レイノスとダニッシュ
「行って……しまいましたね」
「……ああ」
レイノスとダニッシュ、二人はアンナが去った後を眺めていた。
もう、アンナはこの場にいない。いや、レイノス達の下にはいないと行ったほうが正しい。
「いつか……近い将来、あいつは俺の前に立ちはだかるだろうな」
「ええ、私もそんな気がしていますよ。アンナさんが……魔王なんかよりも恐ろしい相手になるって」
ダニッシュがこぶしをぎゅうっと握り締めたのが、レイノスには見えた。、そしてレイノス自身もまた、唇を噛みながら手に力をこめているのに気づいた。
「すまないな、ダニッシュ。貴様を……いや貴様の人生を振り回してしまって」
「なっ! いきなり何を言い出すんですか。レイノス君らしくないですよ!」
ははっ、とレイノスは軽く笑い、
「らしくない、か。そうだな、らしくない。俺はダニッシュ……貴様を馬鹿にしているぐらいがちょうどいいのかもな」
「ちょ、いやそれはレイノス君らしいですけれども、私個人としては些か遠慮したいんですが」
「いや、決めた。俺はお前を馬鹿にする。なんと言われようと貴様の人間としての尊厳を、地に落としてやる」
「勘弁してくださいよぉ!」
レイノスは半分冗談で言ったのだが、それを本気で受け止めてすでに涙目なダニッシュ。
そんなダニッシュに、
「それでもお前は、俺についてきてくれるか?」
と、軽く微笑みながら言った。
ダニッシュはレイノスのその表情を見て、自分の目から流れている涙を腕で拭った。
顔を上げ、レイノスをまっすぐに見たダニッシュは、
「ついてはいきません。もうレイノスさんの後ろを歩くのは嫌ですから」
ですから――
共に横を並んで歩いていきますよ、君と一緒にね。
「……ふっ、フハハハ! 言うようになったものだな、仮初めの英雄が。――面白い、俺の……俺様の横を歩いてこれるかどうか自分で試してみるがいい! ……もし、途中で諦めるようなことがあれば、そのときは全力でお前に生き恥をかかせてやる」
「え、ええ! それは嫌です! レイノス君は限度を知らないから、本当に危ないんですよ!」
ここで、任せてください、などと言えないのがダニッシュだ。レイノスはそれをダニッシュの悪い部分だと思いながらも、同時に、ダニッシュには欠かせないところだと感じていた。
「では、そろそろ行くぞ。イマムネやミリネに一言残してから、次の場所に向かうとしよう」
「ええ、いいですけど、次の場所とは?」
お前も思い出深い場所だと思うぞ? とレイノスは告げてから――
「――始まりの村……お前が俺を人間にした場所、俺が人間に変わった場所さ」
そしてレイノス達は、ゲルブ村を後にした。
イマムネやミリネ、村の人々からは餞別の品をいくらかもらい、お見送りまでしてもらった。
獣人、人間全てが見送りの場に来ていたことを見れば、もうゲルブ村は大丈夫だと、レイノスは確信することができた。
そして、レイノスとダニッシュは再び歩き出す。
向かうは、始まりの地――。