第88話 娘たちの未来を
お待たせ致しましたー
桃世はこれ以上にないくらい、安堵を覚えていた。それは夫もだろうが、己の死後以降の娘の生活は、どの視点から見ても『過酷』以外なんでもなかったというのに。
神のかけらを取り入れていた異種族の『店主』が、すべてを導いてくれた。本人としては、ただの贖罪の一部に過ぎずとも。そのお陰で、『娘たち』は生かされることが可能になったのだ。
桃世たちの祖先が、結果娘たちの養父になることが決まり。冥府で予知されていた事項が、これではっきりした。先読みの障壁は、おそらく紅霊石の神力に近い魔力のそれ。
しかしながら、生きている稀少石は宿主を蔑ろにしない。その結果がこれだとしても、桃世まで死後の幸せを導いてくれるとは。なんと、なんと幸福な未来だろうか。紆余曲折あっても、夫とも死後共に居れるのだ。同僚でしかなくとも、彼自身の罪を償うためにも。先輩としては厳しくしていくつもりだ。それ以外は、これまで断絶していた愛情を育んではいくが。
精神と肉体は、ほとんど二十代後半のまま。今死人の霊体でも、腹部に宿ったままの命は次代に繋がれた。この娘を出産したあとも、おそらく、まだ繋がりはあるかもしれない。柘榴と貫の子が産まれる方が先かもしれないが、まだまだ若々しいのはこちらとて同じだ。
柘榴の成長をある程度見届けたあとなら違っていただろうが、どうも、まだ若いまま死してしまったこともあり。その精神もそのままになっていた。閻魔大王の獄卒のひとりでも、彼の大王はこの未来は浄玻璃の鏡を使わずとも予測はしていたはず。
不知火の来訪も含め、桃世と会合させることが目的だったかもしれない。まだ十年程度では、神の心情を汲み取るなど困難なことだ。しかし、この結果はあまりにも幸福過ぎた。
(……ねえ、椿姫? 私、さっき感じたわ。あなたの魂魄は、今宿ったと)
腹部に感じる、強力な霊力。どうやら、今は娘やその幼馴染からもみくちゃにされている夜光が何か導いたのだろう。死人からの出産でも、肝心の魂の根源がなければ現世では生きていくことが出来ない。おそらく、『何か』を椿姫に宿らせたのか。
しかし、一応は裏切り者の一員だった彼でも、柘榴らを『弟子』として改めて採用した人物だ。神のかけらを持つ者でも、おそらく悪意のある魂魄を入れたわけではない。
存外に、慈しみの感情が強い彼が、どんな魂魄を宿らせたのか。閻魔大王からは正式に告知があれど、桃世はもう既に受け入れていた。何故なら、伝わってくる霊力そのものがとても温かで心地いから。
「……ふたり目、の父親か」
桃世が撫でている腹部の上に、夫の侑馬の手が重なる。温もりはまだ淡いが、今の霊体に馴染めばすぐ戻るだろう。こちらも、十年ぶりに通常に近い肉体に戻れたのだからまだ夢心地に居るのかもしれない。
「ええ、そうよ? 望めば、息子も出来るかも」
「……しら、ぬい、さんに押し付けるのか?」
「ふふ? 育児の辛さは、喜びに変わるのよ?」
「……傍に居られないのが辛いのに」
「あら? ただの獄卒でいるつもりはないわ。子どもたちがちゃんと導いてくれるのなら……補佐官とか目指そうかしら?」
「おいおい……」
そこまで昇進すれば、狭間への行き来ももう少し自由になるはず。現世への視察などはさすがに頻繁は難しくとも。親子での語らいの時間を作るのならば、この異空間はとても都合がいいから。
話し合いの結果、侑馬も新人だがそこを目指すことが決まったのだった。
次回はまた明日〜




