表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無力な魔王と能天気娘  作者: 青空の約束
旅立ち編
12/82

アンナの闇

「アンナさん、そろそろ交代しましょうか?」

「いや、大丈夫だから」

「そ、そうですか」

 透き通った綺麗な満月が空に浮かんでいる夜。

 あの決勝戦から六時間経った今、アンナ達三人は宿の部屋の中にいた。

 部屋の中は暗く、ベッドの周りだけがライトで照らされている。

 ベッドにはレイノスが寝ており、その周りを囲むようにして、アンナとダニッシュが椅子に座って看病していた。

「レイノス君、目覚めませんね」

「……そうだね」

 アンナは唇を噛み締めながら、苦しそうに答える。

「大丈夫ですよ! レイノス君なら絶対目覚めますって!」

 そんなアンナを見ていられなかったのか、ダニッシュがアンナを励ますように話しかける。

 しかし、そんな励ましの言葉を、アンナは俯いたまま無視する。

 ダニッシュも、そんなアンナの態度を見て、何も話さなくなった。

 そして、部屋には沈黙が流れる。

 そんな沈黙がしばらく続いた時、

「……う、うぁ……」

 レイノスがベッドに横たわったまま、呻きだした。

「レイノス!?」

「レイノス君!?」

 アンナとダニッシュの声が重なる。

「う……ん? ここは……」

 そんなアンナとダニッシュの声を聞いて、レイノスは少し寝惚けた様に目覚めた。

「レイノス!! ……よかった~」

 アンナは心底安心した様に、顔を綻ばせる。ダニッシュも、レイノスが目覚めた事とアンナの表情をみて微笑んでいた。

「お、俺は……なんでこんな所で寝ているんだ? ……そうか、俺は確かオーガに吹き飛ばされて、そのまま気絶してたのか……」

 レイノスは自分で質問した事を自分で答えていた。そして、一人考えて、一人で納得した様子だった。

「レイノス。ゴメンね、本当にゴメンね……!!」

 そんなレイノスを気にもせず、アンナは一心不乱にレイノスに頭を下げていた。

「な、なぜ、そんなに謝る?」

 レイノスは思った疑問を、そのままアンナに投げかける。

「いいから、謝らせて……」

 アンナはそう言って、また謝り出す。そのアンナの目には、涙が滲んでおり、口元は震え、今にも泣きだしそうな勢いであった。

 レイノスは対応に困ったのか、話題を変えてダニッシュに問いかける。

「そ、そういえば、大会はどうなったんだ? ソージア達は?」

 その問いかけに、ダニッシュは苦笑を浮かべながら口をひらく。

「まぁ、大会には優勝しました。オーガもなんとか倒せましたしね。……しかし、ソージア達には逃げられました。追う暇すらなかった……不甲斐ない限りです」

 ダニッシュはそう言うと、悔しそうな顔をして俯いた。

「……そうか。……くそ!!」

 レイノスも自分の不甲斐なさを感じたのか、拳を握り締め唸った。

 沈黙がしばらく続いた。正確には、アンナはその間も、ずっとレイノスに謝り続けていた。

「そ、そうだ! レイノス君!! 優勝した副賞として船を貰いましたよ。賞金については僕が大会側に返金しました。闘技場を壊したのは半分僕達の責任ですからね」

 沈黙を破る様にダニッシュが明るく話題を作る。

「そ、そうか。まぁ、船を手に入れたんだ!! 目的を達成したな!!」

 レイノスもその沈黙を破る様に、明るく答えた。

 しかし、それを遮る様に、今まで謝り続けていたアンナが口を挟んだ。

「ダニッシュさん……。少しの間、レイノスと二人きりにさせて……」

 その言葉を言うアンナの表情は重く、その様子を見たダニッシュは、無言で頷くと部屋を静かに出ていくのであった。

 扉が閉まる音が部屋に響き渡った。

 場の空気は重苦しく、レイノスはその場の雰囲気を察知し、真剣な顔になってアンナを見つめた。

「……それで? 俺と二人きりになって、何をしたいんだ?」

 レイノスがそう問うと、アンナはその重い表情をレイノスの方へ向けた。

