第90話 黄泉返り①
お待たせ致しましたー
すぐに現実世界へと生き返るかと思いきや。柘榴が目覚めたのは『夢の中』みたいな空間だった。
感覚が不安定ながらも、何故か『安心』出来る空間。狭間でないとしたら、と思っていると光とともに出てきたのは夜光だった。あの空間での、『トイプードル』の姿のままで。
どうやら、一時のお別れでも『マスター』として見送ってくれるのかもしれない。
「……次行ける時、こっちだとどんくらいだろ?」
別に今生の別れではないので、ここは気遣う必要はない。夜光もそれをわかってか、いつものように尻尾を振ってくれていた。
「さあね? 少なくとも、ひと月以上は難しいはずだ。こちらの時間軸では数日でも……現世との時間流は結構差がある。今回の事件がきっかけで、一部調整されるかどうかも分からない」
「マスターは、神様なのに?」
「性格には『現人神』の一端を取り込んだだけの、半端な存在だよ。君たちにわかりやすく言うのなら、天皇が少し昇格した程度だ」
「……充分凄いけど」
「それでも、不知火殿には劣るさ。考えてもみたまえ? 神であるのなら、条件が整えば私が柘榴くんらを黄泉返り出来るはずなのに」
言われてみれば、それはそうかもしれない。まだ魔法に無知とか、不知火の登場が無ければ考えもしなかった。一部でも神を取り込んでいるのならその芸当は可能のはず。
しかし、夜光にはそれが出来ない。
視線を向ければ、彼は肩を落としたような仕草をしていた。
「なんで?」
「簡単な理由さ。私の生前は『事実上の犯罪者』。制約があったのだよ。閻魔大王よりも上の神。日本でいうところの、死後の神様だね。柘榴くんは聞いたことはあるかな? 月読尊という主神さ」
「……ううん?」
「まあ、天照大御神や素戔嗚尊と比較すれば……少し知名度が低いからね? 現世でも祀る神社はあまり多くは知られていない。その神に、まあ『縛り』をかけられたのだよ。管理人としての生活を約束する代わり、そのような禁術は扱えないようにと」
「それがなきゃ、出来たの?」
「死後怨霊となった神だがね? 出来なくはないらしい」
「どーゆー流れで、その一部を取り込んだの?」
「ふむ。いい質問だ」
尻尾を軽く振ると、ぼんやりだがあの美麗過ぎるイケメンの幽体が出てきた。服装は、着物のときのままだ。
「天神様って、悪い死に方したの? 歴史はそこまで詳しくないけど」
はっきり言って、史実とかには然程詳しくはないので正直に言っても夜光は気にしなかった。
「日本三大怨霊とも称されたほど、天皇家を中心に多くの貴族たちを呪った伝説があるくらいだ。もちろん、当時の帝などが鎮めるのに京都を中心に神宮を建立して祀った。現世では彼が『博士』という地位や、学問を究めた存在だとかで『天神様』の認識が強い。私にとっては、概念を取り込んだだけで『憐れな男』でしかないが」
「……出会い、が?」
「そうだね。向こうの時間軸が整うまでまだかかる。少し、私が管理人になるあたりと関わるから話そうか?」
意識の中なので、宝石料理の飲みものすら口には出来ないが。まだ意識が浮上しないのらと聞くことにした。
次回はまた明日〜




