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無力な魔王と能天気娘  作者: 青空の約束
魔王編
74/82

エルフの島

 エルフという種族がサウスリアのはるか北にある小島に移住した理由は、表向きでは魔族と人間の争いに嫌気がさしたからだといわれている。

 確かにそれも一つの理由だった。

 しかし、本当の理由はまた別のところにある、とアリアはレイノスに話す。

「エルフははるか昔は、人間とも魔族とも交配して数を増やしていたのさ。しかし、そうしているうちにあることに気づいた。……異種間で生まれた子供は普通とは違うことに」

 レイノスたちはエルフの島の海岸沿いから島の中央に向けて歩いていた。

 空には厚い灰色の雲が太陽の光をさえぎるようにはびこっており、エルフの島にはかすかな明かりがさしこむのみ。頬をうちつける風は、肌を切り刻まんかというような鋭さをもち、レイノス達の歩みを妨げている。

 そんな中でもアリアは話すことをやめない。

 それがまるで、これからエルフたちに会うための準備だといわんばかりに。

「異種間で生まれた子供には必ずといっていいほど奇妙な力が備わっていた。姿を消したり、魔法を吸い込んだりと様々あったらしい。当時の者たちはひどく困惑したようだね」

 アリアが先頭にたち、フェルメスが一番後ろに並ぶように歩く三人は、常に周囲を警戒していた。

 今三人がいる場所は、ひどく道がせまく、縦一列にならないと通れない。

 横には三人を見下ろすような高い岩の壁がそびえ、三人の気持ちに圧力をかけるようだった。

「魔族と人間、獣人と人間、といった交配に関してはさほど問題はなかった。奇妙な力は変わらずあったが、そんなにエルフは気にしていなかったみたいだね。それよりもエルフが注目したのは、自分達と他種族が交配したときのことだった。――エルフとの間に生まれたそういう子供は、必ず世界を揺るがした。種族間の争いを生みだす原因となり、その中心にいつもいたらしい」

「それは……どういうことだ」

「わたしにだってわからないさ。でも、過去の歴史がそれを物語ってる。どうしようもない事実としてエルフには受け継がれているのさ。――話を戻すけど、その子供たちはとてつもないほどの魔力と力があった。だから当時のものたちにとって、殺すことも容易ではなかったみたいだね」

 荒れた地面を踏みしめていくうちに、レイノスはなぜか空しさに襲われた。

 アリアの話を聞いてしまったからこそ、この話が本当なのだと確信を持てるからだった。

 なぜなら、魔王として君臨しているもう一人の自分、そしてそれに抗おうとしている自分。その二人が戦うことなど、本当はありえないことなのだ。

 本当ならばレイノスという存在がとるべき行動は一つのはずなのに、そうではないことがもはや、異常としかいいようがないのだから。

「だから、エルフは他種族との交配を暗黙の掟として禁止した。表立ってそうしなかったのは、本当に種族が絶えそうになったときのためだろうね。――エルフはサウスリアを離れてこの島に移り住み、何百年ものあいだ細々と暮らしてきた。サウスリアに危機が訪れたときだけ、その膨大な力でサウスリアの平和を守ってきたのさ」

