第87話 最初の弟子として、安堵出来た
お待たせ致しましたー
陸翔は大いに安心感を得ていた。
陸翔と名乗ることは、こちらでは今後あっても。現世での生き方を選んだのだから、前世の名である『彰吾』をしばらくは名乗ることとなる。呉羽も当初の予定通りに黄泉返りとなるので、本当に『共同生活』が始まるのだ。
幸い、現世の知識は死後すぐにこの狭間へと流されたこともあり、下手すると彼女らよりも詳しい。魔法で姿は変えても、『生活』まではしたことはなくとも。生活様式の根本的な箇所は酷似しているので、大きなずれはないはず。
肉体については、幼児からやり直すことはない。笑理への引継ぎもあるため、成年体に転身することは閻魔大王の計らいで決定している。そこに、不知火の石も使用すれば補填も充分。死後直後の肉体変動についても、彼らの魔法で既に完治しているから問題はなかった。
(……新たな、『人生』ですか)
罪人にさせられ、狭間では奇異な姿での生活が数百年続いていたために。それが償いなのだと諦めはついていた。なのに、柘榴を召喚した夜光の計画は、自分の知らないところで人生計画までうまく仕組まれていたのだ。巻き込んだ償いとしてか、夜光は呉羽も召喚してくれた。
結果をどこまで『神のかけら』として予測していたかはわからずとも。すべての結果が『ハッピーエンド』で終われたのだ。喪ったものも多くあるが、笑理も含めて納得している者の方が多い。彼女は彼女なりに、あの幹部との別れが済んだようだ。それなら、夜光の二代目助手としての生活は問題ないだろう。
『彰吾』としての生活の中に、しばらく貫らのいる心霊課にて『見習い事務員』の職務で金銭を確保することとなった。居住地もすぐに呉羽と住むわけにもいかないため、彼女が両親を説得したとしても『呉羽の記憶改ざん』の仕事がしばらく続くからだ。
閻魔大王などが処理をしたとしても、柘榴を含めて現実的に簡単にはいかない。魔法などで瞬時に可能など、絵物語のそれでしかないのだ。なので、いきなり彰吾が『婚約者』などと挨拶に行っても追い返されるだけで済まなくなる。状況がひと段落つくまでは、姿を隠していた方がいい。
呉羽たちの今後が定まってからでないと、ただの『詐欺』扱いしかされないだろうから。彰吾の自覚はないが、どうも『美青年』でしかない自分がいきなり登場すると。
『水商売の風俗扱いされるよ?』
などと、喚く呉羽に柘榴が直球的な指摘をしたことで黙らせたのだ。どうも、その手の顔立ちなようで、呉羽にあらぬ疑いをかけるどころか。また、死に近い扱いをされては生き返った意味がないのだ。そのため、呉羽を再三再四説得して、貫らとも打ち合わせした上で『役職』が就くまでは挨拶にはいかないことが決定。
最低、デートなどはするので譲歩してもらえたため。最初だけは柘榴らのこともあるので『ダブルデート』が決定したのだ。貫としては、少し不服だったようだが。柘榴から腹パンされたために受け入れてくれた。感情が戻った妹弟子は、恋人にも容赦ないのは相変わらずだった。
「『陸翔』くん」
いつのまにか、輪から抜け出してきた『夜光』がクリームを拭きながらこちらへ来ていた。風貌は『菅公』のままだが、服装だけはスラックスにワイシャツ。どうやら、かけらとしての服装は動きにくいようだ。
「……お疲れ様です」
「予想くらいはしていたが、お嬢さん方は元気だ。本来の寿命が終わったあとが、ある意味楽しみだよ」
「……僕も、ですか?」
「もちろんだとも。君はこれからも私の『一番目の助手』さ」
「……っ!」
気まぐれで、ここに滞在していただけに過ぎないのに。彼自身のしこりがこれで解決できたからか。夜光との生活に一旦区切りがついても、彼はまだ『陸翔』として扱ってくれている。
呉羽との生活が、きちんとまっとうしたとしても。そのあとの約束をしてくれたのだ。これ以上にない、恩だと。涙が出そうになったが、我慢した。
かわりに、『弟子の卒業』として。柘榴からコツを聞いていたが実行するのは初めてだった、『無詠唱での宝石料理』を創造したのだ。
夜光が陸翔へ最初に調理してくれた、『蒼い箱寿司』を。うまく出来たのを目にしてくれた夜光は、『いただくよ』と微笑んで手づかみで口にしてくれた。
特に効能は出なかったが、今までの修行時代の中では一番の笑顔を浮かべてくれたため。『陸翔』としての役目は終わったとこれで受け入れられた。
『ゾンビ』は『人間』に戻ったのである。
次回はまた明日〜




