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無力な魔王と能天気娘  作者: 青空の約束
旅立ち編
10/82

休戦

「レイノス~、早く早く~!」

 アンナが、とある店屋でレイノスを呼ぶ。

「今行くっての」

 レイノスはそう言って、アンナの所へと歩いていく。

 二人は今、コーネリアの街をぶらついていた。アンナが街をもっと見たいと言いだしたからであった。

「へ~、ここって飲み物とか飲めるお店なんだね~。ここに入ろうよ、レイノス」

 アンナはそう言って、さっさと店の中へと入っていく。

「……はぁ~」

 レイノスは疲れたように溜め息をつく。

「……こんな事やってていいのか? 俺」

 そう言って、レイノスも店の中へと入っていった。


〜昨日の武闘大会のとある試合〜


 レイノス達の試合が終わった後も、順調に試合は進められていた。色々な選手達が、己の力を振り絞り行われる試合は大いに観客達を楽しませていた。

 そして、第一回戦の最後の試合が今行われようとしていた。

「この試合に、あの黒いフードの男が出ますよ。しっかり見ていてくださいね」

「ああ、分かってる」

 レイノス達三人は観客席に座って話していた。

 ダニッシュは左手にノートを持ち右手にペンを持って、黒いフードの男……ソージアを分析する準備をしっかりと整えていた。

「ダニッシュさん、そんなにあの人は強いの?」

 アンナがダニッシュに聞く。

「僕の見た限りだと強いですよ。まぁ、この試合を見ればわかると思いますよ」

「へ~、そうなんだ」

 そうやって話していると、司会者がチームを発表し始めた。

「東側入口から入ってくるのは、今大会の優勝候補である、ローレンス率いるギルドチームだ~! この三人はギルドの中でも上位に入る三人です!! ……そして、西側入口から入場してくるのは謎の黒フード三人組だ~!! この三人は何もかもが謎です。もしかするともしかするかも!? 期待ができる三人組ですね」

 司会者の発表が終わると、両チーム共にステージへとあがる。ギルドチームの男達は、やはり闘いに慣れているのか三人共落ち着いている。対するソージアのチームは三人共フードを被っているため表情がわからない。

 黒いフードを被っている一人は、身長が二メートルは超える位の大きさである。そして、もう一人はフードから長い髪がはみだしており、女だという事が分かった。

「それでは始めましょう!! 両チーム準備はいいですか? それでは……試合開始!!」

 司会者の男がそう言った直後、ギルドチームの一人が魔法の詠唱を始める。それと同時にもう一人の男が剣を素早く抜き、ソージア達と間合いをとる。そして、ローレンスと言われていた男は、弓を構えて上空に数えきれない程の矢の嵐をソージア達に向かって放った。

 その三人の動作が完了するまでの時間。僅か二秒弱。素人には決してできない動きであった。

 しかし、ソージア達三人は全くその場から動かず慌てた様子も無かった。そして、ローレンスが放った矢の嵐が、ソージア達の真上一メートルにきた瞬間。二メートルを超える黒いフードの人が、考えられないような叫び声を発した。その声は人間の声などではなく、まさに獣の雄叫びのようであった。

 その雄叫びによって、矢は全て勢いを失いステージの地面へと落ちた。観客達の大半は今の雄叫びで気絶してしまった。

「な、なんなんですか!? あの馬鹿でかい咆哮は!!」

 ダニッシュが驚いたように声をあげる。

「あれは人間のものではないな。……モンスターである可能性が高い」

 レイノスが冷静に分析していた。その間、アンナは今の雄叫びを真似して、ガオ~、などとはしゃいでいた。

 レイノス達三人以外の気絶しなかった観客達も、あ、あれは本当に人間か? などと騒ぎ始め、それは徐々に場内へと広がっていった。

 観客達が騒いでいる中、ローレンス達三人も最初驚いた顔をしていたが、すぐにまた戦闘態勢に戻った。そして、男の魔法の詠唱をが終わり、呪文を唱える。

「吹き荒ぶ風よ、荒れ狂う炎よ、大地を覆い尽くす炎蛇となれ(スネークフレイム)!!」

 そう男が唱えると、男の周りに炎蛇が三体現れる。そして、目にもとまらぬ速さでソージア達に向かって放たれた。

 しかし、三体の炎蛇は跡形もなく消え去った。その場所には黒いフードの女が立っており、右手を前に突き出していた。

「な、なんだと!? 俺の魔法を右手一本で止めたというのか!!」

 魔法を放った男が驚愕の表情で女を見る。すると、女は一言こう言った。

「あなたの魔法をそっくりそのままお返しするわ」

 女がそう言った瞬間、先程の炎蛇が女の右手から放たれた。男はそれをまともにくらい、焼き尽くされた。それを見ていたローレンスはしばし呆然としていたが、すぐに怒りへと表情を変えた。

「……サルマ。サルマーー!!! ……おのれ、よくもサルマを!! 殺してやるぞ、女!!」

 そう言ってローレンスともう一人の男は、剣を握って女に斬りかかった。

 すると女は軽々とその剣をかわし

「ソージア様」

 と言って後ろに下がった。ソージアはその呼びかけを聞き、ローレンス達に話しかけた。

「残念だけど死んでもらうね」

 ソージアはそう一言だけ言って、呪文を唱える。

「死を司る我らが神よ。この場に降臨せよ(エンペラーデス)」

 すると、上空に黒く大きな球状のエネルギーの固まりが現れた。それを見たローレンス達は本能的に恐怖した。ソージア達はステージから降りて、西側入口へと歩いていく。

 ステージにはローレンスと男が立っている。逃げようとするのだが恐怖からか、体が動かないのであった。

 そして、黒い大きな球状のエネルギーの固まりがステージにぶつかった。

 そこにはローレンス達の死体はなく、そして、ステージも跡形もなくなっていたのであった。



 そんな試合が昨日行われたため、ステージがなく、その修繕に明日までかかるという事で、今レイノスとアンナは店などを見て回っていたのであった。

「美味しいね~。ここの飲み物~」

「まぁまぁだな」

 レイノスとアンナは店にある椅子に座り、飲み物を飲んでいた。ダニッシュは宿で、ソージア達の分析を行っている。

「本当に美味しいよ~。あっ、すいませ~ん! これもう一杯貰えますか」

「まだ飲むのか」

「だって美味しいんだもん」

「……そうか」

 レイノスは呆れていた。普通はあんな試合を見たら、食欲など失せるのではないか? とレイノスは思ったのだ。しかし、アンナはいつも通りである。

「……本当に能天気だな」

 レイノスは小声で呟く。

「ん? 何か言った?」

「いや、なんでもない」

 そうしながら、レイノスとアンナはしばしの休戦を楽しんでいたのであった。









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