ミリネの家
「ここがゲルブ村の北部か……」
広場での騒動の後、レイノス達はミリネの家へと泊まるため、ゲルブ村の北部の大通りを歩いていた。騒動の場にいた獣人たちも各々自由に行動し、あるものは家へ、そしてあるものは夜の仕事へと向かっていった。
そのためか、大通りにはすでに多くの獣人たちがごった返しており、ゲルブ村の南部とはまた違った賑わいを見せていた。
「なんか、活気があるね! 今は夜なのに、昼みたいに明るいし。獣人の人たちも楽しそう」
アンナは目をキラキラと輝かせながら、あちらこちらをうろちょろしている。店があればそこに立ち寄り、獣人がなにか芸をしていれば飛び跳ねながら楽しむ。そんなアンナを笑いながら暖かい目で見る獣人もいれば、距離を置いて冷たい目を送る獣人もいた。
「……俺たちは来てよかったのか? ここでは俺たちのような姿をしたものを歓迎しない獣人もいるみたいだしな」
「それは……まぁ、そうですけど……」
レイノスの問いにミリネは言葉を濁す。ミリネの頭から出ている猫耳が、シュンとうなだれた。
「でも、あの広場にいた私の仲間はあなたたちを歓迎していますよ。多分、二、三日もたてばこの村の獣人の人たちは分かってくれます」
「そうか、それならいい」
二人がそんな話をしていると、少し遠くの方からアンナが手にいっぱいの袋を持って走ってきた。そして、レイノス達の前で止まると、手に持っていた袋を地面に置き、ふぅと一息つきながら汗をぬぐった。
「レイノス見て見て。獣人の人たちから、こんなにいっぱい食べ物を貰っちゃった。みんなで後で食べようね」
「お、おう」
「ふふっ。ね? 歓迎しているでしょ? この調子だと二、三日後には大変なことになりますね」
「そ、そうだな」
レイノスは目の前にある袋の量を見て、苦笑いを浮かべていた。とてもレイノスたちだけで食べきれる量ではなかったのだ。例えるのなら、宿の夕食三人分の五日分とでも言えば分かるだろうか。
とにかくレイノスは目の前の食べ物の量に驚き、三日後のことを考え口をぽかんと開けていた。その様子を見たミリネは、思わずおかしくて笑ってしまったのだ。
「ふふっ。さぁ、この角を右に曲がると私の家です。積もる話と積もっている食べ物の処理はそこでしましょう」
そういって、ミリネは大通りの角を右に曲がり、レンガ造りの茶色い四角の家へと入っていった。それに続くようにレイノスたち三人も入っていく。
「ミリネさん、お帰りなさ――あれ? 人間のお客さんですか?」
「ただいま、ダンさん。この人たちには今日この家に泊まってもらうことにしたから」
ミリネのその言葉に、ダンは眉をひそめ、レイノスたち三人を値踏みするような目で見た。そんなダンを見たミリネは、慌てて広場であったことを詳しく話し出した。最初はダンも疑わしい目でレイノスたちを見ていたが、話を聞いているうちに目尻は下がり、その顔には笑顔が浮かび上がっていた。
「そういうことでしたか。いやいや、すいませんでした。広場での様子を見たなら分かると思いますが、ここでは顔の分からない人間には警戒心を抱いてしまうんです。……まぁ、顔が分かっていたとしても、それが南部の人間なら敵意を抱きますけどね……」
ダンは顔を下げながら、拳をぐっと握り、吐き出すように最後の言葉を話した。そのときのダンは口が歪んでおり、歯をきつく結んでいた。そして、そのままの表情で部屋の奥にあるキッチンと思われる場所へと姿を消していった。
「……ダンさんは、私のお父さんの弟子だったんです。一年前、お父さんのところにやってきて、弟子になって……。それからのダンさんとお父さんは、私が嫉妬するくらい仲がよくて、本当の親子みたいでした」
でも、お父さんが……。
そう最後に呟くと、ミリネは目から涙を流し嗚咽するだけだった。その様子を見て三人は一同に黙りこくり、ミリネが泣き止むまで言葉を発しなかった。
「……すいません。みっともないところをお見せしてしまいました」
「ううん、そんなことないよ。……親がいなくなった悲しみは、私もよくわかる。心に大きな穴が空いたような感じがして、それを埋める方法を探そうとしても見つからなくて……。どうしていいのか分からなくて、無性にお父さんお母さんに会いたくなって、でも会えなくて……」
私も同じだったから。
その一言を、ミリネは聞き逃さなかった。はっ、と顔をあげアンナの顔を見る。アンナの目にはうっすらと涙が滲んでいたが、その口元は笑っていた。
