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無力な魔王と能天気娘  作者: 青空の約束
旅立ち編
20/82

翌日

 のどかな朝。今日も暖かい日が差し込むいい天気であった。

「……くそ」

 不機嫌であった。

 そう、レイノスは今とても不機嫌なのだった。

 目の下には大きな隈ができており、眉間には皺が二本刻まれていた。

 レイノスはベッドから体を起こすと、机の上のたたまれた衣服を手にとる。レイノスはいがいにも几帳面なのだ。

 衣服を着用したレイノスは、この部屋にあるもう一つのベッドへと足を運び、そこで寝ている人物の掛け布団をはぎとった。

 そして、そこにいる人物を激しく睨みつける。

「……おい、起きろじいさん。もう朝だぞ」

「うーん、もうちょいとだけ……」

 レイノスが起こそうとしている人物とは、つまり長老であった。長老とレイノスは一晩を同じ部屋で過ごしたのだった。

「……起きろって言ってるだろ。さっさと起きろ」

 いらいらしているレイノスは、長老の態度でますます顔をしかめる。しかし、そんなレイノスを知らない長老は、気の抜けた声でこう言った。

「う~ん、もう少しまっちょくれ。……今、最高に気持ちいいんじゃ、わし」

 その時。

 室内の温度が急激に下がった。それと同時に、長老も室内の異変に気づいたのか、目をぱちくりと開き目を覚ます。

「な、何事じゃ。いったい何が起きたん……」

 長老は言葉を最後まで言えなかった。部屋の異変の原因に気づいてしまったのだ。

「おい、じじい。いい加減にしろよ。……『今、最高に気持ちいいんじゃ、わし』だと……? なかなかおもしろいこと言うじゃねーか」

 レイノスであった。

 室内の温度を急激に下げた原因はレイノスなのだった。

 その顔には、ひきつった笑顔。しかし、顔は笑っているが目にはどす黒い炎が宿っている。そして、眉間の皺は、先ほどの二本から四本へと数を増やしていた。

「な、なんでレイノス君はそんなに怒っているんじゃ? わしはなにもしとらんぞ?」

 レイノスの、目の中にある黒い炎が激しく燃え上がった。微かに肩も震えている。

「……じい……びき……うる……ねむ…………だよ」

「へ? なんじゃって? もう少し大きい声で喋ってくれるかのう」

 長老がそういうと、レイノスは息をすぅー、っと深く吸って、

「じじいのいびきがうるさくて、俺は全然寝れなかったんだよ!」

 室内どころか、村中に響き渡るのではないかというぐらいの声を張りあげた。そして、溜まった鬱憤を晴らすかのように、レイノスは早口で長老を問い詰める。

「なんでじじいのいびきはあんなにうるさいんだ? 俺の安眠を妨害して楽しいか? 楽しいのか? じじいのせいで俺は一睡もできなかったんだぞ! どうしてくれるんだ? ああ? きいてんのかじじい!」

 レイノスの剣幕は恐ろしいくらいに激しかった。あまりの激しさに、長老はレイノスの顔から目をそらし、両手で耳を塞ぐ。それを見たレイノスは、怒りが頂点に達したのか、部屋に置いてあったマジックソードの柄を握った。そして、剣先を長老に向けて、一言。

