであった。
「ぎゃ、ぎゃあぁぁぁ!! う、ぐがぁぁぁぁぁ!!」
男は床を這いずりまわり、人間とは思えない叫び声をあげていた。
「フハハハハハハ!! 自慢の筋肉も役に立たなかったな!! 死にたくなかったら、誰かに治療してもらえ。フフ、ハハ、フハハハハハハ!!」
そう言ってレイノスは闘技場への入り口へと歩いていく。
アンナは男の治療をしており、ダニッシュはおろおろと辺りを歩き回っている。
「おい、もう俺たちの試合だぞ。早くしろ」
「もうちょっと待ってよ~。もう少しで終わるから~」
「ふん。先に行ってるぞ」
そう言って、レイノスは闘技場へと入っていく。
「わ、私も先に行ってますね」
ダニッシュもレイノスに続く。
「うん。わかった」
そうしてレイノスとダニッシュは、二人で闘技場のステージへと向かうのであった。
「さぁさぁ、選手の入場だ!! 西側入口から登場してきたのは、剣を背負った男三人だー!! なんとも強そうなこの三人。実はあのバリュースの城の兵士だったようだぞ!! これは試合内容に期待がかかります。次に東側入口から入場してくるのは……おっと、これは何かの間違いか? なんと、入場してきたのは少年といかにも弱そうな男だぞ~!! しかも二人組だ。あと一人の選手はどうしたんでしょうか。これは勝負は決まりましたかね~」
司会者の男がそう言うと、観客席からは
「ここは子供の遊び場じゃねーぞ」
「怪我する前に帰れー」
などの罵声などが飛び交う。
ダニッシュはその罵声に対して怯えていた。しかし、レイノスは不適な笑いを顔に浮かべており、気にしていない様子であった。
そんななか、アンナが入場してきた。
すると、会場は一旦静まり、そしてまた盛り上がった。
「な、なんて可愛いんでしょうか。おもわず見惚れてしまいました。あんな女の子と一度でいいからデートしたいです!! ……私、まだ女性と手を繋いだこともないんですよ。……私とお付き合いしてくださる方は、受付まで申し込みをして下さい!! お願いします!!」
司会者の男がそう言うと、観客席からは
「可愛いぞ~!! 結婚してくれ~!!」
「怪我しないでくれよ~」
「司会者黙れ~!!」
などの声が聞こえてくる。
「な、なんなんでしょうね。この差は」
ダニッシュが少し不満気にレイノスに話す。レイノスは不適に笑いながら、それを無視した。
アンナは観客席からの声を気にせず、レイノス達の所へやってきた。
「ごめんね。遅れちゃって~」
「気にしないで下さい。レイノスさんが悪いんですから」
「うるさい。あの男が汗臭いから悪いんだよ」
そんな会話をレイノス達がしていると、司会者が試合開始を宣言しようとしていた。
「もう始まるんですね。いや~、緊張するな~。まあ、今回は魔物やモンスター相手じゃないので大丈夫だと思いますがね」
「私も凄い緊張してるよ。うわ~、心臓が凄い事になってるよ」
そんなアンナとダニッシュにレイノスは
「お前ら。今回は俺一人でやるから下がってろ」
と言ったのである。
「えっ? なんで?」
「なんでもいいだろ」
そう言うとレイノスは一人でステージへとのぼった。
「おおっと、これは驚きだー!! なんとあの少年一人で闘うようです。大丈夫でしょうか」
司会者と観客は驚いているようだった。
相手の剣士三人組の一人は
「おい、少年。本当に一人で大丈夫なのか? あまり、俺達を甘くみるなよ」
と言う。それに対してレイノスは
「喋ってないできたらどうだ?」
と言った。
その言葉を聞いた剣士達は
「……後悔するなよ」
と口元を歪ませながら言った。
「それでは始めましょう。……試合開始!!」
司会者がそう言い終えるやいなや、剣士の一人がレイノスの右前方に移動し斬りかかる。
その動きはしっかりとした型の動きであった。それゆえに動きが読みやすく、レイノスはそれを剣で受け流した。
しかし、次は左から二人目の剣士が斬りかかってくる。二人目の剣士は、レイノスの移動先を読んでいたのであった。レイノスは、それを体をひねらせてかわした。
しかし、それを予想していた様に三人目の剣士が、レイノスの目の前に現れ斬りかかる。見事な連携であった。その連携の動きは、日頃の鍛錬と仲間との信頼がなければできない事である事をはっきりと証明するものだった。
闘技場にいた誰もが、レイノスは負けたと思い目を瞑った。
……いや、正確にはアンナとダニッシュ以外の人がだ。
「……な、なに!!」
三人目の剣士が驚愕する。
三人目の剣士の剣の先には、レイノスはいなかったのである。
「ど、どこにいった!!」
「上だ」
剣士達の上からレイノスの声が聞こえてきた。
そう。レイノスは素早くジャンプしてかわしていたのだった。
「一撃で終わらせてやる」
そうレイノスは言うと、マジックソードを構えた。
「交差する闇の剣撃!!」
レイノスがそう言って剣を素早く振ると、黒いX状の剣撃が剣士達三人を斬り裂いた。そして、レイノスは地面に着地する。
剣士三人は、体をたまにピクピク動かしながら気絶していた。
「ふん。この雑魚が」
そう言ってレイノスはステージから降りる。
観客達は一瞬の出来事についていけず、場内は静まりかえっていた。
「いくぞ、お前ら」
「は、はい」
「やった~。勝ったね!!」
そう言いながら三人は、選手待機室へと入っていく。それを見た司会者の男は、
「しょ、勝者。レイノスチーム!!」
それを聞いた観客達からは、とても大きな歓声が上がったのであった。