表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無力な魔王と能天気娘  作者: 青空の約束
旅立ち編
16/82

魔族と人間の村

「こっちだよー、アンナお姉ちゃーん!」

「まてまてー! リンちゃんなんか、すぐに捕まえられるんだから」

 リンと呼ばれる少女とアンナは、村の中で追いかけっこをしていた。そんな光景を見ている者が三人。

 レイノスとダニッシュ、そして長老であった。

「元気じゃのう。あの二人は」

 そう言いながら、長老は自分の口元に生えている長い髭をいじりながら微笑む。

 三人は家の前にある石に腰掛けていた。その家とは、つまり長老の家である。

「ほらほらー、こっちだよー」

「あぁん、リンちゃん速すぎるー」

 二人は飽きることなく、かれこれ一時間は追いかけっこをしているのであった。

「あいつら、よくあんなに走れるな」

「ははは、そうですね」

 レイノスは呆れたような顔で、ダニッシュは困ったように苦笑いしながらアンナ達を見ていた。

 ここマニ村は、人間と魔族が共存している村である。村の中央には、大きな木が一本の柱のように植えられている。そして、その木を囲むようにたくさんの家々が並んでいた。

 長老の家は、村の入り口とは反対の北の方角に建てられており、裏には高く大きな山がそびえたっていた。

 リンと呼ばれている少女は、井戸の水を汲んでいた少女で、その後に現れた老人が長老この人であった。

 ちなみに、リンは長老の孫である。

「でも驚きましたねー。まさか人間と魔族が共に暮らしている村があったなんて」

 その言葉に、長老はふぉふぉふぉ、と笑いだした。

「それはこちらのセリフじゃよ。まさか、この村に人間の旅人がやってくるのじゃからな」

 すると、ダニッシュは長老の言葉に疑問がわいたのか、不思議そうな顔をしながら長老に尋ねた。

「なんでこの村に人間が来ることが珍しいんですか? この村の場所なら、別に他の旅人が来てもおかしくないでしょう」

「結界が張られてたんだよ」

 ダニッシュの問いに答えたのは、長老ではなくレイノスであった。

「ふぉふぉ、気づいたのかお主。なかなかやりおるのう」

 長老は感心するような顔をしてレイノスを見た。

「当たり前だ。魔族ならば、通れば誰にでも分かる」

「……お主魔族なのか? どう見ても人間にしか見えぬし、魔力も感じられぬぞ」

 長老は、レイノスを怪しそうに見た。それに対し、レイノスは無表情で、

「……色々あるんだよ」

 と、言葉を吐き捨てるように言った。それを見た長老は、何かを感じ取ったのか、

「ふむ、そうか……」

 と言って、その話題を終わらせた。辺りに一瞬の沈黙と暗い雰囲気が流れる。

 長老は沈黙を破るように、レイノス達に尋ねた。

「話は変わるが……お主らはこの村に来ることが目的ではないのだろう? いったいどこに向かうつもりだったのじゃ?」

 その長老の問いに、先程の暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように、ダニッシュが明るく答えた。