「俺の安眠を妨害したじじいは死ね」

 一歩、レイノスは斬りかかるために踏み込む。長老はその間、レイノスの恐怖から逃げるように壁に背中をついていた。

「わ、わしが悪かった。許してくれ」

「いまさら謝っても……遅い!」

 長老の必死の謝罪も空しく、レイノスは長老に向かってジャンプした。

「ひ、ひいー」

 その時、部屋のドアが勢いよく開かれた。

「朝からうるさいのよー!」

 その瞬間、レイノスと長老は風の魔法で吹き飛ばされ、壁に激突。その衝撃で二人共に気絶してしまった。

 ドアを開いたのはアンナ。そして風の魔法を発動したのもアンナなのだった。

「ほんと、うるさいんだから」

 アンナは吐き捨てるように言うと、ドアを勢いよく閉めたのだった。




「なんで朝から魔法なんて受けなくちゃなんねーんだよ」

 レイノスの不機嫌はいまだに続いていた。その様子を見たリンと長老は苦笑い。

「朝早くからうるさくするレイノスが悪いんでしょ~」

 アンナは手に持っている皿をテーブルに置きながら、口を尖らせる。

 ここは居間。

 これからレイノスたちは朝食を食べるのだ。

「だが、なにも魔法を使わなくてもいいだろ」

 レイノスが不満げにつぶやく。

「……わしはいびきだけで、殺されかけたんじゃが」

 きっ、と長老を睨みつけるレイノス。それを見たアンナは、

「……レイノスは朝ごはんなしね」

「すまなかった! 謝る! 謝るから、飯抜きはやめてくれー!」

「よろしい」

 アンナはにこにこしながら、食事の準備を進める。リンも手伝うように、皿運びなどを始めた。

 レイノスは昨日の風呂での一件から、アンナにたじたじなのである。

「いつか、絶対仕返ししてやる……」

 レイノスは密かに自分の中に誓いを立てながら、食事ができるのを待っていた。

「まだかー?」

 待ちきれなくなったのか、レイノスが催促する。

「もうできるよー。……ほら、できた!」

 そういって、アンナは鍋を持ってキッチンから居間へとやってくる。そして鍋からスープをすくい、それぞれの皿へとよそう。

 一皿目、二皿目、三皿目、四皿目、五皿目……。

「あれ?」

 そこで、アンナが素っ頓狂な声をあげる。そして、皿の枚数を数え、周りにいる人数を数えた。

「どうしたんだ? アンナ」

「なんか、皿の枚数と私達の人数が合わないの。皿の枚数は合ってるはずなのに……」

 不思議そうにまた、皿の枚数と人数を数え始めるアンナ。レイノスも不思議そうに首をかしげる。

「……おぬしら、本当に分からんのか? 誰が足りないのか」

 長老は深くため息を吐き、あやつはかわいそうじゃのうと一言つぶやいた。

「ダニッシュ君がおらぬじゃろうが。ダニッシュ君が」

「「あっ!」」

 二人の声が重なった瞬間、入り口のドアがキィー、と開かれる。そこに立っていたのはダニッシュその人だった。

「ダニッシュさん!」

「ダニッシュ!」

「はは、遅くなりました」

 笑顔でそういうダニッシュは、右横腹を苦しそうにおさえている。それに気づいたアンナは、すぐさま駆け寄り、大丈夫ですか! といいながら治癒魔法を唱え始めた。

「ははは、ちょっと自分のせいで怪我しちゃいましてね。……アンナさんも気にしなくていいですよ」

「なに言ってんだい! その怪我はもとはといえば私のせいだよ!」

 自分のせいで怪我をしたと言うダニッシュに対し、ダニッシュの背後から鋭い声が飛んできた。

「こ、この声は……」

 声を聞いたアンナは、一歩後ずさり、その声の主が誰なのか頭をめぐらせる。

 その間に、ダニッシュの横に立つように現れた女性。

 ラミアだった。

「お前は……!」

 ラミアの姿を確認したレイノスは、背中のマジックソードを抜い戦闘態勢に入った。

「ま、まってください! 今、ラミアさんは敵ではありません!」

 慌てながら、レイノスを止めようとするダニッシュ。

「お姉ちゃん!!」

 そんなダニッシュやレイノスを差し置いて一人、リンだけがラミアのもとへ走り出し抱きついた。

「お姉ちゃん、帰ってきてたんだね!」

「久しぶりだね、リン。元気でやってたかい?」

「うん、元気だったよ。昨日はアンナお姉ちゃんとも遊んだし」

「……そうかい。よかったね」

 リンの口から出たアンナの名前。それを聞いたラミアは、アンナのほうへと目を向ける。

「やっぱり、リンちゃんのお姉さんはあなただったんですね」

 そこには、敵意の目をラミアに向けたアンナがいたのだった。






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