「守られた記録など、魔族のあいだには残っていませんでしたがね」

「そりゃそうさ。エルフは恐怖の対象でなければいけないからね。簡単にエルフの存在がサウスリアに残っちゃいけないのさ。それもこれも、他種族との交配を防ぐためさ」

 フェルメスの言葉をアリアがそう否定すると、フェルメスは小さく声を鳴らすように笑った。

「それなのに、あるエルフは十五年前の戦争のときにそれを破ってしまったわけですか。そうして生まれたのがここにいるレイノス様だとは、いやはや面白い」

「……皮肉のつもりかい。まぁいい、もう着くよ。――あれがエルフの村だ」

 細い道を抜けた先に広がっていたのは、ひっそりと佇む家々だった。村の奥に高い塔が一つそびえ立っている以外に、特別変わったところはない。

 レイノスが見渡す限り、エルフの姿が見えないことだけが気がかりだったが、それ以上に本当にここはエルフの村なのか、という疑問のほうが勝っていた。

「案外静かなのだな。下手をすれば、手荒い歓迎を受けるものだとばかり思っていた」

「――手荒い歓迎のほうがよかったですかな」

「なっ!?」

 瞬間、レイノスの視界には多くのエルフが立ち並んでいた。

 たくさんの視線がレイノスのことを見詰めているのがわかるほど、そのまなざしは強い。

「姿を消しているなんて粋な計らいだねぇ。レイノスが驚いちまったじゃないかい」

「お前のそんな口がまた聞ける日がくるなんて、わしは思いもせんかったよ。――このエルフの面汚しが」

「おじいちゃん……」

「本当ならば、お前はここにいてはならない存在だ。エルフの暗黙の了解である他種族との交配を行い、世界を混乱に陥れている罪は重いのだから」

 アリアは静かに頷いた。

 赤くなるほどに拳を強く握っているのがレイノスからは見える。それほどまでにアリアの感情を揺さぶるということは、この目の前にいる老いたエルフはアリアにとって近しい人なのだろう、とレイノスは思った。

「でもね、おじいちゃ――」

「――しかし、状況はエルフのほうでも把握しておる。そこにいるのが、あの魔王との間の子供なのだろう?」

 老エルフはそういってレイノスに近づき、頭をそっと撫でた。

「我ら種族が犯した罪は我ら自身で解決せねばならん。もはや、我らで定めた掟によって追い返すことなどせん。――ついてくるがよい。わしの家でゆっくりと話そうではないか。今後どうしていくのかについてな」

「……ありがとう、おじいちゃん」

「よいのじゃ。腐ってもわしの孫じゃからな」

 二人の間に温かな空気が流れた。

 それは、そのときレイノスは気づかなかったが、もしかしたら長年の祖父と孫の関係のいざこざが回復した瞬間だったのかもしれない。

 アリアの顔には笑みが浮かんでおり、そしてまた、エルフ達の間にも同様に笑顔があった。

「エルフというものには関わる機会は少ししかありませんでしたが、我ら魔族とあまり変わらないのですね」

「ああ、そうだなフェルメス。種族など、小さな区別でしかないのかもしれん」

 レイノスが見ている先は、はるか遠く――。





「まぁ、綺麗とは言えんがあがってくれい」

 老エルフ――ルロエはそう言ってレイノスたちを家に招いた。

「懐かしいねー、十五年ぶりに帰ってきたよ。うわぁ、こんなのまだあったんだ」

 アリアが家の中ではしゃぎながら木製の彫像を手に取る。

 ルロエはそれを微笑ましそうに眺めながら、ささと言ってレイノスとフェルメスを椅子に座らせた。

「なんとも質素なものですね。この村を見たときも思いましたが、本当に最低限のものしかないのですか」

「わしらエルフはほとんどが魔法で事足りるんでなぁ。そのぶんそなたたちからしてみれば物足りなく感じるのかもしれん」

 ルロエは小さく詠唱を口にする。すると、テーブルの上に四つの小さな器が現われその中にとぷとぷと液体が満たされていく。

「お茶ですじゃ。ここにくるまでに喉が渇いたじゃろうからな」

「器用なものですね。日常で魔法を使うなんて発想は魔族にはありませんでした」

 レイノスの記憶にもそのようなものはなかった。

 フェルメスと出会ったあのときも、そして、両親と共に過ごしたあのときにも。

「……なんだ?」

「どうしました、レイノス様」

 レイノスの胸に違和感が湧き上がってきた。

 その違和感は一瞬のうちに消え去っていったが、だからといってレイノスが気にしないわけではない。

 それを必死に追っていくが、レイノスは今の感覚がなんだったのか掴むことができなかった。

「どうしたんだい、レイノス」

 アリアの声でレイノスは考えるのをやめるように首を横に振り、器に手をかけお茶を飲む。

「なんでもない、少し変な感覚に陥っただけだ。それよりも、話を進めようではないか。俺がここにきたのはそのためでもあるし、そして今現在俺が人間になっている理由を聞くためだ」