「……アンナさんもお父さんお母さんを?」
「うん。言葉に表せれないくらいつらかった……いや、いまもかなりつらいよ。だから私は旅を始めたの。……復讐するために」
「復讐……?」
アンナはそれ以上喋らなかった。頭を振って、家の入り口から外へ出ていった。
唇を噛み締めながら。
「アンナさんは復讐のために旅にでたんですか?」
ミリネがダニッシュに向きながら質問する。しかし、ダニッシュは頭を掻きながら気まずそうに、
「私にはちょっとわからないんです。その辺の事情はアンナさん、教えてくれませんでしたから」
「そうなんですか……。レイノスさんもご存知ないんですか?」
「いや、俺は知ってるが……こういうことは本人の口から言うものであって、他人の俺が勝手に喋っていいものではないと思う」
「そうですよね……すいませんでした」
ミリネはすまなそうに頭を下げる。ひざに手を乗せてしっかりと。こういう何気ないしぐさから、ミリネはしっかりとしていることが分かる。
起き上がったミリネは、まだもやもやした顔をしてレイノスを見る。
「なんだ?」
その視線に気がついたのか、レイノスが少し不快そうに口を尖らす。
「あの、レイノスさんとダニッシュさんはどうして旅を……? そして、なんでこの村に来たんですか?」
「私は純粋に変わりたかったからです。旅に出れば、心の弱い自分が少しでもいなくなるかな、と思いまして」
恥ずかしい話ですが、そういってダニッシュは自分の魔物恐怖症のことを話した。魔物を見ると脚が竦んでしまうこと、体の震えが止まらないことなど詳しく。
「そうなんですか。なんかダニッシュさんって強そうなお兄さんみたいな感じで、レイノスさんとかを守ってるのかと思ってました」
ふふっ、と笑いながら話すミリネ。
「ええっと、レイノスさんは……?」
「俺は……」
まさか、自分が元魔王だとは喋れず、言いよどむレイノス。事情を知っているダニッシュも、あわあわとしながらレイノスを見ていた。
「俺が旅に出た理由はまぁ、いろいろだが……この村に来た理由なら話せる」
「なんですか?」
レイノスは鋭い目線をミリネに向けると、横にいたダニッシュに一瞬目を合わせ、ぴしゃりとこういった。
「お前の父親、エンジに会うためだ」
「えっ……?」
ミリネの表情が固まり、一瞬の沈黙が流れる。ミリネの額からつぅーと一筋の冷や汗が流れおち、ぽたっ、と床に落ちた。それを確認したレイノスは、あらためて村に来た目的を言った。
「俺達はお前の父親のエンジに会うためにこの村に来た。エンジは伝説の船乗りだと聞いて、お前の父親ならエルフの島まで船を操れると思ったからな」
「エルフの島ですか!? なぜそんな危ない場所へ!?」
「それは話せないが……とにかく俺達はエンジを探しにきたんだ」
「そ、そうですか……でも、お父さんは」
「ああ、だから俺も正直困ってる。これからどうしようか、とかな」
レイノスとミリネの視線が交差し、気まずそうに目を逸らすミリネ。ダニッシュは、まだレイノスの後ろで落ち着きなく動いていた。
そんな中、家の入り口のほうから人の気配がした。それを敏感に察知したレイノスは、すぐさま顔を振り返り、アンナか? と問う。目は鋭いままで。
「ええと、そうなんだけど……私だけじゃないんだよね。もう一人いるの」
声を濁らせ、言いずらそうにしゃべるアンナ。そんなアンナに、その場にいた三人は頭に疑問符を浮かべる。
「ええと、ダニッシュさん。ホント驚かないでね?」
「なんで私が驚くんでしょう?」
「じゃ、どうぞ」
アンナの意味深な発言に、ダニッシュはさらに頭をかしげる。そして、レイノス達が家の入り口の方を見つめながら誰が出てくるのかを探っている。
そして、出てきたのは……
「こ、こんばんは。先ほどはどうも」
イマムネだった。
「お前はたしかイマムネとかいう名前だったな」
「はい、そうです。覚えていただけていたみたいで嬉しいです」
「……忘れられないだろうな。約一名は確実に」
そういってダニッシュの方を見るレイノス。
ダニッシュはすでに遥か彼方をみていた。
すいません!!
更新が大変遅れてしまいました。
ホント、こんなんじゃ読者の人たちが離れていってしまいますね。
反省します。
そして、同時にスランプです。
書きたい文章がかけなくなってしまいました。
ホントがんばらなきゃ。
これからも力の限り書いていこうと思いますので、応援よろしくお願いします。