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無力な魔王と能天気娘  作者: 青空の約束
ダニッシュ編
60/82

人間側の現状

 夜が明け、日が昇った頃。

 ダニッシュはコーネリア東門の前に立っていた。

 人が見上げるほどの大きさがある門は堅くその口を閉ざし、何人の侵入をも拒んでいた。

「誰かこの門を開けてくれ! わたしはダニッシュ、この戦争に加勢しにきた!」

 ダニッシュが大声をあげて名乗りをあげると、門の上の塀から人が顔を覗かせる。

「あなたさまはっ! ……いや、魔族の変化かもしれん。本物のダニッシュ様だというのなら、この薬を飲んで証明してみせよ!」

 そういって、塀の門番は小瓶をダニッシュへと投げ渡してくる。

「これは……」

 それはダニッシュがフェルメスから渡されたエルフの薬と似ていた。いやまったく同じといって差障りがないほどだった。

 魔族を人間へと変えてしまう薬。そうダニッシュはフェルメスから聞かされた。

 そうか、これで魔族の侵入を防いでいるのか。しかし、毎回こんなことをしていれば薬などすぐになくなってしまう。そもそもこれは貴重な薬ではないのか?

 ダニッシュがしばし疑問を抱いて黙っていると、門番は痺れを切らし薬を飲むように促す。

「わたしは一回飲んでいるわけですし、なんの心配もありませんが」

 ぐびっと一気に飲み干すダニッシュ。当然、身体に異常はない。

「これでどうですか!」

「――開門っ! 開門だーっ! 英雄ダニッシュ様が我々を助けに来てくださった!」

 門番の言葉と同時に、門がゆっくりと開かれていく。

 ダニッシュは開かれた門の中へと足を踏み出していった――。




 街の中は殺伐としていた。

 人々がせわしなく走り回っており、ゆったりと歩いているものなどいない。

 前回来たときとは違った賑わいを見せていたのだ。

 しかし、ダニッシュの姿を確認した者たちが増えてくると、次第に人々は足を止め感嘆の声を漏らしだした。

 それは徐々に広がっていき、やがては歓声へと変わっていく。

 コーネリアは英雄ダニッシュを受け入れたのだ。

「ダニッシュ様ー!」

 人々が口々にダニッシュの名を叫びだす。

 それほどまでにダニッシュには期待がかかっているのだった。

「この戦争の指揮をしているのはどなたですか!」

 ダニッシュが叫ぶと人々は少しずつ静まっていき、ざわざわと何かを探し出すようなしぐさをし始めた。

 そして人々の波が縦へと割れていき、一人の女性がダニッシュの前へと姿を見せる。

「あたしが現在指揮を任されているキエラだ。……久しぶりだね、英雄ダニッシュさん?」

「あなたは情報屋の!」

「覚えていてくれたんだねぇ。あれから酒好亭にぱったり姿を見せないもんだから、忘れられているのかと思っていたよ」

 酒好亭の女マスターでもあり、情報屋としての裏の顔も持つ女性。

 ゲルブ村にエンジがいるという情報を渡してくれた女性だった。

「あなたが指揮を……?」

「そうさ、まぁ話は別の場所でしようかね。――みんな、持ち場に戻ってくれよ! 戦いは目の前に迫ってる! ここで気を抜いたら駄目だよ!」

 人々はおうっ! と返事をしたあと各々散っていった。

 そしてダニッシュはキエラに連れられていく――。




「お酒は……控えるとして。お茶でもいいかい?」

「ええ、別に何でもかまわないです」

「そうかい、そいじゃあこれにしようかね」

 ここは酒好亭。

 落ち着いて話すならここがいいだろう、とキエラが案内してくれたのだった。

 今はもう、酔っ払った大男たちも戦の準備で席にはついていない。ここも前回来た時とは様子ががらりと変わっていた。

「静かなもんだろう? あいつらがいないときはいつもこんな感じだったのさ」

 キエラが微笑みながらそう言って、ダニッシュにお茶をだす。

「現状はどうなっていますか?」

「せっかちだねぇ。ゆっくり談笑する気もないのかい。まぁ、しかたがないか」

「すいません、しかし、戦争はすぐにでも始まろうとしています」

「……もう戦争は始まってるよ。ここでの戦いはまだだが、各地では小さい衝突が起こってる。そのせいで、ここに人員が集まらなくて人手不足だよ。コーネリアに進入されたら、終わりだってのに、援軍はこない。八方塞がりさ」

 キエラは自分の分のコップを棚から出して、とぷとぷとお茶を注ぐと一気にそれを飲み干した。

「……アンタが来てくれて実は助かった。あたしは指揮官なんて柄じゃないんだよ」

「どうしてあなたが指揮を……?」

「勝手に店の常連客が祭り上げただけさ。それとあたしが情報屋ってのを知ってる輩が、戦争についての情報を聞きにきてるあいだに噂が広まっちまって。気づいたら、みんなあたしの命令を聞くようになっちまった」

