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第83話 とある流れ人の独り言

お待たせ致しましたー

 それは、柘榴(ざくろ)の傍にずっと寄り添っていた。


 (いずる)のように、恋情などは持ち合わせていない。ただただ、これ以上『流れ人』が付け狙われたりしないように、力を貸していただけだ。不知火(しらぬい)くらいは感知していただろうが。見逃していたのか、単に己の術が隠蔽工作に長けていただけなのか。


 どちらにしても、これで必要以上に流れ人が利用されないことが確定していたため、安堵に似た気持ちを持てたのが嬉しい。



(これで、やっと逝ける)



 何百年、世に揺蕩っていただろうか。不知火の血をそこそこ多く継いでいため、肉体が滅んでも魂魄の存在感が強すぎて冥府に旅立てないでいた。ならば、その力を利用して桃世(ももよ)の夢路に潜り込み、あの記憶を植え付けた。


 正確には、こちらが実際体験した記憶に過ぎない。夜光(やこう)陸翔(りくと)の営業がまだぎこちない頃だろうか。数回目の客の一人として、『宝石料理』を口にすることが出来た。迷い人としてなので、その時の状態では冥府に旅立てなかったが。


 代わりに、子孫でもある柘榴らへその適合を受け継がせることが可能となった。そのため、柘榴の魔法適性は非常に高い。黄泉返りが出来ても、そこは不知火がおそらく残すことだろう。


 あの刻牙(こくが)に似た犯罪集団は、まだ世界を通じてどこにでもいるのだ。今回は、『荒神』に関していただけなので日本が舞台となっただけ。


 まだこの先、試練はいくらでもあるだろう。それでも、束の間の幸せを過ごせるのならば。自分はもう役目を終えたし、力もそろそろ尽きてきた。逝くのは今だ、と昇華への術を展開しようとしたところ。



【哀しいね? あなたにもずっと助けられていたとは】



 魂魄のかけらだろうが、『夜光』があの犬の姿で出てきた。本体は彼らと談笑しているので、意識の一部を切り取ったのだろう。神の一端を取り込んでいるのだから、それくらい容易い。つい、久方ぶりの再会に口の部分が緩んだ気がした。



【そうだね。……僕の独りよがりかもしれない。けど、望めるなら次の子どもたちが哀しむ姿を見たくなかったんだ】



 叶うなら、先程桃世が口にしていた『柘榴の妹』とやらに転生してみたいところだが。その願いが叶っても、個体としては別物。魂がそのままなんて二度とあり得ない。それは輪廻転生のメリットのようでデメリット。守護霊のように傍に居ても、彼女は一度も気づかなかった。


 けど、それはそれでいいのだとこの犬に最後に出会えたから、善しと思える。


 軽くため息を吐くと、夜光は尻尾を狩るう振っていた。。



【けど、それはそれで昇天すべきではないでしょうな。あなたの役割とその願い、まだ終わってはいない】



 と言いながら、魔法で出したのは『赤いオムライス』。柘榴があの店で最初に口にして、自分も最初に口にした懐かしい料理。これを、食べてどうしろとか言いたかったが。抗えない本能とやらが、添えられていたスプーンを手にしていて。気が付いたら食べ終えて、魂魄がどこかへと転送されていくのがわかった。


 その先は、桃世の腹部の奥だった。

次回はまた明日〜

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