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無力な魔王と能天気娘  作者: 青空の約束
旅立ち編
13/82

船の中にて

 青い海の、穏やかな波の音が絶え間なく聞こえてくるこの場所は、コーネリア港。周囲にはカモメが飛んでおり、集団で鳴き声を発しながら飛んでいる。

 コーネリアは商品の流通の中心地でもあり、同時に港街としての顔もあったのだった。そしてここ、コーネリア港には多くの船が停泊しており、街の中心地とさほど変わらない活気がある。

 そんな場所に、とある三人組がいた。

 レイノスとアンナとダニッシュである。なぜ、この三人が港に来ているのかというと、大会の副賞の船を見るためであった。

「うーん、潮風が気持ちいいなー。そう思わない? レイノス」

「……寒い」

 アンナが腕を伸ばしながら、気持ちよさそうにレイノスにそう聞くが、対象的にレイノスは、腕を縮こまらせて体を小刻みに震わせていた。

「もしかして……レイノスって寒がり?」

 アンナがレイノスの顔を覗き込み、思った疑問をぶつける。

「う、うるさい。俺の体にこういう風な環境が合わないだけだ」

「そ、それを寒がりと言うのではないかと思うのですが……」

 レイノスが慌てて言い訳をするが、それをダニッシュが素早く解説した。その解説により、レイノスは恥ずかしくなったのか、顔を紅潮させて逃げる様に歩きだす。

 レイノスは自分でも分かるぐらいの寒がりなのであった。

「そ、そんなくだらない事はもうどうでもいいだろ。さっさと船に乗るぞ!!」

「そうだね。早く乗ろうよ、ダニッシュさん」

「わかりました」

 そう言って、アンナもレイノスの後を歩いていき、ダニッシュもまた、レイノスの態度に少し微笑みながら歩いていく。

 そうして、三人が船へと乗り込んだ。

「思っていたより大きいですね」

「そうだな」

 ダニッシュとレイノスが、船を見渡しながら、そう言う。

「うわ~。大きいよ、大きいよ、大きいよ~」

 アンナはそうはしゃぎながら、甲板を走り回る。その行動を、レイノスは呆れた様に見つめ、ダニッシュは微笑みながら、優しく見つめていた。

 レイノス達が今乗っている船は、人が三十人程乗れる大型船で、船頭部分は操縦室になっていて、船の後ろには部屋が二つ程あり、その間に甲板という形状をした船だった。

「私は少し操縦室を見て来ますね」

 ダニッシュはそう言って、操縦室の扉を開けて中へと入っていった。

「ならば、俺達はもう二つの部屋を見てくるとするか」

「そうだね~」

 レイノスとアンナはそう言うと、それぞれ別の部屋へと入っていく。

 レイノスが入った部屋は、奥にはベッドが左三個と右三個の計六個が均等に置いてあり、左のベッドの手前には鏡が一つ飾ってあった。それ以外には何もなく、レイノスは部屋の中を確認すると入ってきた扉に向き直り、部屋を出ていった。

