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無力な魔王と能天気娘  作者: 青空の約束
旅立ち編
42/82

魔人ブルトン

「なんだ!?」

 誰かが声をあげた。それに続くように、一人また一人と騒ぎが大きくなっていく。

「あれは……魔物!?」

 その声が響いた瞬間、獣人達が突然現れた魔物に対して身構える。人間は後ろに下がって避難するものもいれば。獣人とともに戦う意志を見せるものもいる。

 人間と獣人が手を取り合い、共闘した瞬間だった。

「もう魔物がきたんですね……」

 イマムネが右手を強く握り締めながら、呟く。

「戦うんだね、あれと」

 ミリネの額からは、一筋の汗が伝う。

「それにしても、なぜあの魔物一体なんでしょう。村の様子からすれば、もっと多いはずですが……」

 ダニッシュは疑問を抱く。

「……あの魔物、変だよ。魔物だけど、魔物じゃない……そんな気がする」

 アンナは、感じ取った。

 そして魔物が、喋った。

「村の人間よ、下がれ。私は獣人のみに用がある」

「そ、その声は……父さん!?」

 人間達にどよめきが起きた。目の前にいるのはどう見ても魔物。しかし、声は自分達の長であるブルトンなのだ。

 混乱は最高潮に達していた。

 戦前に立っている人間もうろたえ、手に持っている武器を下ろしている。

 しかし、一番混乱しているのはイマムネだった。目の前にいる父――魔物を見据え、口からは言葉が出ない様子だった。

 そんな混乱を眺めながら、ブルトンは叫ぶ。

「もう一度言う! 村の人間よ、下がれ! 獣人にしか用はないのだ私は。これだけ言っても下がらぬ者は……獣人と同じ私の敵である! 容赦せず、殺す」

 辺りは静かになった。

 騒ぐ人間も獣人もいない。

 戦前に立つ人間は、戦うのか、戦わないのか、いまだ決めかねている。その様子を見た獣人は、今にもブルトンに飛びかかろうとする姿勢をとる。

 そのときだった。


「いいでしょう、父さん。私はあなたと……戦います」


 ブルトンが一歩、前に出た。足は震えている。手先はしびれている。何も考えられない。

 そんな中、イマムネは戦うと宣言した。

 父と戦うということが怖い。戦えば、どちらかが死ななければならない。

 そんな恐怖を背負いながら、イマムネは宣言したのだ。

 その姿を見て、人間達も決心したのか、一度は下げた武器を再び上げた。

「……そうか」

 ブルトンは一言。

 それで、ブルトンは人間ではなくなった。

 身体は一回り大きくなり、瞳からは理性の色が抜けた。

 瞬間、獣人は駆け出す。自らの武器である肉体をぶつけるために。

 人間も武器を持つものは駆け出し、魔法を使えるものは右手や左手をブルトンに突きつけ、詠唱の言葉を口にする。

「……行きましょう、イマムネさん」

「……ああ」

 ミリネが声をかけ、イマムネが頷く。

 二人も駆け出す。ブルトン、いや魔物の元へ。

「アンナさん、わたし達も行きましょう!」

「――こんなんじゃ、何も変わらないよ」

「え?」

 ダニッシュは立ち止まった。

「ブルトンさんを殺したって、みんな幸せになるわけじゃない。こんな戦い、空しいよ」

 既にあたりは戦いの場となり、砂煙が舞っていた。

「どうして、どうしてブルトンさんは魔物になっちゃったの――?」

 その呟きと同時に、辺りの砂煙が振り払われ、大きな地鳴りとともに獣人や人間が宙に舞っていた。

 地鳴りの中心には、魔物が大勢いた。

 そして、そのさらに中心。


 ソージアが不敵に笑いながら、立っていた。


「なかなか面白い余興だった。ブルトン、人間の相手は俺達がしておこう。お前は存分に獣人を殺すといい」

 理性を失ったブルトンは、ただただ吼える。そして獣人のところへと走り出す。

「また……また、お前は大切なものを奪っていくのかー!!」

 アンナが叫ぶ。その叫びも、魔王は軽く流すように笑う。

「いいぞ、憎しみは俺がもっとも好む感情だ。さぁ、こい小娘!」

 それが合図になったのか、魔物たちは一斉に獣人や人間に襲い掛かる。

 ゲルブ村の最後の戦いが始まった。

 

 

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