コーネリア
「うわ~、いっぱい人がいるね。さすが大都市」
「それはそうですよ、アンナさん。なんたってここ、コーネリアは商品の流通の中心地でもありますし、色々な施設がありますからね」
ダニッシュがそう言うとアンナは、目を輝かせながら辺りを見まわしていた。
「あまりはしゃぐな」
レイノスが少し苛立った様子でアンナに言った。
「まあまあ、いいじゃないですか。……アンナさんは子供みたいですね」
ダニッシュは微笑みながらそう言った。
すると、レイノスは軽く舌打ちをして、
「今日の宿を探してくる」
と言ってどこかに歩いていく。
ダニッシュは、レイノスとアンナのどちらについていこうか迷ったが、結局アンナについていくことにした。レイノスなら一人でも大丈夫だろうと考えたのだ。
そしてダニッシュは、歩いていくレイノスの背中に向かって、
「闘技場の前で待ってますからー!!」
と言ったのであった。
レイノスはその言葉を聞いたのか聞いていないのか、人混みの中に消えていった。
レイノスの姿が消えると、ダニッシュはアンナのいる方へと向かっていく。
アンナは色々な建物を見ていた。
「アンナさん。はぐれない様にして下さいよ?」
「わかってるよ」
アンナはご機嫌な様子だ。
ダニッシュは、本当に大丈夫かな、と思いながらも楽しんでいた。その胸の中には希望が満ち溢れていたのだった。
ダニッシュはこの旅で自分を変えたい、強くなりたいと思っていた。だからダニッシュは、レイノス達と一緒に来た。ダニッシュは弱い自分が嫌いだったし、強くなりたいといつも思っていた。町で英雄と騒がれていた時も、自分の力ではなく他人の力で英雄と呼ばれていたことが嫌だったのだ。
そんな時にレイノス達が現れた。レイノスの圧倒的な力に恐怖も感じたが、それと同時に憧れも感じていたのだった。
なので、レイノス達がコーネリアに行くと決まった時にダニッシュもついていきたいと告げた。アンナは喜んで、いいよ、と言ったし、レイノスには反対されると思っていたが、レイノスの返事も、いいだろう、とのことだった。
レイノスは自分を利用するつもりか、とダニッシュは思ったが、それでもレイノスたちについていきたかったダニッシュは、利用されるのを覚悟した。
こうして、ダニッシュも一緒に旅に出る事になった。
「ダニッシュさん、これが闘技場なの?」
ダニッシュが希望に胸を膨らませていると、いつのまにか闘技場についていたのであった。
「ああ、多分これが闘技場でしょうね。……大きいです」
ダニッシュの言うとおり、闘技場は大きかった。円形状の岩の外壁と吹き抜けの天井。闘技場の入り口は東西南北の四つあり、大人数が入ること計算された造りになっていた。
「では、そろそろ受付に行きましょうか」
そう言ってダニッシュとアンナが闘技場に入ろうとした時である。
アンナ達から少し離れた所で若い少年が、黒いフードを被った男に絡んでいた。
「おい、お前。人にぶつかっておいて謝罪の一つもないのか。どうなんだよ……おい!!」
そんな少年に対して、至って冷静に黒いフードを被っている男は聞いていた。
「聞いてんのかよ!!」
そんな態度に、少年が痺れを切らして、黒いフードの男に殴りかかった。しかし、少年の拳は黒いフードの男には届かず、少年は背中を地面につけていた。
「ぐ、ぐあぁぁ――」
少年は小さな呻き声をあげていた。それもそのはず、少年の腕は通常の向きと反対の方向を向いていたのだった。
「ぐあぁぁぁーー! 痛い、痛いよ。助けてくれ!」
そんな少年を無視して、黒いフードの男は闘技場の中へと入っていった。アンナは少年の元へ走っていき、魔法で腕を元に戻そうと頑張っていた。
そんな中、ダニッシュは考えていた。
「あのフードの奴は武闘大会の参加者だな。だとしたら、気を引き締めていかないと危ないという事をレイノス君に伝えなければ……」
「俺がどうしたって?」
レイノスがいきなり現れた。
ダニッシュは考えていたことが小声でついでてしまい、レイノスに聞かれていたのだった。
「俺がどうしたんだ?」
ダニッシュは少し考えたあと
「レイノス君。明日の武闘大会では、黒いフードのやつに気を付けてくれ。わたしの見た限りだと結構できると思う」
それを聞いたレイノスは、鼻で笑いながら
「誰が来ようと俺に勝てる奴はいない。安心しておくがいい。」
そういいながら、レイノスは高らかに笑い始める。
レイノスの笑いに少し不安を覚えたダニッシュだったが、あまり気にしないことにした。
「さあ、早く参加を申し込もうではないか」
そうレイノスが言うと、ちょうどアンナが傷の手当から戻ってくる。
「お待たせ~。なんとか、あの人の応急処置だけ終わったよ」
「そうか、なら早く行くぞ」
そうレイノスがダニッシュとアンナを急かし、レイノスとアンナとダニッシュは闘技場の中に入っていった。