「私の過去の事と、なんで私がレイノスについていったかを聞いて欲しいの」

 アンナは何かが吹っ切れたようにレイノスに言った。そんなアンナに、レイノスは一つの疑問をぶつけた。

「お前が俺についてきた理由とやらは、ぜひ聞きたい。俺に関係する事だからな。だが、なぜお前の過去の事まで聞かなければならない」

「レイノスについていった理由に関係しているから……」

 アンナがそう言うと、レイノスは納得したように、

「話してみろ」

 と言った。その言葉を合図に、アンナが自分の過去の事を話し始めた。

「私はね、一年前までは両親と一緒に、あの家で暮らしていたの」

「あの家とは、アンナが住んでいた家か?」

 そうだよ、とアンナは答える。

「それでね、一年前はちょうど私の誕生日だったの。……お父さんとお母さんは、私の誕生日プレゼントを買いにいくために、私と一緒に町へ出かけたの。夜までずっと私はプレゼントを決めかねてた。そうしたらいつのまにか夜になってたんだ。……そうだね。あの日は今日みたいに月が綺麗だったな……」

 アンナは何かを思い出すように、窓の外にある、鮮やかな色の満月を眺めた。

「……それで? プレゼントは決まったのか?」

「うん。決まったよ……。それが、この短剣」

 そう言うと、アンナは胸元から短剣を取り出した。その短剣は、決勝戦の時にアンナがソージアに向かって振り回していた短剣だった。

 その短剣は、無駄な装飾などは一切ついておらず、斬ることのみに特化されていた。

「私は、誕生日プレゼントをこの短剣に決めて、両親に買ってもらった。そして、私達三人は店を出た。……そしたら、町の門の所に魔物がいて、人を襲っていたの」

「魔物? その町の防衛能力はそんなに低かったのか?」

「いや違う。……人間に化けていたの。魔物が」

「……そういう事か。間抜けな人間はそれに襲われるまで気付かなかったと」

 するとアンナは苦しそうに

「そういう事だね」

 と、一言だけ呟いた。そして、話を戻してまた話しだした。

「その魔物を見た両親は、反対側の門へ逃げたの。必死でね。……でも……そこにはあいつがいたの……!!」

「……一応聞くが、あいつとはソージアの事だな?」

 うん、と頭を縦に振るアンナ。

 そうして話を再開する。その話しているアンナは、段々と語気が強くなっていく。

「あいつは待ち構えていたのよ……!! 逃げてくる人々をね!!」

 アンナが興奮していくのを、レイノスは感じ取り、落ち着かせるように、肩を抑えた。

 アンナは、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

「はぁはぁ、ご、ごめん」

「あぁ」

 アンナは息を荒く吐きながら、頭を下げる。

「……それでね、あいつは笑いながらこう言ったの」

 そう言うと、アンナは言葉を一旦止めて、苦しそうな顔をしながら口を開いた。

「……楽しい宴の始まりだ、ってね」

「宴……」

「そう宴。そして、逃げる人々を殺しはじめた。それも素手でね。体中に人の血を浴び、それを楽しむようなあの顔!! ……あの姿は今思い出しても吐き気がする……。そんなあいつから、 私の両親は必死に私を守ってくれた。……そして、殺された。無惨にもね」

 アンナの手の甲に、一つの雫が落ちる。アンナは泣いているのだった。

「……私の両親を殺した後、あいつは私にこう言った。『これから、お前は絶望するだろう。親を殺され、お前は独りだ。だから、お前は殺さぬ』ってね」

 アンナは、唇を強く噛みながら、話していく。しかし、あえてレイノスは話を止めなかった。止めてはいけないと、レイノスは感じたのであった。

「そう言って、あいつは闇の中に消えた。こうして、私だけが生き残ったの」

 そこでアンナは一回間をおいた。

「その後、私は深い絶望に襲われた。……何回も死のうと思った。でも、ここで死んだら、守ってくれた両親を裏切る気がしたから、死ななかった。……だから、私は復讐を決意して、旅に出たの。……でま結局あいつは見つからなかった」