 レイノスが話を進めるため催促をする。

 アリアもそれに頷き、手に持っていた彫像を脇に置いた。

「そうじゃな……おぬしが魔族から人間になった理由、それはある薬のせいじゃ」

 そういうとルロエは指を一回転させた。

 すると、部屋の棚の一つが空きそこから一つの小瓶が宙を舞いながらテーブルにやってくる。それはゆっくりとレイノスの前のテーブルに下りて、コトンと音を立てた。

「ダニッシュから話を聞いただけだったが、実物を見るのは初めてだ。これがエルフの薬……」

「私がレイリア様から受け取ったものとも一致します。いやはや、こんなものがまだあるなんて」

「そういえばそうだったな。フェルメスの意識が流れ込んだときに見たよ、その記憶も」

 アリアとルロエが微妙そうな顔で見詰め合う。

「どうしたんだ?」

「いやね、その薬はまだたくさんあるのさ。それは別に貴重なものじゃない。まぁ私しか作ることはできないけれど、でも昔大量に作ってしまって。このエルフの島にもまだ何個かあるんじゃないかね」

「なんということですか。これは魔族を人間にする薬でしょう? そんなものが大量にあるなんて、魔族からしたらたまったものではない」

 フェルメスが苦い顔をして呟いた。

 それにアリアは首を横に振る。

「フェルメス、それはお前の勘違いだ。これは魔族を人間にするものではない。この薬は――魔族やエルフがもつ特殊な魔力を分離するものさ。人間や獣人には尖った耳がないだろう? でもエルフや魔族にはそれがある。そこから魔族とエルフには共通の魔力があるということを私は推測した。そして私は作ったのさ。自分の数を増やす薬をね。これは、飲んだ魔族やエルフをもう一人作り出すものだ。これを飲んでも人間にはならない」

「なんだと……? それなら、どうして俺は人間になったんだ!」

 レイノスがバンっとテーブルを両手で叩き、動揺の色を顔に浮かべる。

 その表紙に小瓶が横に倒れ、中の液体が流れ出た。

「それを話すのは私じゃない。……まぁ、私の話を聞きな。いまこんな現状になっている原因となった、十五年前の戦争の真実を」

「十五年前の戦争の真実だと……?」

 懐かしいですね、とフェルメスが口を歪ませるように笑い言った。

「――十五年前、人間と魔族との間で戦争が起こった。それは両者に大きな傷を残す、悲惨なものだった」

 苦々しそうにアリアは話しだす。

 十五年前の哀しい事実を――。




 一人の若い女エルフは小さな島に縛られている自分に嫌気がさしていた。どうしてエルフというだけで小さな世界を抜け出せず同じ種族と交配しなければならないのか、とそんなことばかりを考えていのだ。

