英雄ダニッシュ
ここはサロンの町にある一件の宿屋。
今日、アンナとレイノスはここに泊まる。
部屋には、レイノス一人。部屋は木造が剥き出しで壁紙も張っておらず、ただベッドが二つ置いてあるだけ。しかも、それが部屋の半分を占めているというひどい有様だった。
なぜアンナがこの部屋にいないのかというと、買い出しにでているためだ。
「…………」
レイノスは考えていた。どうすれば、自分が魔物に戻れるか。力が取り戻せるか。
「あの男に聞けば……」
そう、先程見た、自分に光の球を当てた張本人だ。
あの後、レイノス達が町の人間から聞いた情報によると、あの男はダニッシュと言うらしい。
顔は長く、口の周りには黒い髭が生えていた。目はとても穏やかな目で、到底魔物などを殺せる英雄には見えなかった。背は高く、百八十センチぐらいだったろうか。服は、紫色の派手な服で、至る所に刺繍が施されていた。
レイノスは、あの男ならなにか知っていると思い、ダニッシュからどうやって情報を聞き出そうか、先程からずっと悩んでいた。
力が使えれば、無理矢理にでもダニッシュから、なにかしらの情報は掴める可能性は高いとレイノスは考えた。
しかし、今のレイノスは魔法が使えない。それに、体は少年である。素手では、並の人間にさえ歯が立たないだろう。
「……どうすればいいんだ」
そう悩んでいると、ドアが開きアンナが帰ってきた。
「帰ってきたのか」
「ただいま~。色々買ってきたよ。ふふ~、実は良いもの買ってきたんだ~」
そう言うと、アンナは袋をごそごそ漁り、中から何かを取り出した。
「じゃ~ん!! 見てみて~剣だよ、剣。なんかね、店の人が『特売だから買ってきな。今しかこの値はつかないぜ! 買わないと絶対後悔する!』って言うから買ってきちゃった」
そう言って、アンナがレイノスに渡してきた剣はマジックソードと呼ばれる物だった。
このマジックソードは、自分の中にある魔法の性質が剣に宿るという物だ。
例えば、自分の使う魔法の属性の中で火が一番強かった、又は得意だったとすると、剣に火の属性が宿るのだ。刀身もその属性にちなんだ色に光る。
今のレイノスにはピッタリだった。
たとえ、魔物じゃなくなって魔法が使えなくなったとしても、レイノスの中には確実に魔法の力が宿っている。それを、この剣は引き出してくれると、レイノスは考えた。
幸いにもまだまだ使えそうである。
「どうどう? 使えそう?」
「ああ、お前にしては上出来だ」
そう言うと、アンナは安心した顔になって
「良かった~。使えないとか言われたらどうしようかと思った~」
「ところでこれ、いくらぐらいしたんだ?」
そう、レイノスが聞くとアンナは
「百マール」
「……は?」
レイノスは唖然とした。
「も、もう一回言ってくれ」
「だから、百マール」
もう一度アンナの言葉を確認して理解したレイノスは、頭を抱えた。
百マールとは、二週間程は遊んで暮らせるお金だった。そんな大金を、アンナは一気に使ってしまったのだ。
そ、そういえば……とレイノスはある事を思い出した。
「な、なぁアンナ。持ってきたお金っていくらぐらいだっけ?」
すると、アンナは、
「百三十マールだよ」
と、笑顔で答える。
こ、こいつ阿呆だ、とレイノスは思った。
マジックソード以外にも、色々とアンナは買っていた。
それを考えると、今あるお金は二十マール程だな、とレイノスは思った。
「……こ、この先どうすんだよ」
と、小声でレイノスは呟いた。
レイノスが頭を抱えている事にも気付かず、アンナは突然話題を変えた。
「そうそう。なんか、レイノスが知りたがってたダニッシュさんがね、兵士を募集してるみたいだよ。それも、緊急でね。レイノス行く?」
頭を抱えるレイノスも、ダニッシュと聞くと真剣に話を聞いた。
そして、レイノスは真顔になり、
「当たり前だろ」
と言って、ドアへと歩き出した。
「ああ~、諸君。諸君らはこれから私と共に、魔物の退治に出かけてもらう。皆、気を引き締めてくれたまえ。それでは、人数の確認が終わり次第すぐさま出発する」
