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無力な魔王と能天気娘  作者: 青空の約束
旅立ち編
8/82

前夜

 レイノス達三人は、レイノスが探して見つけた宿の部屋にいた。この宿は、コーネリアの街の中にある宿泊施設の中でも値段が安く、その割りに風呂やトイレはしっかり完備されており、コーネリアの街の中でも穴場的な宿だった。部屋の中は、三人が寝るには十分な広さがありとても快適だ。

 そんな部屋の中では、レイノスとダニッシュが明日の武闘大会についての話し合いをしていた。

「んっ、うーん。……すぴー」

 アンナは早くもベッドで寝ている。

「しかし、驚きましたね。武闘大会は定員三人のチーム同士が闘うチーム戦だったなんて。ちょうど私達は人数があっていたから良かったですがね」

「あぁ、そうだな」

 レイノスがダニッシュの言葉に頷く。

「トーナメント戦だそうですから、出場チームからいって五回勝てば優勝です。……要注意チームは、あの黒いフードの男がいるチームですね」

「俺はその男を見ていないから分からんが……強いのか?」

「えぇ、わたしが見た限りでは」

 そう言ってダニッシュは、あの黒いフードの男の事を思い出して深刻そうに話し出した。

「あの男は少年のうでを曲げるときに魔法を使っていなかったんですよ。腕力だけで曲げたんですよ。それも、目にも止まらぬ早さでね」

「よくそんな事が分かったな」

 レイノスが不思議そうに尋ねる。

「そ、それはですねぇ」

 するとダニッシュは少し恥ずかしそうに言った、

「私、魔物を見ると怖くなって戦えなくなるのは知ってますよね。だからですね、昔戦闘が得意な人や強い人などをよく観察してたんですよ。攻撃がきたらどうやって反撃すればいいか、敵に有効だと思われる魔法など分かるようになったんです。そういう風に観察していたら、どんな人が強いのかとか、なんとなく分かるようになったんですよ。……まぁ、実際にそれを活用できる事はなかったですけどね」

 ダニッシュは苦笑した。そしてダニッシュは昔を懐かしむような顔になり

「……あの人元気かな」

 と窓の外を見て、そう小声で呟いた。

「ん? なんか言ったか?」

「いえ、なんでもないです」

 そう言ってダニッシュは、レイノスの方に顔を向け直した。

「話を戻しますけど、あの黒いフードの男は私の見た限りだと、体術だけでもそうとうな手練ですね。明日の大会では闘い方などをよく見ておいた方がいいと思います。幸いにも、トーナメント表を見ると、決勝戦までは当たりませんから、それまでに対策を立てておきましょう。決勝戦までの僕たちの相手はあまりたいした事なさそうですから。万全を期すにこしたことはないですが」

「そうか。まぁ、相手が誰であろうと油断をしたら命取りだ。……ふふ、明日の大会が楽しみだな」

 レイノスはそう言って、不敵に笑う。

「そうですね。では、そろそろ夜も遅い事ですし私は寝ます。おやすみなさい」

 そう言ってダニッシュは、ベッドの中に入り眠った。

「…………」

 しばらくすると、ダニッシュのいびきが聞こえてくる。

 ダニッシュが寝たのを確認すると、レイノスは部屋を出て外に出たのだった。



 レイノスは、コーネリアの街の中心にある時計台の前にいた。背中にはマジックソードを背負っており、厳しい顔つきをしている。

 レイノス宛に今日の夕方、手紙が届いた。

 手紙の内容は

『今日の夜、十一時半に時計台の前で待つ』

 最初は誰が書いてきたか分からなかったのだが、ダニッシュの話を聞いて、この手紙はなんとなくフードの男からではないかと予想した。

 だから、レイノスはこの手紙の通り時計台の前で待っている。

 もうそろそろ十一時半になろうとした時――。

「ふふふ、待ったかい?」

 レイノスの頭上からいきなり声がした。声からして男だということがレイノスには分かる。

「やっと来たか」

 レイノスはそう言って上を見上げた。

 するとそこには、一人の男の輪郭が時計台の上に立っていたのであった。月明かりが男の背後にあり、体や顔の輪郭しか見えなかった。

「待たせてすまないね」

 そう言って男は時計台の上から飛び降り、レイノスの前に着地した。男は黒いフードを被っており、顔や服装などが全く分からなかった。

「何の用だ?」

 レイノスがそう聞くと、男は

「ただ挨拶がしたかっただけだよ」

 と答えた。

「お前は何者だ?」

「まだ詳しくは教えられないね。まぁ、名前ぐらいは教えてあげるよ。ソージアだ。以後よろしく」

 黒いフードの男……ソージアはそう言って笑いながら、手を差し出してきた。

「何の真似だ?」

「握手だよ、握手。そんな事も分からないのかい?」

 ソージアがそう言い終えた瞬間。

 ぶん!!

 手のあった場所に、素早い剣の一閃がはいった。レイノスがマジックソードを出して斬ったのであった。

 しかし、ソージアの手は斬られる事はなく、ソージアは空中を一回転してレイノスから距離をとった。

「ははは、せっかちだな。今日やり合うつもりは僕はないからね。明日にしようじゃないか。その時に相手をしてあげるよ」

 レイノスはそう言うソージアを、鋭く睨みつけた。

「ははは、怖いな。これ以上ここにいたら怪我をしそうだね。僕は今日はこれで退散させてもらうよ」

「待て!!」

 逃げようとするソージアをレイノスは呼び止めた。しかし、ソージアは気に止めた風もなく

「素敵な夜を過ごす事を願っているよ。では、また明日」

 そう言って、ソージアは夜の闇の中へと消えていった。

「逃げられたか……。ふははは、まぁいい。明日が楽しみだ」

 レイノスは心の中に明日の武闘大会への気持ちの昂りを押さえつけながら、宿へと帰った。


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