「ええーとですね、船乗りを探すために、北のゲルブ村に向かっていたんですよ」

 ダニッシュがそういうと、長老は軽く微笑んだ。そして、ふぉふぉふぉ、といきなり笑い出した。

「ど、どうしたんですか?」

「いや~、お主らは運がいいのう。ゲルブ村は、この家の裏にある、山の洞窟を抜ければ辿り着くぞい」

 その情報には、ダニッシュだけではなく、レイノスも驚くように目を見開いた。

「そ、その話は本当か!?」

「あぁ、本当じゃとも」

 長老はそういいながら、深々と頷く。

「や、やりましたね! これでゲルブ村に早く着きますよ! アンナさんに感謝ですね!」

「あいつはなんなんだ……」

 ダニッシュは両手を挙げて喜び、レイノスはアンナの運の強さに寒気を感じるように震えていた。

「ふぉふぉふぉ、まぁ、とりあえず今日はわしの家に泊まっていきなさい。大きな風呂も完備しておるから、旅の疲れを癒すといい」

 そう言って、長老は家の中に入っていった。

「ふん。俺達も入るとするか」

「すいません、レイノス君。先に家に入っててもらえますか。私はちょっと山の洞窟を調べたいので。すぐに戻るとは思いますけどね」

 ダニッシュの言葉を聞いたレイノスは、鼻をふん、と鳴らし、

「分かった」

 と言って、家の中に入っていった。それを見たダニッシュは、手を上にうーん、と伸ばして、

「レイノス君のことだから、僕の分の食事まで食べちゃうんだろうなー。……ちゃんと食料はバッグに詰めて持っていこう」

 ダニッシュはそう言うと、自分のバッグの中に食料を入れて、裏の山へと向かった。




 その頃、アンナ達はまだ追いかけっこを続けていた。

「ほらほらー、アンナお姉ちゃんったらどうしたのー?」

「ちょ、ちょっと休ませて……」

「もー、しょうがないなー」

 息も絶え絶えな状態のアンナとは対照的に、リンはまだまだ元気な様子であった。

「へへー、追いかけっこは私の勝ちかな? 楽しかったよ、アンナお姉ちゃんとの追いかけっこ!」

「そ、そう? それならよかった」

 その言葉にリンは笑顔を見せた。それにつられるように、アンナの顔にも笑顔が浮かんだ。

「うーん、でもねー、まだアンナおねいちゃんより、リンのお姉ちゃんの方が強いかな?」

「へ~、リンちゃんにはお姉さんがいるんだ」

 すると、リンは満面の笑みで、

「うん!」

 と、力強く頷いた。

「お姉ちゃんはね、強くて優しくて綺麗なの! いつかリンもあんな女の人になりたいなって思ってるんだよ。世界で一番尊敬してる人なんだ!」

 姉のことを話すリンは、生き生きとしており、とても嬉しそうであった。

「うーん、リンちゃんにそこまで言わせちゃうなんて、なんか嫉妬しちゃうな」

 アンナは微笑みながら、そう言う。それに対し、リンは少し慌てた様子で、

「も、もちろんアンナお姉ちゃんも大好きだからね」

 リンのその慌てぶりに、ふふふ、とアンナは笑う。

「あー、何がおかしいのさー」

「いやいや、リンちゃんが可愛いことするからさ」

「もー、リン怒るよ」

 そう言って、リンは頬を膨らませる。

「ごめんごめん。怒らないでよ、リンちゃん」

 アンナはそういうと、リンを落ち着かせるように頭をなでる。その行動に、リンは口元を緩ませた。

「えへへー、なんか温かいよ」

「そう? それなら私も嬉しいな。それで、リンちゃんのお姉さんは、今どこにいるの?」

 その瞬間、リンの顔から笑みが消えた。それを見たアンナは、自分が聞いてはいけないことを聞いてしまったみたいな気がして慌てた。

「ご、ごめん。聞いちゃいけないことだった?」

 アンナの言葉に、リンは首を横に振った。

「ううん。なんかね、お姉ちゃんの力は特別でね。その力を使うために、今はお姉ちゃんは魔王様の所にいるんだ。だから、お姉ちゃんにはたまにしか会えないの……」

「そ、そうなんだ。……なんかごめんね」

 アンナの申し訳なさそうな顔を見て、リンは笑顔をアンナに向けた。

「謝らないで。もう慣れたことだから。……ほら! もうそろそろご飯の時間だよ。早く家の中に入ろう?」

 辺りの空は暗くなっており、周りの家からは食事のいい匂いが漂ってきていた。

「ほら、もうリンはお腹ペコペコだよ。早く家に入ろう?」

 そうリンが言うとアンナは、一つだけ聞いていい? とリンに言った。

「何? アンナお姉ちゃん」

「リンちゃんのお姉さんの力ってどういうものなの?」

 そう聞かれたリンは、少し考えるようにうーん、と唸る。

「お姉ちゃんの力は詳しくは知らないんだけど、たしか……」

「たしか……?」

 そこでリンは一呼吸置き、

「相手の魔法を吸い取って、はねかえす能力だったと思うよ」

「えっ!?」

 アンナは驚きの表情を浮かべた。

「そ、それって……」

 その時、家から長老が晩御飯だということをアンナ達に伝えた。

「はーい。今行くねー。おじいちゃーん」

 そういって、リンは長老の所へと走り出した。

 その場には、何かを考えるようにアンナが一人立っていた。




 そして、ダニッシュも一人洞窟の前の森の中で立ち尽くしていた。

「ど、どうしてあなたがここにいるんですか!?」

 ダニッシュは焦るように口を開く。そうしないと足の震えが止まらないのだった。

「それはこっちのセリフだよ! どうして人間のあんたがここにいるのさ!?」

 そう……。

 そこにいた人物は――

 ソージアの仲間のラミアであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