ダニッシュは自分の口髭をいじりながら、挨拶を言う。
ダニッシュの挨拶が終わり、人数の確認が行われる。集まっているのは、大体二十人くらいだった。
「結構いるね~」
「ああ」
ここは、サロンの町の西側の出口。そこに、ダニッシュ率いる魔物討伐隊が集まっている。
ここに集まっているのは、皆ダニッシュに憧れている者達ばかりだった。
「まぁ、無理もないか。この俺を倒した"英雄"だもんな」
そう。
ダニッシュは五日前、魔王率いる魔物の大軍を止めた事になっている。
この情報から、あの時いた人間の男はダニッシュだという事が確定した。
そして、ダニッシュに近付き情報を聞き出すために、この討伐隊に志願したのであった。
「お前。名前は?」
一人の傭兵らしき奴が名前を聞いてきた。
魔王の名を知らないものはほとんどいない。アンナの様な奴は珍しい方だ。
レイノスと名乗ると色々とめんどくさそうなので、レイノスはレイと答えた。
アンナもこの討伐隊に志願している。
アンナが言うには私の方がレイノスより強いんだから、レイノスが参加して私が参加しないのはおかしいよ、との事であった。
アンナが名前を傭兵に伝えた。
どうやら、アンナが最後だったみたいだ。
人数確認が終わり、ダニッシュを先頭にサロンの町を出る。
そして、一キロぐらい歩いた頃に高い岩がそこら中に転がっている所に出た。
レイノスは何かの気配を感じ、アンナに
「敵がいるぞ」
とだけ伝えた。
アンナもそれだけ聞くと、辺りを警戒し、いつでも魔法が撃てるように準備している。
しかし、他の討伐兵や傭兵。ダニッシュまでもが、気配に気づいていない。
アンナが他の者達に警戒を呼びかけようとした……
その瞬間!!
「うわぁ!! ぎゃぁぁ~~!!」
隊の一人が悲鳴をあげ、魔物に右腕を喰いちぎられていた。
「ホフ、ホフ!! ゴギャァァァ!!!!」
魔物は喰いちぎった腕を食いながら、叫ぶ。
そして、岩山から次々と魔物達が現れた。
その姿は、全身が緑色で、背中に長い毛が生えている。目は、獣特有の鋭い目をしていた。
グリーンパンサーと呼ばれるモンスターだ。
その数、計十五体。
隊は恐怖からか、バラバラになり、逃げ出す者がほとんどだった。
「ギャオ!! ゲギャァァァォ!!」
しかし、グリーンパンサーはその素早い動きで、逃げる隊員達を次々に捕まえる。そして、一瞬の内に首筋にくらいつき、隊員達を一人一人殺していくのだった。
中には逃げずに戦う隊員もいたのだが、持っている剣をグリーンパンサーに弾かれ、逃げ出そうとした隊員達と同じ末路を辿るのだった。
残ったのは、レイノスとアンナ、そしてダニッシュの三人だけであった。
「ひ、ひぃぃ!!」
ダニッシュは、目に涙を浮かべ、必死に魔法を唱える。しかし、どれも腰が引けているためグリーンパンサーには当たらない。
そこには英雄の姿は微塵もなかった。
レイノスは、ダニッシュを冷たい目で見ていた。
こんな奴に俺は殺されかけたのか? こんな弱い奴に。
そう考えると、レイノスは自分が恥ずかしくなったのであった。
レイノスがそう考えている内に、グリーンパンサーはダニッシュに襲いかかった。
「う、うわぁぁ!!」
「吹き抜ける大地の風!!」
グリーンパンサーがダニッシュに近づく瞬間、アンナが魔法を唱えダニッシュを助けたのであった。
グリーンパンサーは吹き飛ばされダメージを負ったが、死んではいないようだった。
さっきよりも目はつり上がり、怒っている様子だった。
「大丈夫ですか?」
しかし、アンナはそんな事は気にせず、ダニッシュの元へと駆け寄った。
「あ、ああ。だ、大丈夫だ」
そんな会話を交わしている間もグリーンパンサーはジリジリと距離を縮めてくる。
「話してないで、さっさと攻撃しろ! 殺されるぞ!!」
殺されるという言葉で、アンナとダニッシュは、また魔法を撃ち始めた。
「大地を貫く炎の柱!!」