 そこで、アンナは深く溜め息をついた。

「だから、私は一度あの家に帰ってきたの。そして、少しの間、またあの家で暮らしていた。……最後に思い出を噛み締めたかったんだと思う」

「そうして暮らしていたら、この俺を見つけたと」

「そうだよ……」

 アンナは目に強い輝きを持って、レイノスを見た。レイノスもそれに答えるように、アンナを見つめた。

「正直、レイノスを見つけた時は、一瞬あいつかと思った。でも、よく見てみると、レイノスは人間だった。だから、家に運んだの。というか、体が勝手に動いてた」

「そして俺が目覚めた後は、俺の知っている通りか」

「そう。私はね、その時レイノスがあいつじゃないかって疑ってた。だから、無理矢理にでもついていこうとしたの。あいつだって分かったら、すぐに殺すつもりだった……」

 そう言うアンナは、とても悲しく苦しそうな顔をしていた。

「でも、一緒にいるうちに違うって分かってきた。というか、もう家で話している時から、なんか違うなっていうのは感じてた」

「だから、俺にマジックソードを買ってくるなんて真似ができたんだな?」

「そうだよ。もう、あの時にはレイノスを信用してた。言っておくけど、私は人を見る目だけは確かだからね」

 アンナは少しおちゃらけたように話す。その顔には、笑顔があった。

「……そうしていたら、ソージアが現れたと」

 ソージアの名前が出たとたんに、アンナの笑顔は一瞬にして崩れ去り、また表情は重くなった。

「そう。……ごめんね。あの時は感情が抑えきれなかった……」

「別にいい。結果的には船が手に入った事だしな」

 そこで、レイノスは間をおいた。そして、アンナを再度見つめ直して

「それで? お前はこの先どうするつもりだ?」

 アンナはその言葉を聞くと、顔を下に向けて、呟く。

「あいつを探し出すよ。……レイノス達とは、ここで別れようと思う」

 アンナは俯いたまま、そう話す。

「そうか。なら仕方ないな」

「ごめんね。色々迷惑かけて……」

 アンナはそう言って、部屋を立ち去ろうとする。

「それじゃあ、レイノス……。色々と楽しかったよ。ダニッシュさんにも伝えておいて。……それじゃあね。ばいば――」

「誰が勝手に行っていいと言った?」

「……え?」

 レイノスがアンナの言葉を遮り、そう言った。

「だってレイノス、『それじゃあ、仕方ない』って言ったじゃない」

 すると、レイノスは軽く笑い、

「俺が仕方ないと言ったのは、復讐をしても仕方ないと言ったんだ。誰も勝手に別れていいなんて言っておらん」

 レイノスの言った事に、アンナは口をあんぐりと空けている。

「で、でも、それじゃあ、レイノス達に迷惑がかかるよ? それでもいいの?」

「迷惑? 何故迷惑なんだ? 俺はソージアになめられた。だから、殺したい。お前は復讐するために、あいつを殺したい。利害が一致するじゃないか。……それに、お前の魔法は使える。俺の復讐にも役立ちそうだ。だから、お前は俺達と来るんだ。……お前に拒否権はない!!」

 レイノスは最後の言葉を強く言いきった。その顔には、多少ながらも笑顔が浮かんでいた。そんなレイノスを見たアンナは、

「本当にいいの……?」

 と、涙を目に浮かべていた。

「ああ、当たり前だ」

「……っ!! ありがと~!! レイノス~!!」

 そう言って、アンナはレイノスに抱きついた。

「っ!? こ、こら、離せ!! や、やめろ~!!」

 レイノスに抱きついた事で、アンナの豊満な胸は、レイノスの体に押し当てられて、様々な形に変形していた。

 それを感じたレイノスの顔は炎のように赤くなり、いつもの冷静さはなくなっていた。

「お、おい!! い、いい加減離せよ!! そ、その……お前のあれが当たっているんだよ!!」

 そう言いながら、二人ははしゃいでいた。

 先程の空気は、既に部屋からは消え去っていた。そんな時に、ダニッシュが部屋に帰ってきた。

 ダニッシュは、レイノスとアンナの行動を見て最初驚きの表情を浮かべていたが、すぐに笑顔に変わった。そして、

「おや、真剣な話をしていると思ったら、二人していちゃいちゃしていましたか。これは、失礼しました……」

 ダニッシュはニヤニヤしながらそう言って、また部屋を出ていこうとする。

「お、おい待て!! ……この状態をなんとかしろー!!」

 こうして、アンナはレイノス達とまた旅をする事になったのであった。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