 レイノスが部屋を出ると、甲板には既にアンナとダニッシュが部屋から出てきていた。ダニッシュは、レイノスが部屋から出てきたのに気付き話しかける。

「レイノス君。レイノス君の部屋はどの様な感じでしたか?」

 レイノスは、ベッドの位置や数と鏡が置いてあった事を伝えた。

「そうでしたか。こっちの操縦室は、本当に船を動かすものしかありませんでした。アンナさんの部屋は?」

「私の見た部屋はね~、テーブルと椅子が置いてあって、奥にキッチンみたいな料理できそうな所があったよ~」

 アンナは右手の人差し指を口元に当てて、思い出す様に答える。

「そうですか。……では整理すると、この船には操縦室、生活をする部屋、食事をする部屋の三つがあるわけですね。……うん、意外に快適そうですね」

 ダニッシュがそうまとめて満足そうな顔をすると、アンナが突然思いついた様に声をあげる。

「どうしたんだ? アンナ」

 レイノスがそう聞くと、アンナは得意そうな顔になってレイノスを見た。

「えへへ~、やっぱりこの船にも名前が必要だよね」

「ま、まぁそうだな」

「そうだよね。……なら私思いついちゃったよ!!」

 アンナは右手を上に掲げ、自信満々な表情をしている。その表情にレイノスは嫌な予感を感じたが、ダニッシュが、

「なんですか? 気になりますね。教えてくださいよ」

 と、アンナに聞いた。

「いい? いい? じゃあ言っちゃうよ? その名前はね、この船が手に入ったのは私率いる三人のおかげだからこれからも一緒に頑張っていこうね号、だよ!!」

 アンナのその名前を聞いた瞬間、レイノスとダニッシュは首を強く横に振った。

「そ、それはちょっと……遠慮したい名前ですね」

「そうだ! なんで、お前率いる三人のおかげでこの船が手に入った事になっているんだ! そこは俺様率いる三人のおかげでこの船が手に入ったの間違いであろう!!」

「レイノス君の嫌な所はそこなんですか!?」

 ダニッシュが素早くレイノスにツッコんだ。

「ん? それ以外にダメな所などあるのか?」

「……とりあえず、その案は却下します」

 ダニッシュがそう強く言ったので、アンナもレイノスもそれに渋々従った。

「他に良い名前はないんですか?」

 ダニッシュが二人にそう聞くと、レイノスが自信満々に口を開いた。

「ならば、こんなのはどうだ? オコダイナ号というのは」

「へ~、中々良い名前じゃないですか。意味はなんなんです?」

 するとレイノスは口元を歪ませて、得意そうな顔をしながら答えた。

「うむ。これは一つの文の頭文字を取っているんだ。いいか、よく聞けよ? ……おれさまが、この世界を支配するために、ダニッシュには、いけにえに、なってもらう、の頭文字を取ってオコダイナ号だ」

「……全力で却下します」

「何故だ? 良い名前ではないか」

「却下するといったら却下します。……いいですか?」

「うっ、わ、わかった」

 ダニッシュのいつもにはない雰囲気を感じ取り、レイノスはダニッシュの意思を尊重した。

「……はあ」

 深い溜め息をつくダニッシュ。

「他に良い名前はないんですか?」

 そう聞くダニッシュに対し、二人は自分の意見が却下されたのがショックだったのか、答えようとしない。

「……しょうがないですね。なら私の案はどうですか?」

 そう言うダニッシュを、レイノスとアンナは期待の表情で見つめた。

「なに、なに、なに? 聞きたいよ~」

「ふん。まぁ、案があるなら聞いてやる」

 すると、ダニッシュは自信満々に

「ダニッシュ号」

 と、答えた。

「アンナ……こいつ、斬っていいか?」

「うーん。いいんじゃないかな~?」

 ダニッシュの案を聞いた二人は、にこやかに笑いながらダニッシュを見つめていた。レイノスは剣の柄に手を準備させ、アンナは右手をダニッシュの前に突き出し、いつでも魔法が撃てるようにしている。

「す、すす、すいません!! 冗談ですよ、冗談!! 少し調子にのりました!! 私が悪かったです!!」

「「分かればよろしい」」

 二人の声が重なり、ダニッシュの恐怖は一段と増した。そんなダニッシュの様子を見た二人は、攻撃の準備を止めて、レイノスが話題を戻した。

「それで、本当にどうするんだ?」

 それに続く様に、アンナが口を開く。

「三人の頭文字を使うっていうのはどうかな?」

「いいですね、その案」

 ダニッシュは先程の様子から、いつもの様子に戻った口調で、アンナの意見に賛同する。

「うむ。俺もその案で構わん……が、最初は俺の頭文字を使うんだぞ?」

「なら、レアダ号、っていうのでどうかな?」

 その名前に、レイノスとダニッシュは首を縦に振り賛同の意思を示した。

「なら、今日からこの船は、レアダ号に決定~!!」

 アンナがそう言って、笑顔で手を叩き、喜ぶ。レイノスとダニッシュの顔も綻んでいた。

「名前が決まりましたね」

「そうだな」

「それじゃ、船を動かす人はレイノス君に任せましたよ」

 ダニッシュが笑顔でレイノスにそう告げる。

「うむ、わかっ……は?」

「だから、レイノス君がこの船の操縦をするんでしょう?」

「いやいや、お前がするんじゃないのか? ダニッシュ」

 レイノスがそう言うと、レイノスとダニッシュの間に沈黙が流れる。

「なになに~? どうしたの、二人とも」

 アンナだけが二人の会話についてきていなかった。

「アンナ、お前船の操縦できるか?」

 するとアンナは、右手をレイノスの前に突き出し、親指を立てて

「できないよ!!」

 と力強く答えた。

「……レイノス君」

 ダニッシュは、レイノスの肩を叩きながら

「この船が出航するのは、まだまだ先の話のようですね」

「……そのようだな」

 レイノスとダニッシュは、二人して肩を落ち込ませながら溜め息をついた。

「なになに? 二人ともどうしたのさ~」

 アンナだけが、この状況を一人理解していないのであった。










今回は、前回の話とうってかわって、コメディー風にしてみました。

どうでしたでしょうか? 面白かったでしょうか?

今回コメディーを書いてみて、とっっっても難しい事が分かりました。

いや~、コメディー書いている人達は凄いな~、と感心させられた今日この頃でした。

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