ダニッシュが火の魔法を撃ち
「吹き抜ける大地の風!!」
アンナが風の魔法を放つ。
アンナの魔法は当たるが、ダニッシュの魔法は当たらない。
二人の活躍でグリーンパンサーの数は十五体から十体にまで数を減らしていた。詳しくは四体がアンナで、一体がダニッシュである。
数は確実に減っていた。
しかし、まだ十体いるのである。
ダニッシュとアンナは少しずつ疲れてきており、魔法の威力も落ちてきている。
すると、グリーンパンサーの一体が真っ二つに切り裂かれた。レイノスが、マジックソードで切ったのである。
切られたグリーンパンサーの死骸からは、赤黒い血が流れ出し、周辺の地面を赤く染めている。レイノスの顔や剣にもべったりと赤黒い血がこびりついていた。
しかし、レイノスは気にもせずに高らかに笑っていた。
「この雑魚どもが! この俺に刃向かうなど、愚かな。死を持って償え!」
レイノスの剣からは黒いオーラが放出され、そのオーラを見たグリーンパンサーは一歩後ろに後ずさる。
そのオーラはレイノスの内にある、暗黒魔法の力だった。
「あ、あれは……」
ダニッシュが驚きの表情を見せる。
「暗黒魔法の力ではないか!」
「暗黒魔法?」
アンナが不思議そうにダニッシュを見つめる。
「……では……あいつは……」
ダニッシュの額から冷や汗が流れ落ちた。
ダニッシュが独り言を言っている間にも、レイノスは戦っていた。
「はぁぁ!」
レイノスが剣を振ると、先端から鋭く黒いオーラが流れた。そのオーラは、レイノスの持っているマジックソードの三倍近くの長さがあり、周りにいる敵はもちろん遠くの敵までも切り裂くのであった。
その圧倒的な強さにグリーンパンサーはいつのまにか全滅していた。
そして、辺りはグリーンパンサーの赤黒い血がところどころに小さな池となって、できていた。その光景はまさに地獄の様であった。
しかし、アンナはそんな事は気にせず、レイノスに近付いた。
ダニッシュは腰を抜かし震えていた。
「レイノス強~い」
「当然だろ。あまり、当たり前の事を言うな」
アンナが目を輝かせ、レイノスが尊大な態度をとる。
そして、レイノスは剣をしまうと、ダニッシュの所へ歩いて行った。
「おい、お前」
「は、はいぃぃ!」
ダニッシュは、自分より年下の少年にびびっているのである。
「お前、あの時のやつだな」
「あ、あの時のやつ?」
ダニッシュは怯えながらも、真剣に答える。
「そうだ。お前が英雄と呼ばれるようになった時の事だ。覚えてないのか? 俺だ、お前に倒されたと言われているやつだよ」
すると、ダニッシュは汗をたらりと流しながら、
「じゃ、じゃあ君はやっぱり……」
「そうだ。お前の倒したと言われている魔王レイノスだ。まぁ、今は人間の体をしているがな」
それを聞いたダニッシュはさらに怯えだし
「な、なな、なにが目的だ。私を殺すのか?」
「お前の知っている事を全て吐け。場合によっては殺す事になるかもしれん。まぁ、お前が正直に話せば、とりあえずは殺す事はやめてやる」
すると、ダニッシュは
「わ、分かった。こ、ここではなんだ。一回町に戻ってから、話さないか?」
ダニッシュがそう言うと、今までずっと無言だったアンナが
「賛成、賛成。こんな所にいつまでもいたくないよ」
と、本当に嫌そうに言ったので
「しかたないな。……町に戻ったら、すぐに話を聞かせてもらうからな。……逃げたら殺すぞ」
後半は小声でダニッシュにそう言ったのであった。
「は、はぃぃ!」
そうして、レイノスとアンナとダニッシュ三人は、サロンの町への道を歩き出すのであった。
四話目に入りました。
新しい登場人物と戦闘シーンを書いてみました。
まずは、新しい登場人物のキャラ作りが難しいですね。
口癖とかつけたほうがいいのでしょうかね?
次に、戦闘シーンですね。
緊迫感のある戦闘が上手くかけずに、苦戦中です。
誰か、アドバイスなどありましたらいただけないでしょうか。
お願いします。
次の話も頑張って書いていきます。