 ある日、女エルフは一人黙って島を飛び出した。

 膨大な魔力、そして、女エルフに備わっていた類まれなる才能と知識のおかげか、無事にサウスリア――大きな世界にその身を躍らせることに成功した。

 新鮮な世界に女エルフは目を輝かせ、胸をときめかせ、そして多くのものを見た。

 そこで女エルフは、一人の男と出会う。

 その男は自分を勇者だと名乗り、自分はいつか魔王と仲良くなるのだとよく口にしていた。

 女エルフが、

『勇者なのにどうして魔王と仲良くなるんだい? 魔王を倒すのが勇者の役目じゃないのかい』

 と問うと、男はこう言った。

『みんな勇者が勝手に魔王を倒してくれると思ってる。そこで勇者が魔王と仲良くなった

ら――面白いと思わないかい?』

 女エルフは男のその言葉に興味が湧いた。

 いつしか同じ時間を共に過ごすようになり、そこにはなぜか顔がおもわずほころんでしまうような甘い時間が流れていた。

 しかし、それも長くは続かない。

 浮かれていたのかもしれない、注意力がなかったのかもしれない。

 いつもかけていた変化の魔法で隠していた金色の髪と尖った耳がその姿を現していたことに女エルフは気づかず、そしてそれが人間たちの目に触れてしまった。

 女エルフは男に告げることもできず一人その場を去り、あてもなくサウスリアを放浪した。

 女エルフは気づいた――人間が駄目ならば魔族はどうだろうか、と。

 魔族は魔王継承の際にもエルフと関わりがあることを、女エルフは知っていた。 

 気づけば女エルフは魔族が生活をしている地域へと足を踏み入れていた。

 そこは人間のものとはまた違った文化が根付いており、女エルフの関心はそそられた。

 しばらくの間散策しているうちに、女エルフはふと魔王に会ってみたくなった。

 勇者である男に自分は惹かれた、ならば勇者が交友をもとうとする魔王はどのような人物なのかと。

 魔王の城デスパレスに足を運んだ女エルフだったが門番の許可が下りなかったため、女エルフは強行にデスパレスに乗り込んだ。

 あまたの魔族を魔法で蹴散らし、魔王の前に姿を出した女エルフは開口一番こういった。

『お前は人間と――勇者と仲良くなれるとしたら、どうする?』

 魔王は度肝を抜かれたように目を丸くさせ、そして口を大きく開けて笑った。

『な、なにがおかしいんだい!?』

『フハハッ、なんとも愉快な女だ。我の頭の中を読んでいるのではないかと思ったぞ』

 そのとき、多くの配下の魔族が駆けつけ女エルフを取り囲む。

 女エルフが身構えたそのとき――。

『よい、そやつは我の客人だ。粗暴な行動には目をつむれ』

 魔王がそう口にしたのだ。

 それから女エルフはデスパレスの一室を与えられ、そこで生活することになった。

 そして度々魔王に呼ばれては互いについて語り合った。

 魔王は女エルフの生い立ちに興味をもち、北の小島を飛び出したことをおかしそうに笑っていた。

 魔王も自分の考えについて語る。先代と同じように人間に敵対していても魔族の繁栄にはつながらない、と。

 女エルフはいつしか悩むようになる。――気づいてしまった自分の気持ちについて。

 勇者を想う自分がいる反面、魔王に惹かれている自分がいることを。

 女エルフはそんな気持ちを抱えながら、魔王にあることを提案する。 

 勇者と一度、会ってみてはどうだろうかと。

 魔王は最初渋い顔をしたが、女エルフが必死に説得をし納得させた。

 女エルフと魔王はこっそりとデスパレスを抜け出し、勇者のいる町へとむかった。

 勇者と住んでいた家の扉をノックするが、しかし返事はなかった。

 変化の魔法で人間になっていた女エルフは、町の人間に勇者がどこにいったか尋ねると、

『勇者なら魔王討伐の旅に出たよ。好いていた女をたぶらかされたとあっては、いくらあの勇者でも魔王を必ず倒してくれるさ!』

 女エルフは驚き、魔王は複雑そうな顔をした。

 急いでデスパレスに戻った二人は、配下のものたちの慌てぶりに戸惑う。


 ――勇者がデスパレスに向かってきています。多くの魔族が阻もうと交戦中ですが、勇者が強すぎて歯が立ちません!