 カウンターに頬杖をつきながら、不満そうに話すキエラ。

 その様子にダニッシュは、ただただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

「正直言って、人間が魔族に勝つのは不可能だね。平野にいる魔物の数を見る限り、ここの人間のざっと五倍はいる。それが一気にこのコーネリアになだれこんできたら、人間は散り散りに逃げるか、大人しく殺されるかの二択しかない」

「そうでしょうね。わたしの見立てもそんなところです。このままじゃ、真正面から戦ったところで、勝ち目はない」

 ダニッシュはコップに口をつけながら言った。

「援軍はどのくらいでくるかわかりますか?」

「今も少しずつではあるけど、ここに各地から人は集まってきてる。ずっと前に各地に伝令を飛ばしたりはしたけど……一番遠い場所でここから七日はかかる。途中の魔族の妨害があれば、もっと日数はかかるね」

「援軍がきても、魔族との戦力差はまだあるでしょう。かといって、じわじわと相手の戦力を削る余裕なんてものもない。……はは、本当に八方塞がりじゃないですか」

「おまけにあっちにはラミアなんていう化け物がいる。その後ろにはソージアって魔王もね。それに比べて、こっちはあんたしかいない。そして戦力である兵士たちも、魔物を討伐する経験なんて数えられるくらいしかないやつらばっかりだ。強者たちはみんな、前魔王レイノスが侵略を行おうとしてきたときに死んじまった」

 ダニッシュが英雄となった戦い。

 レイノスが侵略を行い、各地の村や町を燃やしていった戦い。

 その戦いのために作られた魔王討伐隊の面々は、各地から集められた選りすぐりの者達ばかりだった。

 しかし、それらもダニッシュ以外全て死んでしまったのだ。

 勇者アッシュも含めて、全て。

「あたしはなぜあんたが勇者と呼ばれず、英雄と呼ばれているのかずっと疑問だった。勇者と英雄の違いはなんなのかってね」

「わたしにもわかりません」

「まぁそうだろうね。誰にだってわかるもんじゃないさ。でもね、あたしはこう考えるんだ」


 ――戦いに赴くのが勇者で、目的を達成したのが英雄だって。


「あんたが勇者で終わらないことを、あたしは祈っているよ」

 キエラはそういって、酒好亭を出ていった。おそらく戦争の準備の指揮に向かったのだろう、とダニッシュは考えた。

「……勇者と英雄、か」

 ダニッシュは残っているお茶を飲み干すと席を立った。

「……少し風に当たってきますか」




 コーネリアは三方が門で固められており、西側が海に隣接している港ともあって、比較的ゲルブ村に近い構造をしていた。

 しかし、広さはゲルブ村の数倍あり、それがコーネリアを商業都市へと発展させた一つの要因でもある。コーネリアに入ることのできる人口は、サウスリアのおおよその人間を収容できるほどだった。まぁ、生活を考えなければだが。

 ダニッシュは西側の港にやってきていた。

 少しでも頭を整理したかったのだ。

 しかし、そこで目にしたのは、すっかりダニッシュの頭から抜け落ちていた物だった。

「レアダ号――」

 港に停泊している船のなかに、それはあった。

 ダニッシュたちが武闘大会の副賞として手に入れた船、その名もレアダ号。

 三人が和気あいあいと名づけたそれは、今もそのときと変わらずそこに存在していたのだ。

「なんだかこの船に三人で乗ったことが、随分昔のことのように思えるなぁ」

 ダニッシュは甲板に足をつける。そして、三人でこの船に乗ったことを思い出していた。

「アンナさんが、突然変な名前をつけだしたんですよねぇ。で、わたしとレイノス君が駄目だって却下して。でもレイノス君が却下した理由がまた的外れで。……楽しかったですねぇ」

 その後に続いた、オコダイナ号、ダニッシュ号ともに却下され、ついに決まったのがこのレアダ号だった。

 レイノスが、最初の頭文字は自分だと言って、決まった名前だった。

「あのときのレイノス君は、なんだか意地っ張りだった気がしますよ。でも、そんなところが魔王だなんて感じさせず、レイノス君らしいところでしたね」

 ダニッシュは船頭の操縦室へと入っていった。

 そして部屋の中央にある舵輪を手で撫でながら、つぶやく。

「あなたを出航させるのはまだまだ先だって、あのとき思いました。でももう、あなたが出航することは難しいかもしれません。少なくとも、あの三人で乗ることは」

 操縦室から見える海はただただ穏やかで、太陽が海面をきらきらと輝かせていた。

「もし、コーネリアが魔族や魔物に占領されれば、あなたも破壊されてしまうかもしれません。絶対に魔物や魔族を侵入させてはいけないのですね」

 もしそうなってしまったら、その前にこの船を沖にでも放流してしまおうか。そう考えたダニッシュ。

 そのとき、


「――そうか、そういう手もあるのか。これならいけるかもしれません!」


 ダニッシュは操縦室を出て、レアダ号を背に走り出した。

 向かう先は魔物がうごめく平野を一望できる、東門だった――。


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