酒好亭
ここはコーネリアの酒場の一つ『酒好亭』。ここ『酒好亭』では、日が沈むと同時に店を開店し、多くの酒好きが一斉に集まる、酒好きの男達の憩いの場であった。
『酒好亭』の中は、横に長いカウンターが一つあり、その他の場所には円形の机と椅子が置いてある。カウンターの中は、色々な種類の酒が置いてある。
そんな酒場に、酒好きの男達は毎晩足を運び、酒を大量に飲み、そして毎回の様に誰かが喧嘩をする。そんな事が毎回の様に繰り返されていた。
そんな『酒好亭』のマスターを務めているのはキエラと呼ばれる女性である。この街の酒場で唯一の女性マスターでもあり、そして、様々な情報を掻き集める情報屋の顔も持つ女性であった。
キエラは魔法の腕も中々あり、喧嘩をする男達をいつも魔法を使って止めていた。
「おいおい。おめぇ、俺の酒を勝手に飲みやがったろ」
「あぁ? そんなとこに置いとく、てめぇがわりぃんだろ」
そんな風に今日も、酒に酔った男達が口喧嘩を始め、最終的には殴り合いになった。
「あんたら、あたしの店で毎度毎度暴れんじゃないっつの!」
その喧嘩を、キエラは慣れた様に魔法を使い止めた。キエラから放たれた睡眠の魔法にかかった男達は、すやすやと眠りに落ちた。
「ほんと、毎度毎度疲れるったらありゃしないね。少しは止めるこっちの身にもなれってんだ」
キエラがそう悪態をついていると、キィ、という扉を開く音が店の入り口から聞こえ、一人の男が入ってきた。
「いらっしゃい」
キエラがそう決まり文句を言った先には、口の周りに髭を生やし優しそうな顔をした男が立っていた。
そうダニッシュである。
「今は、カウンターしか空いてないよ。他は全部こいつらが占領しちゃってる」
キエラはそう言って、寝ている男達を指差す。
「いえいえ、カウンターで結構ですよ」
そう言ってダニッシュは、カウンターの椅子へと腰を下ろす。
「何にする?」
「軽めのやつでお願いします」
「了解だよ」
注文を受けたキエラは、手馴れた動きで注文の酒を用意する。
「はい、この店で一番軽いやつだよ」
キエラはそう言って、カウンターに酒とコップを置く。その脅威的な早さに、ダニッシュは口を大きく空けて驚いていた。
「は、はやいですね」
「このぐらいじゃないと、あそこで寝てる男達の注文に間に合わないからね。嫌でもはやくなるってもんさ」
キエラは寝ている男達を見て、少し笑いながら答える。
「そ、そうなんですか」
そんな他愛もない話をしていると、キエラがダニッシュの方に向き直り、真面目な顔になる。
「それで、何の情報が欲しいんだい? 英雄ダニッシュさん」
「な、なんで私がここに来た目的が分かったんですか? そ、それに私の名前を知ってるのは何故なんですか?」
すると、キエラは少し不機嫌そうな顔になり、
「あんた、あたしをなめてんの? 情報屋である以上、私達人間を救ってくれた英雄さんを知らないわけがないだろう」
「そ、そんなに私は有名なんですか」
「ああ、あたし達情報屋にとっては常識だね」
ダニッシュは、常識、という言葉を聞くと、恥ずかしそうに顔を紅く染めながら、俯いた。まあ、顔が紅いのは、酒のせいなのかもしれないが。
「そこまで話が分かっているなら、話は早いですね。えっとですね……」
「船の操縦士を探しているんだろ? 武闘大会の副賞の船を動かすためにさ」
ダニッシュは、またもや口を大きく開いて驚いた。
「私の心を読んでいるんですか!?」
「読んでるわけじゃないよ。まあ、情報屋はこれぐらいは普通に分かるさ」
キエラは、空になったダニッシュのコップに、酒を注ぐ。その注がれた酒を、ダニッシュは少し口に含む。
「やっぱり、あなたは噂のとおり、一流の情報屋なんですね」
「ふふふ、もう六年ぐらいこの仕事をしているからね。でも、私なんてまだまだだよ」
「いえいえ、凄いですよ」
ダニッシュが、キエラをそう褒めると、キエラは頭をかきながら少し照れているようだった。そして、その照れを隠すように、キエラは話を戻した。
「ま、まぁ、この話はこれぐらいにしてさ。……本題に入るよ」
「はい」
「あんた、今いくらあるんだい? その金額によって情報の質も変わるからね」
そう言われたダニッシュは、持ってきていたバッグな中から五十マール取り出し、カウンターに置いた。キエラはその金額を見ると、納得したように深々と頷く。
「よし。これだけあれば、あんたに情報を提供出来るよ」
「そうですか。安心しましたよ」
キエラはカウンターに置かれた五十マールを、自分で取り出した袋に詰めた。
「じゃあ、さっそく情報を教えようかね。まずは何が知りたい?」
ダニッシュは少し悩むような仕草する。