 女エルフは思った、これは自分のせいだと。黙って勇者の下を去り、そして魔王に少しでも惹かれた自分への罰なのだと。

 魔王はそんな女エルフに微笑みかけ、

『大丈夫だ、我に任せよ。必ずお前の望むような形に終わらせよう』

 そうして魔王は勇者のもとへと向かう。

 女エルフはそんな魔王の後ろ姿を眺めることしかでき――ないわけがなかった。女エルフは共についていった。

 誤解を解いて、魔王と勇者はわかりあえるのだと確信したかった。

 着いた先はまさに地獄のようで、魔王としてははらわたが煮えくり返るようだったのだろう。

 魔族の肉片が散らばり、それらが勇者の足によって踏まれていたのだから。 

 しかし、魔王は優しく勇者に語りかけた。

『落ち着け勇者よ、貴様は誤解を――』

 言葉は魔法の激しい爆発音によって掻き消された。

『黙れ、魔王よ。俺はお前を殺し、そこにいる大切なものを救う。なにがあっても、絶対にだ』

『……我も心がある。同胞を殺され、そして我の言葉にも耳を貸さぬと言うのなら――望みどおり殺してやろうぞぉぉおお!!』

『やめて、二人ともやめてぇええええ――』

 勇者と魔王の力は拮抗し、決着はとうとうつかなかった。

 周囲に魔族がいる分、勇者にとっては不利な状況であり、疲労の量は一緒だとしても現状勇者の命は風前の灯だった。

 そんなとき女エルフは魔法を放ち、勇者をその場から救い出す。そのとき魔族からの攻撃を背中からうけながらも、勇者をなんとか人間の町まで運んだ。

 しかしそこで意識を失い、目の前が真っ暗になる。

 勇者を助け出した安心感からなのか、それとも女エルフの命も尽きようとしていたからなのか。

 次に目を開けると、そこは自分の故郷であるエルフの島の家の天井が見えた。

 隣には自分の祖父であるルロエ。

 自分の祖父は女エルフに今サウスリアで起きていることを話した。

 倒された勇者は人間達をまとめ再度魔王に戦いを挑み、魔王もそれにたいして迎え撃つ姿勢をとったこと。

 もはやエルフが介入しなければならない状況になってしまったことを。

『どうするつもりだ。これは貴様が招いた事態。下手をすればサウスリアという大陸は滅びの危機にある』

『私は――』

 そうして女エルフは自らの知識と才能を合わせ、薬をつくった。

 エルフや魔族の身体をもうひとつ作り出すそれは、感情もわけられるかもしれないと女エルフは考えた。

 もはや戦争はとめられないことはわかっていた。

 ならばせめて勇者と魔王だけでも救おうと考えたのだ。

 そして女エルフから――二人のエルフが生まれた。

 一人は魔王のもとへ、一人は勇者のもとへと向かった。

 風のうわさで勇者は突然姿を消したことを知る。魔王は勇者が消えたからなのか、戦争をとめようと動き始めた。

 女エルフはまたエルフの島を去った。

 それから、女エルフを見たものはいない――。





「わかったかい、これが十五年前の戦争の真実さ。アンタは――ラノスと私の分身レイリアとの間の子共レイノスはこうして生まれたってわけだ」

 室内は不気味なほどの静けさに包まれていた。アリアもそれを感じ取ったのか、言葉を発することをためらうようなしぐさを見せる。

「……それからのレイリアについては私は関知してない。レイリアはもとは私から生まれたけれど、でもそれからのあの子はれっきとした一つの存在だ。自我もあれば私と違う部分もたくさんある。姿形は一緒だけれど、中身は違うんだ」

「……それはわかっている。俺の分身であるソージアがそうであるのだからな」

 レイノスはそういって、席を立つ。

「どうしたんだい」

「今の話を聞いて、疑問が確信に変わった。このエルフの島についてからなんとなく感じていたことだが――あの大きな塔の中に俺の母さんがいるのだろう?」

 ルロエは驚いた顔をしたが、アリアはやはりか、といった納得した表情でレイノスを見た。

「散々ここに来る前にアリアが言っていた、俺にとって大切な人とは母さんのことだろう? それで気づかないほど、俺はにぶくはない」

「いってどうするんだい。お前の母といっても、一回や二回顔を会わせたことしかないのだろう?」

 レイノスはアリアに背中を向けるように出口へと歩いた。

 そして、

「顔を合わせたのが少なくても、俺の中にはしっかりと母の記憶がある。それだけで十分だろう」

 レイノスはそういって、扉に手をかけ外に出る。

 広がる空に突き刺さるようにそびえたつ塔は、レイノスを招いているように見えた――。







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