出発
今回やっとコーネリアを旅立ちます。
ダニッシュの情報をもとに、船乗りのエンジがいるというゲルブ村に向かいますが……。
「……ここはどこだ」
レイノス達は道に迷っていた。
「わかりませんよ……。私が聞きたいくらいです」
ダニッシュが肩を落としながら呟く。レイノス達の周りを囲むのは、生い茂る高い木々達であった。その高さレイノス達の身長の四倍はあり、太陽の光をほとんどさえぎっている。
「まぁ、歩けばいつか出られるよ。だから二人ともそんなに落ち込まないでさ、明るくなろう!」
アンナは笑顔を浮かべ、レイノス達を励ます。アンナだけが、この状況に対して危機感を抱いていないのだった。
「誰のせいでこんなことになったと思ってんだよ……」
レイノスは疲れた目で、弱々しくアンナを睨みつける。
「えへへ。……えーと、ごめんね」
アンナもそう言われて、苦笑しながら謝る。
そう。
この状況になってしまった原因は、アンナにあるのだった。
二時間ほど前、ダニッシュが調達してきた情報を頼りにコーネリアを出発した三人は、北にあるゲルブ村目指して歩いていた。ちゃんとした道を。
ゲルブ村まではかなり距離があり、途中にある村や町などによりながら向かうつもりであった。
しかし、コーネリアから北のゲルブ村までの道に一日で辿り着く町はなかったので、しかたなくレイノス達は野宿をする予定だったのだが、アンナが
「野宿は嫌だよ。……そうだ! この森を突っ切って進めば、今日中に次の町とか村に着くんじゃない? そうだよ、絶対着くよ! ……思いついたら行動あるのみだね!!」
そういって、一人勝手に森の中へと入っていったのだ。レイノス達の呼びかけも聞かず。
そして今の状況に陥ったのだった。
「どうしましょう。本当にこの森から抜け出せませんよ。……まさか、このまま飢え死にとか……ひぃ!」
ダニッシュは、自分で言ったことが恐ろしくなって、軽い悲鳴をあげる。そんなダニッシュを、レイノスは冷ややかな目で見つめる。
「!! 見てみて、レイノス!! 森が開けてきて、光が強くなってきたよ!!」
「ほ、本当ですね。それに、村みたいなものも見えますよ! や、やりましたね! これでちゃんとした道にいつでも戻れますよ」
アンナとダニッシュが村の存在に喜んでいると、レイノスが二人に向かって一言
「はしゃぐな」
と、無表情のまま言い放った。
そんな一言に、アンナとダニッシュは疑問の表情を浮かべる。
「どうしたんですか? レイノス君」
「そうだよレイノス。森から抜け出せて、村まで見つかったんだよ? どうして喜んじゃいけないの?」
そんな二人の言葉を聞きながら、レイノスは探るような目を村に向けている。そして、目を一旦閉じて、アンナとダニッシュの方に顔を向け、
「あの村から魔族の気配を感じる」
「「えっ!?」」
その発言を聞いた二人は、声を重ねて驚く。
「ま、魔族ですか!?」
「ああ」
あらためてレイノスの発言を確認したダニッシュは、体をせわしなく動かす。
「で、でも、ここは魔物の出没地域でもないですよ?」
「だが、気配がするんだ。ダニッシュ……お前なら、俺の言う事が本当だと分かるだろう?」
「それは……」
レイノスが元魔王だという事をダニッシュは知っている。なので、同族のことは同族の者が一番分かる。そうレイノスは、ダニッシュに伝えたのであった。
しかし、その事を知らないアンナは、
「なんでレイノスが言っている事が本当だって、ダニッシュさんはわかるの?」
と、疑問に思うのだった。
「なんでって……レイノス君教えてないんですか?」
「あぁ、教えたら色々と面倒な事になりそうなんでな」
レイノスが言う面倒な事とは、ソージアとの関係の事であった。ソージアが言っていた事が本当だとするならば、レイノスとソージアは兄弟関係である。そうだった場合、アンナの復讐の炎が自分に飛び火してくるのが嫌なのであった。
「もう! 二人して私に隠し事なの? ……ならいいよ! 私一人でもこの村に入るから!」
アンナは少し頬を膨らませながら、村に向かって歩き出す。
「あっ! ちょ、ちょっとアンナさん!!」
そんなアンナを止めようと、ダニッシュがアンナの所へと走り出す。
「結局は俺の忠告なんて聞きやしないんだな……はぁ」
レイノスはそう言いながら、深く溜め息を吐く。
そんなレイノスには気づきもせずに、アンナは村へと足を踏み入れた。
「なんだ、別に普通の村じゃない。……どこかに人はいないかな? ……あっ! すいませ~ん!!」 アンナが村へと入ると、右斜めに一人の少女が井戸で水を汲んでいた。少女はアンナの呼びかけに対し、体をビクッ、と震わせゆっくりと振り返った。少女の瞳は黒く、耳も普通の人間のそれだった。そして、アンナの顔を見ると
「え、ええ? お、おじいちゃーん!!」
と言って、村の奥へと逃げるように走り去っていった。
「ど、どうしたんですか?」
アンナに追いついたダニッシュは、走りさった少女を見ていたのか、少女の逃げた方向を見つめながらアンナに聞いた。
「わ、わかんないよ~」
アンナも、少女の突然の逃亡の理由が分からなかったのか、首を傾げている。
「お前ら、結局俺の忠告を無視したな」
レイノスも、いつの間にかアンナ達の後ろに立っており、腕を組みながら怒りの表情を向けていた。
「い、いや、私はアンナさんを止めようとしただけで……」
「レイノスが隠し事するからでしょ」
「うっ……」
二人とも、しっかりとした理由をレイノスに言ってきたので、レイノスは唸ることしかできなかった。
三人がそんな風に話していると、ジャリ、という音が聞こえた。三人が音のしたほうに振り返ると、そこには先ほど逃げた少女と一人の老人が立っていた。
「おじいちゃん! この人達だよ!」
少女はレイノス達三人を指差しながら、そう老人に伝える。
「……なぜこの村に外部の人間がいるのじゃ」
老人は信じられないものを見るかのような表情であった。レイノスも老人と同じような表情で、少女と老人を見つめていた。
「どういうことだ……なぜ、魔族と人間が一緒に暮らしている!!」
そうレイノスが言った瞬間、周りにある家々の扉が開いて、ここの住民が次々と外に出てきた。その住民達は魔族の姿をしている者もいれば、人間の姿をしている者もいる。
「こ、この村は……もしかして……」
ダニッシュは辺りの光景が信じられない様子でそう呟く。そのダニッシュの言葉に続くように、老人が口を開いた。
「そう、この村は魔族と人間が共存して暮らす村ですじゃ」
十五話目です。
ここからは、魔族と人間が共に暮らす村の話がスタートします。