助けてくれた少女
サウスリア。
それは昔、人間と魔物が共に暮らしていた大陸。人間と魔物はお互いに助け合い、それはとても幸せな光景だった。
しかし、いつしか人間と魔物は争いが多くなり戦が起こり始めた。
我々はその争いの醜さに、サウスリアの北にある小さな島へと移住する事になった。争いは長く続き、ずっと終わらないと我々は思っていた。
しかし、我々の仲間の一人が魔物の王に話をしに行くため、サウスリアへと渡る。彼女が王の元へと足を運んだ数ヶ月後、魔物の人間に対する攻撃は少なくなり、争いは徐々に減っていった。
我々は二度と同じ過ちが起こらぬように、高い塔を小さな島に建てた。
そこで、我々は長年ずっと、サウスリアを見守っている。
ずっと…………
ずっと……
レイノスが気絶してから、三時間程経とうとしていた。外は陽が沈み、空が暗くなっている。
レイノスが目を覚まさないでいる間に、少女は料理を始めていた。
火の魔法を使い、鍋の下に火をおこすと、中に入っているにんじんやじゃがいもを煮ていく。今日はシチューなのだった。
シチューを煮ながら、少女はレイノスの事を考えていた。
レイノスを見つけたのは、少女が山菜を取りに行った森の中にある、大きな杉の樹の下だった。その木の根元には沢山の山菜が、いつも生えているのである。その山菜を取りに行くのが少女のいつもの日課だった。
少女がレイノスを見つけた時には、レイノスの体には無数の傷があった。少女は、急いでレイノスを魔法で家まで運び、部屋へ寝かせた。そして、レイノスは目覚めたのだが……すぐにまた気絶してしまったのであった。
少女は最後にレイノスが言った、人間に見えるか、という言葉を不思議に思っていた。
しかし、少女は考えるのが嫌になり、
「まぁ、いっか」
と言って、料理に集中した。
「ふ~んふんふんふふ~ん」
少女は鼻歌を歌いながら鍋をかき混ぜる。
鍋の横には、お粥が盛られた皿が置いてある。
さっき彼の部屋に持っていったのは、そのお粥であった。
もったいないからと言って、少女が残しておいたのだった。
「なんか、元気そうだったし、シチュー……食べてくれるよね」
少女はお玉でシチューを掬い、味見をする。
「うん。上出来~」
そう言って、テーブルに皿を準備し、レイノスが寝ている部屋にいく。
すると、レイノスは起きていた。
しかし、表情は暗く、なにか思いつめたように窓の外を見ている。
「どうかしたの?」
少女がそう尋ねても、レイノスは無視をする。
「お~い。ご飯ができたよ~。美味しいよ~」
しかし、レイノスは、少女をまたも無視する。
そんなレイノスの対応に、少女は不満だったのか、少女はレイノスの頬をつねり、少し怒ったように
「無視しないでよ~」
と言った。
「いた、痛い痛い痛い痛い痛~~い!」
レイノスは少女のいきなりの攻撃に、悶絶した。
「もう、無視しない?」
「分かった。分かったから! い、痛い、は、早く離せ」
少女は満足したのか、レイノスの頬を離した。
「な、なにすんだよ、お前!」
レイノスは何故つねられたのかわからなかったようで、とまどいの表情を浮かべながら少女を怒鳴った。
しかし、少女は意にもかいさず答える。
「無視するからでしょ」
「なんで初対面のお前にここまでされなきゃいけないんだ!」
そう言うと、レイノスは少女に掴みかかろうとした。
少女は咄嗟に頭を庇った。
しかし……
レイノスは少女に何もしなかった。
少女はレイノスの方をちらっと見た。そこには暗く重い表情をして、今にも泣きそうな少年の顔があった。
そして、レイノスは呟く。
「……今の俺は人間と同じか。魔法も使えないなんて。……くそ」
そう言って、またレイノスは布団の中に入ろうとする。
「ちょっと、ご飯だって言ってるでしょ!」
そう言って少女は、レイノスを無理矢理布団から引き剥がした。
そして、食事の席まで運ぶ。
その間レイノスはずっと暗い顔のままだった。
「ほら、暗い顔してないでさ。ご飯食べれば元気出るって」
そう言って、皿にシチューを盛る。
「……いらねーよ」
「いいから食べなって。食べれば元気――」
「いらねーって言ってんだろ! なんで、魔王の俺がこんなもの食わなきゃいけねーんだ!」
レイノスはそう言って、シチューが盛られた皿を床に叩きつけた。
室内に皿の割れる音が響き渡る。
そして、床には無惨にシチューがこぼれた。
レイノスはこぼれたシチューを見ながら、息を切らしていた。そんな中、アンナは割れた皿とこぼれたシチューを見つめうなだれていた。そして、
「……めでしょ」
「はぁっ、はぁっ……あっ?」
「食べ物粗末にしちゃだめでしょ!」
そう言って、彼女の右手から風の刃がレイノスに向かって放たれる。
「うお!?」
そうして、レイノスは壁まで吹き飛ばされ、気絶してしまった。
「落ち着いた?」
少女は、レイノスが寝ているベッドの横に座っている。
「……お前魔法使えるんだな」
すると、少女は少し怒ったような顔して
「お前じゃなくて、アンナって名前がちゃんとあるの。以後お前禁止ね」
アンナはそう言いながら、レイノスの手当をしている。
「あなたの名前は?」
アンナはタオルの水を絞りながら、レイノスにそう聞く。
「……レイノス」
「レイノスね。今度からそう呼ばせて貰うわ」
アンナは傷口を消毒しながらそう言う。
すると、アンナは何か思い出した顔をしてレイノスに聞いた。
「そういえばレイノス、さっき魔王とかなんとか言ってなかった?」
「……なんでもねーよ」
「ええ、気になるよ~」
「いいだろ、どうだって……。ところで、この近くになんか町みたいなところはないのか」
レイノスはアンナが聞いてきた話題を避け、話題を変えた。
「町か~、あまり外行った事ないからな~。ここからだとサロンの町が近いかな?」
「そうか……」
すると、アンナは傷の手当をやめた。話をしている間に傷の手当は終っていた。
「はい、終わり」
「お、おう」
アンナは救急箱を片付けると、またレイノスに話しかけた。
「それで? サロンの町に行ってどうするの?」
レイノスはその目的は言わずに、
「世話になったな。俺は明日出て行く。俺にここまでの事をして生きていられるなんて運が良かったな」
すると、アンナは顔を輝かせて、
「私も行くわ」
と言い出した。
「ふ、ふざけるな! 調子に乗るのもいい加減にしろよ!」
すると、アンナは真顔になり
「怪我人を一人にさせるわけにいかないでしょ。それに……」
「それに……?」
「冒険でしょ? 私、旅に出るのが夢だったのよ!」
レイノスはこの言葉を聞いて、この女ばかだ、と心の中で呟いたのであった。
ニ話目を書いて見ました。小説書くのは難しいと今感じております。まだまだ序盤で話が盛り上がっていませんが、どうか飽きずにお読みいただけたら嬉しいです。これからも頑張って書いていきますので、お読みになっている皆さん。どうか、よろしくお願いします。