「じゃあ、今このコーネリアに手を貸しでくれそうな船乗りはいますか?」
「いるっちゃあいるけど、あんた船でどこまで行くつもりだい」
「それ、言わなくちゃダメですか?」
「言わなくてもいいけど、確実な情報は約束できないよ?」
それを聞いたダニッシュは、決心したように口を開く。
「えー、き、北のエルフが住んでいる島まで行こうと思ってます」
ダニッシュのその言葉を聞いたキエラは、目を見開き、口をパクパクしながら言葉を失っていた。
「あ、あんた。エルフの島まで行ってくれる船乗りなんて、ここコーネリアどころか他の町にもいないよ!?」
「……やっぱりそうですよね……」
ダニッシュは落胆の表情を見せる。キエラはそんなダニッシュを見て、またもコップに酒を注ぐ。
「エルフの島に行くのかい? 死ににいくようなもんじゃないかい」
キエラがこうまで言うのには理由があった。エルフは圧倒的な魔力を体の内に秘めており、仲間意識が強い。しかも、普段の性格は温厚だが、他種族に対しては、異常なまでの敵対心を見せる種族。それがエルフであった。
そんな種族がいる島に、誰もが近づかず関わらずを心の内に秘めていた。なので、エルフのいる北の島に行った事のある人間は数少ないのであった。
なぜ、ダニッシュはそんなエルフの島に行くのが怖くないのかというと、実際怖いのだが、レイノスの正体を知っているダニッシュにとっては、未知の恐怖より目の前の恐怖の方が怖いためであった。
「やっぱりエルフの島まで行ってくれる船乗りはいないですよね。……時間とらせてすいませんでした。なんとか自分達でやってみます」
そう言ってダニッシュは、カウンターの席を立とうと腰をあげようとする。しかし、それをキエラが肩を押さえつけて止めた。
「待ちな。情報料を貰っておいて、なにも聞かせず帰したとあっちゃぁ、情報屋のキエラの名が廃るってもんだよ!! そう言えばね、一人だけ知ってるよ。あんたらの望む船乗りをね」
キエラのその言葉に、ダニッシュはカウンターの奥に体を乗り出した。
「だ、誰ですか!! その人はどこにいるんですか!!」
「まぁまぁ落ち着きなって。そいつの名は確か……そうそう! エンジって名前だよ。今は、ここコーネリアを北に行ったところにある、ゲルブ村って所にいたと思うよ」
「そうですか!! ありがとうございます!! それじゃ情報を頼りにその村に行ってみますよ」
ダニッシュはそう言うとすぐさま立ち上がり、興奮した様子で店を後にしようとする。
「ちょ、ちょっと待ちな!!」
そんなダニッシュをキエラは呼び止める。
「な、なんですか?」
ダニッシュは不思議そうな顔をしながら、キエラの方へと振りかえる。
「そのエンジって男は気難しい奴みたいだからね。充分扱いには気をつけるんだよ。……そ、それとね」
キエラはそこで一旦言葉を区切ると、恥ずかしそうに顔を背けて、
「あ、あんた。ちょっと気にいったからさ。ま、またこの酒場に来なよ。美味い酒用意して待ってるからさ。……絶対来なよ!! こ、来なかったら、あんたの情報調べ尽くして街中にばらまいてやるからね!!」
キエラはそう言うと、早く行けという風に、手をひらひらさせる。ダニッシュは、キエラを不思議そうな目で見ていたが、すぐに笑顔になり、
「分かりました。また、この街に来たら、この酒場に寄りますよ」
「お、おう」
ダニッシュはそれだけ言うと、扉を開けて酒好亭を出ていった。それを確認したキエラは深い溜め息をついた。
「あたし、どうしちゃったんだろ……」
キエラは顔を紅く染めながら、ダニッシュの使ったコップをしまう。
「ま、まぁいっか」
そう言うと、キエラは寝ている男達を見て
「ほら、早く起きな、もう閉店だよ!」
キエラが言うとおり、外の空は薄白くなっており、太陽が少しずつ顔をだしていた。
「早く起きなって! ……しょうがないね」
キエラはそう言うと、手のひらを男達に向かって突き出した。
「我の手に集まる一つの炎」
店の中には轟音が響き、それと同時に多数の男達の悲鳴があがった。
こうして酒好亭の夜は明けた。
こんにちは。(こんばんは)
今回はダニッシュと新キャラキエラしかでてこないお話でした。
どうでしたでしょうか? お楽しみいただけたでしょうか?
自分的には今回出てきた、キエラみたいなキャラは大好きなんです!!
このあとがきを見た人は、どんなキャラが好きなんでしょうか。
僕の書いているこの小説の中には好きになられるようなキャラはいるのでしょうか。
……疑問ですね(~_~;)
まあ、これからも頑張って書いていきたいと思います。
皆さんも飽きずにこれから読んでくださったら嬉しいです!!