第84話 研修最後の『宝石料理』(真紅のオムライス)
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柘榴は、今研修では『最後』の宝石料理を調理していた。両親たちの前で、『最初で最後』のそれを作るために。既にふたりとも、冥府の官吏ではあるものの。母は妹を『異例の出産』で現世へ送り出すための準備をする。
本来必要ではなくとも、柘榴も準備が整えば不知火の秘術で呉羽たちと黄泉返りされるのだが。その前に、ふたりには食べてもらいたかった。父親の方は瞬間的でも『飲みもの』のみ。母については、一度も夜光のも含めて一切口にしていない。
それなら、と夜光が提案してくれたのだ。黄泉返りで紅霊石の効力がどれだけ半減するかは、秘術との適合具合に左右される。しかし、今なら最大級の力が付与される。ならば、いずれ出会う『椿姫』にも石の力を繋いでおくと、現世での生活がどれだけ快適になるか。不知火が肉体を持ち、育児に協力してくれても実姉の力が大きく加わっていた方がいい。
不知火の許可も得て、かつ宝石料理と言えばとなり。創るのは『真っ赤なオムライス』。無詠唱と石のみで作るのではなく、陸翔が創り出したように通常の材料と併せて作ってみようと。それには、呉羽も手伝ってくれることに。
指導者は、ひょっとしたら最後かもしれないので、夜光が厨房に来てくれることになった。貫はまだ彩葉から両親らと話し合う必要があると、ホールの方にいる。おそらく、現世に戻ったときの居候先などについてかもしれない。
現世では、柘榴の『家』は事実上ない。マンションの契約等も、浅葱らが法に触れない程度に解約は済ませていたらしい。刻牙の息がかかっているために、後始末も含めるとそうするしかなかったそうだ。家財道具も、使用可能なものだけは心霊課に保管されているため、すべて喪ってはいない。そこについては、少し安心は出来た。そういう意味で、何故『絵本』だけは狭間に持ってこれたかわからないが。
その本は、今母たちが久しぶりに読んでくれている。次があるかわからないため、父もいっしょに読んでいるそうだ。
「うっわ~……真っ赤っか。トマトオンリーの色みたい~?」
呉羽は夜光が魔法で加工した石を『割っていた』。卵のようにしてくれていたので、中身は真紅の黄身とうっすらピンクの白身と言う異色の食材。初見の人間には、ゲテモノにも見えがちなそれだが原材料が『宝石』なために輝きが凄いのだ。
「ケチャップライスは、濃いとかきらきら以外は普通だよね……」
魔法を織り交ぜながら、柘榴はケチャップライスを作っていた。アニメとかゲームのモーションで見るような、この新鮮な技術がひょっとしたら最後かもしれないのは勿体ない気はするが。貫たちと現実でちゃんと『生活』し直すことを選んだからには、彼に聞きつつこの店に訪れることはあっても。
普段は、ごく普通の女子高生の生活に戻る。転校や復学については、さすがに家の事情が大きく変わるので、環境も大きく変動するのは仕方がない。呉羽もそこは同じなので、閻魔大王や神々による『歴史修正の禁術』が行使されることのデメリットは受け入れる必要がある。
けれど、お互いに大好きな存在が傍に居てくれるのだから。多少の環境の変化は既に覚悟している。多少で、片づけられないそれではあっても、結果的には同じなので。普通の同級生から『親友になろう』と決めた柘榴と呉羽は、それでいいと承諾していた。
「卵の部分は、そう……呉羽くん、いい具合だ。魔法の調整では、そこはしない方がいいからね」
「なる~。あたし、結局使えなかったし」
神か冥府の閻魔からの制限のせいか、呉羽は結局一切魔法が使えないままだった。それでも、ここでの生活と陸翔との未来が確定しているからか。あまり気にしないで、宝石料理の工程に加わるのを楽しんでいた。
柘榴の担当も出来上がれば、陸翔が創ったそれとほぼ同じ仕上がりになれた。二人分どころか、途中は流石に夜光も魔法で創ってくれたため、参加者全員分の食事が出来上がったのである。
次回はまた明日〜




