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第72話 只々、それは望む

お待たせ致しましたー

 足掻きだけだと、蔑まれたっていい。


 認めてもらいたいだけの、ダダ子だと罵られてもいいのだ。只々、切望していただけに過ぎなくとも。一度でいいから叶えたい願いでしかない。


 幾億年望んでも、機会が得られなかった。どれほど手を尽くしても、犠牲を多く出しても叶わないのならば。やり尽くすまでと行き着いた今回の(くだん)の経緯。


 弊害は多く生じたものの、最終段階までは阻まれていない。重力の負荷を酷く感じる、今の肉体を捨てたいがここで脱ぎ捨てても意味がないのだ。引きずるように動かし、魔術や魔法がうまく発動しないのであれば原動力である封印の部屋へ向かえばいい。


 あそこでいくらか修復が可能となれば、この肉体を捨て置いても転身はいくらでも替えが利く。素材となった子どもを確保出来れば、さらに美しく強きそれが精製出来ただろうに。確保が叶わない今となっては最終目標の仕上げが優先だ。


 辿り着けば、ポットに納めておいた『特別な個体』が稀少石らを凝縮させた液体の中に沈めてある。あれを解き放つのは、肝心の『魂魄』を探し当ててからだと目標は定めていたものの。己の魂魄すら危うい今となっては、成り代わるしかない。


 ポットに触れようと、なんとか手を伸ばしていったのだが。あと少しのところで、上から深紅のボール状の光が降ってきた。そのまま、ポットに触れた瞬間。



『あ゛あああああ゛ああああぁあああああ!!?』



 光は魔術か魔法の攻撃だったのだろう。ポットをそのまま破壊しただけでなく、中の精製物どころか。今から宿ろうとしていた『母の肉体』そのものを蒸発するかのごとく、破壊したのだ。


 爆破させ、蒸発させたあとには何も残らない。これでは、成り代わって魂魄を探索することすら不可能ではないか。せめて、とはるか昔に保護していた母そのものを。何が壊したというのか。あの裏切り者の気配は一切しなかったのに、誰が。混乱し過ぎて、残滓による気配察知が出来ないでいたが。


 すぐに、正体が摑めた。あちらから出向いてくれたのか、分霊体であれ『流れ人』本人がケタケタ笑いながら出てきたのだから。



『ワレぇ? こんな、抜け殻大事にしてたとはなあ? ……俺をこんなんにした、張本人の抜け殻使って……まさか、『堕神』にさせようとしてたのか?』



 不知火(しらぬい)。素材の始まり。母が無理くり創り上げたそれが、数万年の流れでここに出てきた。所謂、血の繋がりが多少あるために『義兄弟』のような関係性はあるのだが。奴にとって、母の肉体は『気色が悪い』ものでしかないのだろう。血の繋がりはあろうが、神の一端となった不知火にとって。己を人間どころか神にもなり切れない存在にした女が憎いのか。


 肉親に近い者を殺すのに、躊躇いはないらしい。こちらの気持ちを総じて気にしないのは、こちらが奴にとっての身内の多くに危害を加えたからだろう。子孫の種を無理に搾取し、素材の培養をしただけの一族に用はない。


 ただただ、生き永らえているだけの存在となった創造主を憎むのみ。なのに、何故そんなにも愉しげなのか。理解出来ないこちらの気も知らずに、不知火は手にしていた最上級の紅霊石(こうれいせき)をこちらに向けた。


 たまらずに、手が伸びても動きにく肉体では奪うことは出来ない。それに、あの体制と分霊体で侵入してきたということは。まさか、と口は声が出ずにぱくぱく動くだけだったが。


 不知火は読み取ったのか、気持ちがいいくらいいい笑顔になっていた。



『あ? ここ壊すだけだぜ? 俺の孫たちにも蔑ろな扱いしまくったんだ。俺たちに因縁強いこの石……柘榴(ざくろ)の親友に宿ってた最上級のこいつを、爆弾代わりにしてここを破壊し尽くしてやる。あの女の残滓すら残さねぇ……お前も、魂魄だけは閻魔に裁かれろ。どーせ、無間地獄でもすまねぇとこ行きだがな?』

『そ……な……!』



 こんな、呆気なく。そんな終わり方を迎えていいのか。


 どこから間違っていたのか。柘榴と個体名があるだけの、不知火の血を濃く受け継いだ幼女を攫いかけたときから狂ったのか。菅公(かんこう)の一端を取り込んだ、あの犬畜生に横取りされたところからか。


 どちらにせよ、負けは負けでしかない。億年に近い年月をかけてまで、『堕神』と言う形で母を復活させようとした計画は。ここで潰えてしまうのか。


 反論しようにも、今の肉体に蝕んでいた術の効力が最高潮に達したのか。砂粒のように崩壊が始まり、剥きだしになった魂魄自体は。近づいてきた気配でわかったが、どこからか侵入してきていた心霊課の人間に寄り確保されてしまったのだった。



「……刻牙、首領格。『姑獲鳥(うぶめ)』……これにて、裁きの門へと送迎する」



 稀少石でも、向こうが確保していた紅霊石を使用したのか。抵抗できない魔力によって姑獲鳥と呼称された魂魄は冥府へと強制的に転送されてしまった。


 意識に似た自我が整ったときには、想像以上阿修羅の形相でしかない巨漢の王に。問答無用で最凶の血の底へと堕とされただけに終わるかと思えば。これまで犠牲にしてきた数々の魂魄が悪鬼となった幻覚がまとわりつく。永劫の地獄空間で、それを無謀な時空をかけて味わわされるしかなかった。

次回はまた明日〜

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