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無力な魔王と能天気娘  作者: 青空の約束
旅立ち編
37/82

アンナのヒカリ

「……アンナさん……?」

 空気の異常に気がついたダニッシュは、捨てた理性を取り戻した。

 いや、取り戻さざるおえなかった。

 それほどまでに空気が異常だったのだ。

 一目見て原因がアンナだと、直感的にわかる。いつものアンナではないことは確かだった。

 そして、その空気の異常をダニッシュは感じたことがあるのを思い出した。

 それは、ダニッシュが魔王討伐の任を請けて旅立った夜のときに感じたものだった。

 魔王討伐部隊に自分の意思とは無関係に入ったダニッシュは、早速魔王軍の先兵と出くわしていた。周りのものは自ら志願するほどなので、そこそこの力は持っている。そして、それに伴った勇気も。

 しかし、ダニッシュは力はあれど意思がなかった。魔物恐怖症のためだ。

 ダニッシュはさっそく逃げた。脇目もふらず逃げた。しかし、現実はダニッシュを逃がしてくれるほど甘くなかったのだ。

 周りは岩に囲まれ、仲間の兵士もいない。そんな場所に気づけば迷い込んだダニッシュは、自分に逃げ道がないことを知った。そして予定通りとでも言わんばかりのタイミングで魔物が現れた。

 ダニッシュは死を覚悟した。魔法は使えなく、逃げ道もないのだから。

 そんなとき、辺りを光が包んだ。そして、空気が変わった。

 

 ――おっさん。そんなびくびくしてちゃ魔王どころか、そこらへんの雑魚にも勝てねーぜ?


 目の前に一人の青年が現れた。ボロボロの茶色い布着をはおった一人の光に包まれた青年が。

 魔物は消えた。光に包まれながら。

 それはあっけなく、まるで決められていたかのようにあっさりと。

 ダニッシュには眩しかった。青年の純粋でそれでいて何かの決意を固めた瞳が。

 君は……? とダニッシュは聞いた。

 すると、青年は鼻を擦りながら恥ずかしそうに言った。


 世間的に言わせれば俺は魔王とは真逆の――勇者だ。


 そう少し笑いながら言って、青年はダニッシュの目の前から去った。

 そのあとダニッシュは別の隊員に発見され、部隊長にこっぴどく叱られ、そしてフェルメスに薬を飲まされて操られることになったのだが。

 そのときの青年と同じ空気をアンナは纏っているのだ。

「もしかして、アンナさんはあの青年の――?」

 ダニッシュが言葉を発すると同じぐらいに、アンナの体が光に包まれた。その光はあのときの青年と同じものだ。

 ――いや、少し違う。

 光が少し淀んでいた。青年のものよりも眩しくない。

 淀みを見たダニッシュは、アンナが今どのような感情に囚われているのか、感じ取ってしまった。

 感じ取れるほどのアンナの思いが、淀んだ光から流れ出していた。

 負の感情だった。さっきまでダニッシュが抱いていたものと同じ、いやそれ以上のものだった。

 そして顔つきはソージアを目の前にしたときと同じ復讐の表情だった。

「許さないから……お前はここで死ね!!」

 アンナは呟くと同時に動いた。そして、次の瞬間。

 獣は無残な肉塊となって、ダニッシュの体に降り注いでいた。

 何が起こったのかダニッシュには理解できなかった。気づいたら、獣は死んでいた。そしてアンナは、自ら殺した相手の血を浴びながら立ち尽くしていた。

「アンナさん!」

 立ち尽くすアンナを見て、ダニッシュは危ういものを感じアンナのもとへ駆け寄った。

「大丈夫ですか、アンナさん! しっかりしてください!」

「ダニッシュ……さん? 私なにを……」

「アンナさん、自分がなにをしたのか覚えてないんですか……?」

「私、油断して……ダニッシュさんが助けてくれて……それでレイノスが……っ!」

 アンナはっ、と事態を思い出したような顔をして、叫んだ。

「レイノスは!? レイノスは無事なの!?」

 アンナに詰め寄られたダニッシュは、苦虫を潰したような顔をして、

「レイノスさんは……あそこです……」

 と言って、レイノスが横たわっている場所を指差した。

「レイノス!!」

 ダニッシュが指差した場所にレイノスを認識したのか、アンナは走り出す。ダニッシュも、進めば目の当たりにしてしまう光景を分かっていながら、足を進めた。

 レイノスの所へ行ったダニッシュは、泣きそうになった。

 目の前の見ていることができない光景に。

 首元から流れ出したレイノスの血が、地面に血だまりを作りレイノスの服を赤く染めていた。目は焦点があっておらず、瞳には何の色彩も宿っていなかった。

「レイノス……起きてよ。ねぇ、起きてよ……っ!!」

 アンナは涙を流していた。悲痛な呼びかけをレイノスにしながら。

「レイノスさんっ……! こんなところで寝ていていいんですか? あなたは山神様を倒すんじゃなかったんですか? 自分の目的を果たすんじゃなかったんですか? ……その姿のまま、寝てていいんですかっ!!」

 ダニッシュも叫んだ。心の思うままに。そして、泣いた。

 そんな二人の呼びかけにも、レイノスはピクリとも体を動かさず、そして、なにも言わず倒れているだけだった。

 誰でもいいから助けてください。この悪夢のような光景を無くしてください。

 レイノスさんを――

「レイノスを、誰か助けてよーーー!!」

 アンナが叫んだ。

 そのとき、いきなり洞窟の天井が一斉に崩れた。

「あ、危ない!」

 ダニッシュは咄嗟に魔法を放った。三人を包みこむように、赤き炎の楯を。

 そしてダニッシュの目にしたのは空。

 そして、そこに浮かぶ二つの影。


 ――レイノスを助けてほしいか? 小娘。


 声が響く。その声を聞いたダニッシュとアンナはその人影を認識しようと見つめる。

 そこにいたのはアンナがもっとも憎む相手。

「魔王がなぜここに……」


 そこにいたのは、リンの姉であるラミアと、レイノスの弟だというソージアの姿だった。

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